鳩の縛め〜森の中から家に帰れという課題を与えられて彷徨っていたけど、可愛い男の子を拾ったのでおねしょたハッピーライフを送りたい~

ベンゼン環P

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第四章 巣立ち

第四十七話 砂時計 47 4-8-3/3 148

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 「あのね、クイはナガレが将来的には究極の自由の場所になるだろうって言ってた。そしたらきっとキリとも何も弊害なく暮らせるんじゃないかって思ったの」
 先ほどは一蹴されてしまった言葉を口に出し、上目遣いにサイを見る。
 件のサイは口をあんぐり開けて、動けなくなってしまっているようだ。
「サイ?」
 ユミの呼びかけにサイはびくっと肩を跳ね上げ、切り替える様にぶるぶると首を振った。
 そしてようやく言葉を紡ぐ。
 
「お前それ本気で言ってんのか?」
 憐みにも似た口調だ。
「え?」
 ユミは首を傾げる。
「私本気だよ? 昨日キリと会って分かった。会うだけじゃ足りないって!」
「そこじゃねぇよ!」
 サイは眼を凝らすように眉間にしわを寄せ、ぐぐっとユミへ顔を近づけた。そしてユミの顎を持ち上げる。
「……お前本当にユミか?」
「にゃ、にゃに?」
「うん。間違いなくユミだな」
 サイは満足げに顎を放してやる。
「何で認証されたの?」
 サイはそれには答えない。

「ナガレで自由に暮らせるわけがねぇだろ!」
 サイは右手で握りこぶしを作り、ユミの頭をこつんと叩く。言葉の勢いに反してとてもやさしいげんこつだった。
「あそこにはやべぇ奴らがいるんだろ? そいつらの眼を搔い潜ってキリとどうやって暮らすってんだ」
「で、でも。あそこの人達も生きるのに必死なんだし、外から食料やら素材やら持ち込んだら喜んでくれると思う。それに文を誰かに届けたいと思ってる人もいるんじゃないかな? そうやって力になってあげればきっと私達のことも無下にできない――」
「うるせぇ! もっと単純に考えろってんだ!」
 サイは自身の側頭部にとんとんと人差し指を当てる。
 
「いいか? 私はバカだが、その分奴らと近い思考ができる! 物事は複雑に考えるほど真理から遠のいていくもんなんだよ」
 ユミは気圧されながらも、確かにこれまでのサイの言葉は単純で理解しやすいものだと思い至る。
「ユミ。お前はソラのことを可愛い可愛いと言うが、お前も十分可愛いんだぞ? 私だって食べてやりたいぐらいだ。ナガレの奴らがほっとくわけねぇだろ!」
「そ、その時はキリがそいつらのことぶっ飛ばしてくれるよ。これは単純な話でしょ?」
 サイは大きくはぁとため息をついた。
「キリの姿は昨日初めて見たが、それが出来るとはとても思えんな。単純の意味をはき違えてんじゃねぇよ……」
 キリを貶されたような気もしたが、ユミとしてもナガレの烏相手にキリを立ち回らせるのは不本意だと思った。

「私がクイの交渉に期待しているのは、アイをナガレに住まわすと了承させることだけだ。クイはその後ナガレを拠点に何かやろうとしてるんだろうが、烏達はどうせ理解できんぞ」
「確かに、そうかも……」
 ユミも納得せざるを得なかった。
 
「でも良かったかも」
「何がだ?」
「あの覚書、もりすって書かれた奴。あれはクイからのものだったし、誰かが私の力を我が物にしようかと考えてるんじゃないかって、思ってたけど杞憂だったね」
 ユミの安堵を伝えるための言葉だったが、サイはぱちぱちと眼を瞬かせる。
「お前覚えてるか? 覚えてるんだろうけど。お前がもりすについて話してくれた時、得体の知れない奴の言いなりになるなって言ったよな?」
「あ……」
 ユミはことの重大さに気づく。
「その得体の知れない奴の正体が、クイだったってだけのことだぞ?」
 ユミはキリに再会するため、クイの手引きに従っていた。その時点においても、クイとはお互いに利用し合う関係だと割り切っていたところがある。
 しかし蓋を開けてみれば、クイの導き出した方法は碌でもないものだったのだ。
 それに気づかず、唆されるまま行動していたと考えるとぞっとする。

「クイは、鳩の偉い人がイイバを支配しようとしているんじゃないかって疑っていたことがある……」
 ユミは身を震わしながら、声を絞り出した。
「ふん。クイ自身にその願望があったってことじゃねぇの?」
「うう……」
 ユミに悔しい気持ちが押し寄せる。
「気にすんなユミ。さっきも言ったように悪いのはクイだ」
「ありがとう、サイ」
 今度はユミからサイの胸元に向かって抱き着いた。サイはその頭を優しく撫でる。
 
「それにしてもむかつくなぁ、義兄さんの奴……」
「え? トキ教官のこと?」
 ユミは意外そうにサイの顔を仰いだ。
「クイの協力者だったんだろ。姉さんの為だって思って従ってたんだろうけど、それをやって義兄さんは満足なのか? ユミには自分の為に行動しろって諭してたくせにさ」
「確かに……、ちょっと、腹立ってきた」
 サイに纏わらせている腕の力が強くなる。

「いいぞ、ユミ。その意気だ。必ず帰って義兄さんをぶっ飛ばしてやろうぜ!」
「うん!」
 ユミは飛びっきりの笑顔を見せた。
 
「ユミ。その笑顔はやめとけ。ぶん殴りたくなる」
「あ……、確かにそうだね」
 ユミは慌てて顔をこねくり回す。

「そう言えば、砂時計全然ひっくり返してないね」
「まあ、今からでもいいんじゃないか? どうせクイの緊迫した時間が長くなるだけだ」
「それもそうだね」
 ユミは穏やかに笑顔を湛えて見せた。
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