149 / 181
第四章 巣立ち
第四十七話 砂時計 47 4-8-3/3 148
しおりを挟む
「あのね、クイはナガレが将来的には究極の自由の場所になるだろうって言ってた。そしたらきっとキリとも何も弊害なく暮らせるんじゃないかって思ったの」
先ほどは一蹴されてしまった言葉を口に出し、上目遣いにサイを見る。
件のサイは口をあんぐり開けて、動けなくなってしまっているようだ。
「サイ?」
ユミの呼びかけにサイはびくっと肩を跳ね上げ、切り替える様にぶるぶると首を振った。
そしてようやく言葉を紡ぐ。
「お前それ本気で言ってんのか?」
憐みにも似た口調だ。
「え?」
ユミは首を傾げる。
「私本気だよ? 昨日キリと会って分かった。会うだけじゃ足りないって!」
「そこじゃねぇよ!」
サイは眼を凝らすように眉間にしわを寄せ、ぐぐっとユミへ顔を近づけた。そしてユミの顎を持ち上げる。
「……お前本当にユミか?」
「にゃ、にゃに?」
「うん。間違いなくユミだな」
サイは満足げに顎を放してやる。
「何で認証されたの?」
サイはそれには答えない。
「ナガレで自由に暮らせるわけがねぇだろ!」
サイは右手で握りこぶしを作り、ユミの頭をこつんと叩く。言葉の勢いに反してとてもやさしいげんこつだった。
「あそこにはやべぇ奴らがいるんだろ? そいつらの眼を搔い潜ってキリとどうやって暮らすってんだ」
「で、でも。あそこの人達も生きるのに必死なんだし、外から食料やら素材やら持ち込んだら喜んでくれると思う。それに文を誰かに届けたいと思ってる人もいるんじゃないかな? そうやって力になってあげればきっと私達のことも無下にできない――」
「うるせぇ! もっと単純に考えろってんだ!」
サイは自身の側頭部にとんとんと人差し指を当てる。
「いいか? 私はバカだが、その分奴らと近い思考ができる! 物事は複雑に考えるほど真理から遠のいていくもんなんだよ」
ユミは気圧されながらも、確かにこれまでのサイの言葉は単純で理解しやすいものだと思い至る。
「ユミ。お前はソラのことを可愛い可愛いと言うが、お前も十分可愛いんだぞ? 私だって食べてやりたいぐらいだ。ナガレの奴らがほっとくわけねぇだろ!」
「そ、その時はキリがそいつらのことぶっ飛ばしてくれるよ。これは単純な話でしょ?」
サイは大きくはぁとため息をついた。
「キリの姿は昨日初めて見たが、それが出来るとはとても思えんな。単純の意味をはき違えてんじゃねぇよ……」
キリを貶されたような気もしたが、ユミとしてもナガレの烏相手にキリを立ち回らせるのは不本意だと思った。
「私がクイの交渉に期待しているのは、アイをナガレに住まわすと了承させることだけだ。クイはその後ナガレを拠点に何かやろうとしてるんだろうが、烏達はどうせ理解できんぞ」
「確かに、そうかも……」
ユミも納得せざるを得なかった。
「でも良かったかも」
「何がだ?」
「あの覚書、もりすって書かれた奴。あれはクイからのものだったし、誰かが私の力を我が物にしようかと考えてるんじゃないかって、思ってたけど杞憂だったね」
ユミの安堵を伝えるための言葉だったが、サイはぱちぱちと眼を瞬かせる。
「お前覚えてるか? 覚えてるんだろうけど。お前がもりすについて話してくれた時、得体の知れない奴の言いなりになるなって言ったよな?」
「あ……」
ユミはことの重大さに気づく。
「その得体の知れない奴の正体が、クイだったってだけのことだぞ?」
ユミはキリに再会するため、クイの手引きに従っていた。その時点においても、クイとはお互いに利用し合う関係だと割り切っていたところがある。
しかし蓋を開けてみれば、クイの導き出した方法は碌でもないものだったのだ。
それに気づかず、唆されるまま行動していたと考えるとぞっとする。
「クイは、鳩の偉い人がイイバを支配しようとしているんじゃないかって疑っていたことがある……」
ユミは身を震わしながら、声を絞り出した。
「ふん。クイ自身にその願望があったってことじゃねぇの?」
「うう……」
ユミに悔しい気持ちが押し寄せる。
「気にすんなユミ。さっきも言ったように悪いのはクイだ」
「ありがとう、サイ」
今度はユミからサイの胸元に向かって抱き着いた。サイはその頭を優しく撫でる。
「それにしてもむかつくなぁ、義兄さんの奴……」
「え? トキ教官のこと?」
ユミは意外そうにサイの顔を仰いだ。
「クイの協力者だったんだろ。姉さんの為だって思って従ってたんだろうけど、それをやって義兄さんは満足なのか? ユミには自分の為に行動しろって諭してたくせにさ」
「確かに……、ちょっと、腹立ってきた」
サイに纏わらせている腕の力が強くなる。
「いいぞ、ユミ。その意気だ。必ず帰って義兄さんをぶっ飛ばしてやろうぜ!」
「うん!」
ユミは飛びっきりの笑顔を見せた。
「ユミ。その笑顔はやめとけ。ぶん殴りたくなる」
「あ……、確かにそうだね」
ユミは慌てて顔をこねくり回す。
「そう言えば、砂時計全然ひっくり返してないね」
「まあ、今からでもいいんじゃないか? どうせクイの緊迫した時間が長くなるだけだ」
「それもそうだね」
ユミは穏やかに笑顔を湛えて見せた。
先ほどは一蹴されてしまった言葉を口に出し、上目遣いにサイを見る。
件のサイは口をあんぐり開けて、動けなくなってしまっているようだ。
「サイ?」
ユミの呼びかけにサイはびくっと肩を跳ね上げ、切り替える様にぶるぶると首を振った。
そしてようやく言葉を紡ぐ。
「お前それ本気で言ってんのか?」
憐みにも似た口調だ。
「え?」
ユミは首を傾げる。
「私本気だよ? 昨日キリと会って分かった。会うだけじゃ足りないって!」
「そこじゃねぇよ!」
サイは眼を凝らすように眉間にしわを寄せ、ぐぐっとユミへ顔を近づけた。そしてユミの顎を持ち上げる。
「……お前本当にユミか?」
「にゃ、にゃに?」
「うん。間違いなくユミだな」
サイは満足げに顎を放してやる。
「何で認証されたの?」
サイはそれには答えない。
「ナガレで自由に暮らせるわけがねぇだろ!」
サイは右手で握りこぶしを作り、ユミの頭をこつんと叩く。言葉の勢いに反してとてもやさしいげんこつだった。
「あそこにはやべぇ奴らがいるんだろ? そいつらの眼を搔い潜ってキリとどうやって暮らすってんだ」
「で、でも。あそこの人達も生きるのに必死なんだし、外から食料やら素材やら持ち込んだら喜んでくれると思う。それに文を誰かに届けたいと思ってる人もいるんじゃないかな? そうやって力になってあげればきっと私達のことも無下にできない――」
「うるせぇ! もっと単純に考えろってんだ!」
サイは自身の側頭部にとんとんと人差し指を当てる。
「いいか? 私はバカだが、その分奴らと近い思考ができる! 物事は複雑に考えるほど真理から遠のいていくもんなんだよ」
ユミは気圧されながらも、確かにこれまでのサイの言葉は単純で理解しやすいものだと思い至る。
「ユミ。お前はソラのことを可愛い可愛いと言うが、お前も十分可愛いんだぞ? 私だって食べてやりたいぐらいだ。ナガレの奴らがほっとくわけねぇだろ!」
「そ、その時はキリがそいつらのことぶっ飛ばしてくれるよ。これは単純な話でしょ?」
サイは大きくはぁとため息をついた。
「キリの姿は昨日初めて見たが、それが出来るとはとても思えんな。単純の意味をはき違えてんじゃねぇよ……」
キリを貶されたような気もしたが、ユミとしてもナガレの烏相手にキリを立ち回らせるのは不本意だと思った。
「私がクイの交渉に期待しているのは、アイをナガレに住まわすと了承させることだけだ。クイはその後ナガレを拠点に何かやろうとしてるんだろうが、烏達はどうせ理解できんぞ」
「確かに、そうかも……」
ユミも納得せざるを得なかった。
「でも良かったかも」
「何がだ?」
「あの覚書、もりすって書かれた奴。あれはクイからのものだったし、誰かが私の力を我が物にしようかと考えてるんじゃないかって、思ってたけど杞憂だったね」
ユミの安堵を伝えるための言葉だったが、サイはぱちぱちと眼を瞬かせる。
「お前覚えてるか? 覚えてるんだろうけど。お前がもりすについて話してくれた時、得体の知れない奴の言いなりになるなって言ったよな?」
「あ……」
ユミはことの重大さに気づく。
「その得体の知れない奴の正体が、クイだったってだけのことだぞ?」
ユミはキリに再会するため、クイの手引きに従っていた。その時点においても、クイとはお互いに利用し合う関係だと割り切っていたところがある。
しかし蓋を開けてみれば、クイの導き出した方法は碌でもないものだったのだ。
それに気づかず、唆されるまま行動していたと考えるとぞっとする。
「クイは、鳩の偉い人がイイバを支配しようとしているんじゃないかって疑っていたことがある……」
ユミは身を震わしながら、声を絞り出した。
「ふん。クイ自身にその願望があったってことじゃねぇの?」
「うう……」
ユミに悔しい気持ちが押し寄せる。
「気にすんなユミ。さっきも言ったように悪いのはクイだ」
「ありがとう、サイ」
今度はユミからサイの胸元に向かって抱き着いた。サイはその頭を優しく撫でる。
「それにしてもむかつくなぁ、義兄さんの奴……」
「え? トキ教官のこと?」
ユミは意外そうにサイの顔を仰いだ。
「クイの協力者だったんだろ。姉さんの為だって思って従ってたんだろうけど、それをやって義兄さんは満足なのか? ユミには自分の為に行動しろって諭してたくせにさ」
「確かに……、ちょっと、腹立ってきた」
サイに纏わらせている腕の力が強くなる。
「いいぞ、ユミ。その意気だ。必ず帰って義兄さんをぶっ飛ばしてやろうぜ!」
「うん!」
ユミは飛びっきりの笑顔を見せた。
「ユミ。その笑顔はやめとけ。ぶん殴りたくなる」
「あ……、確かにそうだね」
ユミは慌てて顔をこねくり回す。
「そう言えば、砂時計全然ひっくり返してないね」
「まあ、今からでもいいんじゃないか? どうせクイの緊迫した時間が長くなるだけだ」
「それもそうだね」
ユミは穏やかに笑顔を湛えて見せた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる