鳩の縛め〜森の中から家に帰れという課題を与えられて彷徨っていたけど、可愛い男の子を拾ったのでおねしょたハッピーライフを送りたい~

ベンゼン環P

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第四章 巣立ち

第五十一話 手加減 51 4-12-1/3 162

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「私は欲張り過ぎていたのかもしれません。到底私の手に負えることではないだろうに、まるで世界全域を見据えたような野望などよく抱いたものです」
 クイは感慨深げに呟いた。
「まあ、俺もあんたの思いを全て否定するつもりはない。ただやり過ぎんなよとは言いたい」
 アサの言葉がクイの胸にちくりと刺さる。

 ユミに話を聞かせようと、茶を飲ませ森へ連れ出したことは明らかにやりすぎだったと言えるだろう。
 無理やりにでも話を聞かせることがユミのためになると考えていた。否、信じようとしていた。
 幸いにもユミは気丈だったが、少なからず森に不安を覚えていたはずだ。
 心からユミのためを思うのなら、行動に移すべきではなかった。

 改めてトキの言葉について考えてみる。
 ――他人のための行動というのは、殊勝な心がけのようで、自身の責任から逃れようという意識が働いている。
 
 クイの場合、自身の責任から目を背けたため、行動に歯止めが利かなくなっていたと言える。
 逆説的にクイが自身の目的に向き合うことで、本当の意味でユミのための行動をしていたはずだ。
 クイの目的は自由な世界を作ることにあり、それにはユミの協力が不可欠だ。ユミの顰蹙ひんしゅくを買う行動は逆効果だと言わざるを得ない。

「あの……、ケンさん。1度ユミさんに会って、お話を聞いては頂けないでしょうか」
 腕を組み、不動を貫いていたケンの顔色を伺う。
「アイさんをナガレに連れてくることには、様々な意味を持つことが分かりました。自由な世界の足掛かりにしようなどとは、あまりに大それたことだったと感じています。しかしユミさんは、ただキリさんとの平穏な時間が欲しいだけなのです」
 クイ自身のために、ユミの信頼を取り戻す。
 自由な世界がやり過ぎた展望であるのならば、まずは手の及ぶ範囲で願いを叶える。
 クイに今できることを成すまでだった。

「そう、だな。カラはラシノからの去り際、ガキのことを頼むと言っていたんだ。アイのせいでガキが痛い目にあってんなら、いい加減カラも愛想つかすだろう……」
 ケンは自らを納得させるように呟いた。
「会ってやろう、その――」
「ユミさんですよ。一度ぐらい名前を呼んで上げてください」
「でもあいつ、オレのことえらく嫌ってたしな……。名前呼ばれるの嫌がるんじゃないか?」
 ケンは悲しげに眉を垂らす。それは6年前にナガレを立ち去る際、ユミに冷たくあしらわれた時の表情とよく似ている。
「……残念ながらそれはそうかもしれません。ですがこのままではユミさんからケンさんに話かけることもないでしょう。どちらかが歩みよらなくてはならないのです」
 そりの合わない相手であっても、鳩として意思疎通を図ろうしてきたという自負がクイにはある。
 ケンも元は鳩なのだ。曲がりなりにも人と人とを繋げてきた彼なら分かってくれるはずだ。そんな期待を胸にじっと眼を見つめた。
「……善処する」
「ええ、それで充分です。ユミさんを呼んできますよ」
 クイはその場で立ち上がる。
 
「ユミくんは傍まで来てるんだったよな? こんなところに女の子待たせて大丈夫だったのかい?」
 アサの懸念は尤もである。
「そうですね。堅牢な護衛が一緒なので滅多なことは起こらないだろうとは思っておりますが……」
 とは言ったものの、嫌な予感がよぎる。
「……とうに1刻は過ぎているはずなんですが」
 砂時計を20回ひっくり返しても戻ってこなかったら、様子を見に来るように頼んであったのだ。
 それがないということは、何かいざこざに巻き込まれているのではないだろうか。

「俺らも行こう」
 クイの不安を察した様子でアサは立ち上がった。そしてケンにも目配せする。
「そう、だな」
 ケンは重い腰を持ち上げた。
 
 2人の言動に感謝を覚えながらこくりと頷いて見せると、クイは部屋の玄関口へと振り返り先陣を切って歩き出した。
 土間で履物に足を通し、引き戸へと手をかける。しかし例のごとく滑りが悪いようだ。
 抵抗を感じながらも腰に力を入れて勢いよく戸を開け放った。

 クイの前に烏達の姿があらわになる。クイらの話し合いが終わるまでずっと待っていたようだ。
 しかしその数が増えている。部屋から出した時には7名ほどだったはずだが、今ではその倍の人数が控えていた。

「あ、あなた達……」
 クイの背筋に緊張が走る。
 元々はアサとケンとの交渉の後ろ盾のために集めたものだった。結果からすると全く必要なかったのだが。
 今では後ろ盾どころか、後ろから刺す存在だとさえ言えよう。
 
「どうなった? マイハに連れて行ってくれんのか?」
 最前に佇む大柄の男が口を開いた。
 烏の頭にはもはやそれしかないのだろうか。
 一瞬呆れるクイだったが、自身の蒔いた種である。
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