Fu✕k!F◯ck!Rock!!!

くらえっ!生命保険ビーム!!

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RainCode

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「良いね良いね、青春だね!」

わっと豪快に笑う六々を
他所に置いておく。

「TL買ったとき何も言わなかったろ!」

「私は初めて合ったときから
 エレキギターだったじゃないですか!」

流石のコミュニケーション不足。
というよりは激動の日々すぎて
確認する暇がなかったがゆえ、と信じたい。

「っていうかお前、ベースひけんだろ?
 俺はギター1本だったからひけねぇんだよ!」

信仰Rockに不可能はありません!
 ベースなら私がお教えしますから!」

「なんでだよ!?二度手間じゃねぇか!」

「せっかくならど真ん中で演りたいんですよ!」

こいつ、恥も外聞もなく!
と吐き捨てる事は出来ない。
目立ちたがりやRockerってのはどうにも
性に逆らえはしない。

「まぁまぁまぁ。落ち着きなよ。」

突き合わせる顔と顔の間を割って入るように
六々はぐんと歩を進める。

「どっちも譲るつもりはないんだよね?」

その言葉にシスターは力強く頷く。
解を促すように六々から向けられる瞳に
真っ直ぐと解を突きつける。

「俺も、ど真ん中で演りたいです!」

「よし来た!」

その言葉だけを残して、六々はバッと踵を返す。
勢いそのままにスタコラサッサと階段を駆け上り
一息を置いてまた駆け下りてくる。

「六々ちゃん、それは?」

シスターが疑念をていしたのは
その細身の指先でつままれた数枚の紙束。
だが、言われるまでもなく見覚えがあった。
シスターの「それは?」という言葉は
それら全てを踏まえた上でのもの。

「勿論楽譜さ。
 ステージで立つってんなら、
 演る曲も決めておかないとね。」

見慣れた五線譜にちりばめられた
いくつもの音符、記号。
だがもっとも目を引くのは
それらの紙に記された唯一といいって文字。

「RainCode?」

口にしたそれは、タイトル。
その曲を意義付けるものであり、意味づけるもの。

「あぁ、存じております!
 確か一月前程から流行している曲ですよね。」

「タイトルだけじゃどうにも。
 …俺は知らないかもな。」

試しに液晶版に文字を打ち込んでみれば
それは、やすやすと答えを示した。

「あぁ!聞いたことある!」

携帯から流れ出た音源は
職場でこうはいから聞かされた曲。
飯時にオススメとしてきいたのが最初で最後だったが不思議と歌詞が薄れてはいなかった。

「集客目的ってんなら、
 皆が知って、ノリが良い曲じゃあないとね。」

確かに、皆が知っている。
それは確かにそうなのだろう。
関連記事を軽く見れば
『異例の大ヒット!』『ランキングを鰻登り!』
などなど目を引くような称賛の言葉が
数折々銘打たれている。


「どちっかって言うと、
 静かめな曲じゃないですか?」

そう、口にするように
この曲は落ち着いている印象がかなり強い。
歌っているのも女性一人で、
バンドの形を採用してはいるものの、
これならばアコースティックギターでも
十分なパフォーマンスなのではないかとさえ思う。

「まぁまぁ、聞いとけばわかるさ。」

そこから音が続く。
静かで、落ち着いた、やはりバンド向きではない
そんな音楽が。
だが、いや、落ち着きすぎじゃないか?
続く曲は、いつまでたってもサビ入りしない。
サビ入りに向けた盛り上がりがない。
どんな曲でも必ずあるサビが、ない。
メイントロはハスキーな声とハミングで十二分
そこに続くAメロも耳障りがよく上々、
そして、ソレ止まり。
聞き入るように耳を傾ける
シスターを尻目に見るが
その顔の本質まではわからない。

1番が終わった。

そうして、2番がはじまる。
曲調は1番とほぼ変わらない。
静かで、落ち着いた、バンド向けではない曲。
それでも何処か腑に落ちない。
平坦に進行していく曲の何処かで躓く。
靴の裏についたガムのように、
それは、一歩進めるごとに
思考に濁りの音を鳴らす。

あぁ、そうだ。

心地良い、というよりは耳が離せない。
サビ、わかりやすい山場はないのに
何故がその曲は常にぼんやりと耳に残る。
印象が強いというわけでもなく、
ただ滲んだ墨を指先で擦り上げるような
そんな感覚。

まるで、何かを待っているような。
何かを望んでしまっているかのような。

そうして、2番が終わる。

数秒の沈黙はない。
爆ぜる。曲調が反転して、荒波を立たせるように。
全身が総毛立つような感覚が堪らない。
鼓膜を貫いて脳に直接電極が差し込まれたように
神経が狂って手が一人でに震える。

んだよ、これ!?

驚愕の言葉する綴ることはままならない。
まるで別曲に移り変わったかのような衝撃。
遠く、沈んでいたバンドの全てを
力ずくで引き釣り上げて叩きつけられたように
アッパーで激情任せな曲が鳴り響く。

布石だった。
あれは、今までのすべては。
妙にリズム感が良く、耳障りの良い音で
なんの気なしに曲を聴き続かせ、
サビがないという誰でもわかる不完全燃焼性を
燻らせたまま抱えさせられていた。
それが、火薬であることさえ知らせずに、
すごい、凄い凄い凄い凄い凄い凄い!
思わず笑みがこぼれてしまう。
高鳴る心臓が体を置いて脳と共振する。

「その様子じゃ気に行ったみたいだね。」

「…はい、凄い曲ですね。」

一つ息を呑んでようやく返せた。
ソレほどまでに衝撃が深かったから。

「これを、できるのか。」

噛み締めて、その言葉を飲み込む。
今ならできる。
寝る間も惜しんで一月全てを振込んでしまいたい。
この興奮は、久しく遠ざけていたもの。

「もしかして、ケイとツインで演る
 ということですか?」

「そうさ!ギターの座をかけて
 2人でバンドバトルって感じさね。」

六々はぐっと親指を立てて
サムズアップを決めこむ。

「ツインなら勝負しなくてもいいんじゃ?」

「まぁ、そうだね。
 2人でやってくって手もあるけど、
 こればっかりは巡り合わせだし、
 一応メインは決めておいた方がいいさ。」

巡り合わせ、その言葉は抽象的だが
これ以上ないほどに具体的でもある。
上手い下手のような次元で会合出来るほど
人間、甘くはない。
目指す理想、やりたいこと、得られるもの
それら全てが一致してはじめて
バンドというものは成立していく。
…もう一つ成立する方法があるとすれば
幼さゆえの勢い任せくらいだろう。

「空いているのは…来月だと27日か。
 圭は希望休出したかい?」

「まだ提出していないですけど
 27…あぁ、火曜日は休業なので
 その日はまったく問題ないですよ。」

これもまた巡り合わせなのだろう。
だが、六々は何処かいじらしく笑って
ひらひらと手を振る。

「なら、28に出しときな。」

「?わ、かりました。」

絶妙な空気を他所に
シスターは自慢のローブを巻くり
軽く肘をまげ細身の腕をブンブンと振る。

「そうと決まれば早速演りましょう!
 ケイに遅れをとるつもりはありませんよ。」

ギターケースを背負い直し、
我先にと歩を進めるシスター。

「ちょ、待てって!
 …轆轤さん、ホントありがとうございます!」

ペコリと一度頭を下げて、
それから小走りでシスターを追いかける。

「頑張るんだよ!」

そんな2人を快い笑顔を浮かべて見送る。
そうして、姿が見えなくなった頃に呟く。

「…巡り合わせ、ね。」

自ら口にしておいて何とも適当な言葉か。
思わずふっと声が漏れてしまうかとも思った。
だからこそ、ポケットの内で振動する
スマートフォンを眺めたとき、声は漏れでた。

「25にはこっちに着く、か。」

無愛想で、気遣いも感じられない
用件だけをまとめた簡素なメッセージ。
余りにも都合が良い。
無神論者であるが、運命論者ではある。
彼らを中心に世界が回り始めた、
そうやすやすと口にできるくらいには
この連絡は僥倖のほかにありえない。

「さて、今月は忙しくなりそうさ。
 ちゃっちゃか事務仕事片付けて、
 来たるべき時を待とうかねぇ。」

軽く腕をブンブンと振って、
階段に足をかけた。

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