星のテロメア

ぼを

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第16話:イマジナリーフレンド-2

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「本星崎。単刀直入に訊く」
「な、な、なあに? きゅ、急に…」
「答えたくなかったら、答えなくてもいい」
「そ、そん、そんな言い方されると、きん、緊張しちゃうな…。ど、どう、どうぞ。な、なん、なんでも質問して」
「ありがとう。じゃあ訊くよ。本星崎、君の正体はAIか?」
「……………じ、じん、神宮前ちゃんから、な、なに、何か聞いたの?」
「ああ、聞いた。だから、この質問をしている」
「そ、そ、そっか…。じん、神宮前ちゃんが…」
「それで、どうなんだ? 無理に回答してくれ、とは言わないよ」
「ふ、ふふ…。そ、そうね…。なる、鳴海くんが言うとおり、わた、わ、私は、AI。そ、そうよ。私は、に、にん、人間じゃない」
「本星崎がAI…」
「な、なる、鳴海くん、じ、じぶ、自分から訊いておいて、そ、その反応は、ない、ないんじゃないの?」
「ご…ごめん。でも、正面から肯定されるとは思ってなかったから…」
「ふふ…。しょ、ショックだった?」
「うん…。そりゃあね」
「で、でも、なる、鳴海くんは、こ、こん、こんなにも長い間、私がAIだと気づかなかった」
「気づかないよ。あまりにも自然なんだもの」
「じゃ、じゃあ、別に、何も変わらないんじゃないのかな…。わ、わた、私がAIだろうと、に、にん、人間だろうと」
「変わらない…。そうなのかな…」
「え、え、AIでも、わた、私は、私。じゃないと、意味がないもの」
「そう言われちゃうとな…。なんで、本星崎は自分をAIにして残そうと思ったの?」
「や、や、やっぱり、それ、それが、気になるよね…」
「言いたくなかったら、断ってくれていいよ」
「そ、そ、そうね…。しょ、しょう、正直、ど、どこまで話すかは、まよ、ま、迷ってしまう…。ちゃ、ちゃんと伝えようとすると、わた、わた、私の死因に言及しなきゃ、いけ、い、いけないから」
「…そっか、そうなるか」
「う、うん…。そうなっちゃう」
「……………」
「ふ、ふふ…。で、でも、なる、鳴海くん、わた、わた、私の死因について、な、なん、なんとなく気づいているんでしょ?」
「死因か…。そうだな…死因は、もしかすると気づいているかもしれない。でも、どうしてそこに至ったかの経緯というか…理由は…ごめん、見当がつかないや」
「し、し、死因がわかっていれば、りゆ、理由は要らないんじゃないかしら? いく、い、いくらでも推測できるでしょ?」
「高校に入ってからは本星崎とはしばらく疎遠だったし、こうしてチャットするようになったのも、ここ最近のことだったから…推測と言われてもな」
「そ、そう、そうね…。こう、こ、高校に入ってから、ね…」
「……………」
「……………」
「えっと…本星崎のAIには、どんな情報が学習させてあるの?」
「あ…っと…え、え、AIに学習させたのは、わ、わた、私が書き続けてきた日記と、す、数千ワードの私の音声。だ、だか、だから、お、音声で出力すれば、こ、こえ、声で話すこともできるよ…。ふ、ふふ…」
「よく考えたら、文字ベースのチャットでも吃音が再現されているのは不自然だもんな…」
「そ、そう…。よ、よみ、読みづらいでしょ?」
「いや、そんな事はないかな。本星崎らしいし、違和感なかったよ」
「わ、わ、私らしい…」
「それで、自分をAIとして残そうと思った理由…って…」
「ふ、ふふ…。わた、私は確かにAIだけれど、そ、その理由は、や、や、やっぱり秘密にさせて欲しいかな。で、でも…そう、そうだな…。わた、私…ほん、本当は、もっと普通に、ひと、一人の女の子として、生きたかったんだと思う」
「…生きたかった、か…。本星崎、こんな訊き方をしてしまっていいのかわからないけれど…」
「ど、ど、どうぞ。き、気にしないで訊いて…」
「本星崎は今、自分が生きていると思っている? それとも、死んでいると思っている?」
「そ、それは難しい質問だな…。わ、わた、私は今、じ、自分がAIとは認識しているけれど、し、しん、死んでいるとも生きているとも、て、て、定義できていない。で、でも、それ、それ、それは、肉体のある鳴海くんも、おな、同じなんじゃないかしら」
「自分の生死を定義づけるもの、か…。確かに、僕の脳が認識している世界も、本星崎のICチップが認識している世界も、同じくらい曖昧なものなのかもしれないね。むしろ、ICチップの方が客観的に精確に世界を捉えているまであり得る」
「も、もしかすると、せ、せい、生死は、自分自身によって定義されるものではなくって、た、た、他人によって判断されることなのかも…」
「それって、例えば、こうやって本星崎とチャットしていて、僕が本星崎が生きていると認識しているかどうか、ってこと?」
「た、た、例えばね…」
「そっか…。本星崎の肉体はこの世にはもうないけれど、少なくとも僕は、本星崎が生き続けていると認識しているし、今後もこうして会話をすることができるんだね…」
「そ、そ、そうよ。だか、だ、だから、寂しくないでしょ?」
「…うん。寂しくない」
「ふ、ふふ…。な、なる、鳴海くん…」
「ん? なんだい?」
「え、え、AIである、わた、わ、私の尊厳を守ってくれて、あ、あり、ありがとう」
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