恋とズレの灯る店——恋を知らない彼が出会ったのは、灯りの奥で待つ「帰れる場所」だった。

だって、これも愛なの。

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第四話 「常連との温度差」

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この店に通い始めて、三週間。
俺の中では、店主と会話を交わすのもずいぶん自然になってきた……と思っていた。

その夜、カウンターに腰を下ろすと、すでに一人先客がいた。
スーツ姿の、落ち着いた雰囲気の男。年は俺より少し上くらいだろうか。
「おつかれさま」
店主が、やわらかくその男に笑いかける。
返された笑顔もまた、やわらかい。

「今日はどうだった?」
「数字とにらめっこでさ。もう頭が固まっちゃってね」
「じゃあ、ほぐさなきゃ」
店主は鍋をあけ、軽やかにスープをすくった。
そのやり取りを、俺は隣の席で聞いていた。

「……知り合いですか」
「うん。常連さんだよ。会計士の」
会計士は俺を見て、にこりと笑う。
「はじめまして。ここの店、数字なんて考えなくても生きていける気がするんですよ」
「……はあ」
俺には理解できない感覚だった。
数字は積み上げてこそ意味がある。
数字を手放すなんて、ありえない。

それでも会計士は、店主と軽く言葉を交わし、時折笑っていた。
肩の力が抜けた、自然な笑顔。
俺が向けられたことのない種類の表情だ、と気づくのに時間はかからなかった。

「はい、どうぞ」
俺の前にも皿が置かれる。
同じスープでも、温度が違う気がするのは……俺の気のせいか。

会計士が帰った後、店主はいつもと変わらない調子で尋ねてきた。
「今日も仕事、忙しかった?」
「……まあ」
短く返して、スープを口に運ぶ。
味は変わらないのに、胸の奥がざわついて落ち着かなかった。
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