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第十四話 「小さな秘密」
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その夜は、いつもよりカウンターが静かだった。
常連の姿はなく、店内には店主と俺だけ。
奥の鍋から、コトコトと煮込む音が響いている。
「ちょっと待ってて」
店主はそう言って、カウンターの下から小さな瓶を取り出した。
中には、濃い色のシロップが入っている。
「これ、まだ誰にも出してないやつ」
「新メニューですか」
「うん。ハーブと果実を漬けてみたんだ。甘いけど、体が温まるよ」
カップに湯を注ぎ、そのシロップを一さじ落とす。
ふわりと広がる香りが、喉の奥まで温めるようだった。
「……確かに、甘い」
「内緒だよ」
店主は人差し指を口元に立て、笑った。
——なぜか、その瞬間、胸の奥がきゅっと縮む。
「……なぜ内緒なんですか」
「なんとなく。特別感あるでしょ」
特別、という言葉がやけに耳に残った。
別に俺だけじゃなくても、そのうち誰かに出すのかもしれない。
でも、今はこの時間が俺だけのものだと思っていたい。
「……もう一杯もらえますか」
「ふふ、気に入った?」
「……味は悪くないです」
わざとそっけなく返しながら、カップを差し出した。
常連の姿はなく、店内には店主と俺だけ。
奥の鍋から、コトコトと煮込む音が響いている。
「ちょっと待ってて」
店主はそう言って、カウンターの下から小さな瓶を取り出した。
中には、濃い色のシロップが入っている。
「これ、まだ誰にも出してないやつ」
「新メニューですか」
「うん。ハーブと果実を漬けてみたんだ。甘いけど、体が温まるよ」
カップに湯を注ぎ、そのシロップを一さじ落とす。
ふわりと広がる香りが、喉の奥まで温めるようだった。
「……確かに、甘い」
「内緒だよ」
店主は人差し指を口元に立て、笑った。
——なぜか、その瞬間、胸の奥がきゅっと縮む。
「……なぜ内緒なんですか」
「なんとなく。特別感あるでしょ」
特別、という言葉がやけに耳に残った。
別に俺だけじゃなくても、そのうち誰かに出すのかもしれない。
でも、今はこの時間が俺だけのものだと思っていたい。
「……もう一杯もらえますか」
「ふふ、気に入った?」
「……味は悪くないです」
わざとそっけなく返しながら、カップを差し出した。
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