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第5章:既成事実づくり大作戦③ ― 長時間滞在!
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昼下がりの図書室。
エドガーが机に向かって二時間――その正面で、クラリッサもまた、涼しい顔で本を広げていた。
(……まだいるのか)
時おりページをめくる音。
だが内容はちっとも頭に入っていない様子で、視線はひそかにこちらへ向いてくる。
その様子を見ていた学友が、ひそひそと囁いた。
「見ろよ、あの様子。二人、まるで婚約者のようじゃないか」
「図書室で三時間も一緒にいるなんて……親密そのものだ」
エドガーの耳に入るその声に、眉がぴくりと動く。
「……ただの偶然だ」
「えっ、何か、おっしゃいました?」
「いや、何でも、ない」
⸻
翌日、訓練場。
剣を振る騎士たちの脇で、クラリッサは日傘を差し、優雅にベンチへ腰かけていた。
「まあ! 奇遇ですわね!」
「……またか」
周囲の騎士たちは、汗を拭きながら目を丸くした。
「ローゼンベルク嬢が毎日のように訓練場に?」
「ハルシュタイン様の婚約者候補だという噂は本当なのかもしれない」
「……いや、違う」
エドガーが否定する間もなく、クラリッサはにっこり笑った。
「けっ健康のための散歩ですわ!」
「……健康的?」
騎士たちの笑い声がどっと広がる。
⸻
さらに数日後、庭園。
紅茶を飲むエドガーの横に、当たり前のようにクラリッサが腰を下ろす。
「まあ! 奇遇ですわね!」
通りかかった従者ユリウスが足を止め、片眉を上げた。
「……また偶然、ですか」
「偶然ですわ!」
「なるほど。ではハルシュタイン様、これも“偶然”なのでしょうか?」
ユリウスが示したのは――庭園に並ぶ二人分のティーカップ。
明らかに、最初からセットされていた。
「……」
「……」
エドガーは言葉を失った。
クラリッサは笑顔を崩さない。
「き、奇跡的偶然ですわ!」
ユリウスは静かに頭を抱えた。
「殿下。ご自覚がないようですが、これはもう“公然の仲”としか見えません」
「……公然の仲だと?」
エドガーは紅茶を一口含み、無意識に隣のクラリッサを見た。
――本当は、偶然なんかではない。
それはわかっている。
けれど、不思議と追及する気にはなれなかった。
彼女の笑顔の奥に、時折見え隠れする切なげな影を思い出してしまうから。
(……なぜ、俺は気にしている?)
紅茶の香りが、甘く胸に残った。
エドガーが机に向かって二時間――その正面で、クラリッサもまた、涼しい顔で本を広げていた。
(……まだいるのか)
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その様子を見ていた学友が、ひそひそと囁いた。
「見ろよ、あの様子。二人、まるで婚約者のようじゃないか」
「図書室で三時間も一緒にいるなんて……親密そのものだ」
エドガーの耳に入るその声に、眉がぴくりと動く。
「……ただの偶然だ」
「えっ、何か、おっしゃいました?」
「いや、何でも、ない」
⸻
翌日、訓練場。
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「まあ! 奇遇ですわね!」
「……またか」
周囲の騎士たちは、汗を拭きながら目を丸くした。
「ローゼンベルク嬢が毎日のように訓練場に?」
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「……いや、違う」
エドガーが否定する間もなく、クラリッサはにっこり笑った。
「けっ健康のための散歩ですわ!」
「……健康的?」
騎士たちの笑い声がどっと広がる。
⸻
さらに数日後、庭園。
紅茶を飲むエドガーの横に、当たり前のようにクラリッサが腰を下ろす。
「まあ! 奇遇ですわね!」
通りかかった従者ユリウスが足を止め、片眉を上げた。
「……また偶然、ですか」
「偶然ですわ!」
「なるほど。ではハルシュタイン様、これも“偶然”なのでしょうか?」
ユリウスが示したのは――庭園に並ぶ二人分のティーカップ。
明らかに、最初からセットされていた。
「……」
「……」
エドガーは言葉を失った。
クラリッサは笑顔を崩さない。
「き、奇跡的偶然ですわ!」
ユリウスは静かに頭を抱えた。
「殿下。ご自覚がないようですが、これはもう“公然の仲”としか見えません」
「……公然の仲だと?」
エドガーは紅茶を一口含み、無意識に隣のクラリッサを見た。
――本当は、偶然なんかではない。
それはわかっている。
けれど、不思議と追及する気にはなれなかった。
彼女の笑顔の奥に、時折見え隠れする切なげな影を思い出してしまうから。
(……なぜ、俺は気にしている?)
紅茶の香りが、甘く胸に残った。
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