『まあ!偶然ですわ!』 ―鈍感殿下と恋する令嬢―

だって、これも愛なの。

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第4章・エドガーの内面

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夜更け、ハルシュタイン邸の書斎。
ランプの光に照らされ、机に積まれた資料をめくりながら、エドガーはふと手を止めた。

(……また今日も、彼女がいたな)

図書室でも、中庭でも、廊下でも。
気づけばクラリッサ・ローゼンベルクの姿がある。
笑顔で「偶然ですわ!」と告げる、その声。

「偶然……か」

ページに目を落とすが、文字が頭に入らない。
どうしても彼女の顔が浮かんでしまう。

本来、彼は人の気配に敏感だ。
静寂を好み、集中を乱すものは嫌う。
なのに――。

(なぜだろうな。彼女が近くにいると、嫌ではない)

むしろ、不思議なことに、書庫の空気が少し柔らかくなる。
窓辺の光や机に差す影さえ、彼女の笑みに合わせて和らぐような。

「……気のせいだ」

首を振り、再び本に視線を戻す。
だが、頭の片隅に残ってしまう。
お弁当を差し出したときの彼女の真っ赤な頬。
庭園で紅茶を口にしたときの、少し翳りを帯びた瞳。

(なぜ……あんな顔を)

問いかけは胸に溜まり、答えは出ない。
ただ一つだけ確かなのは――。

もし、明日「偶然ですわ!」と彼女が現れなければ。
その静けさを、少しだけ寂しく感じるのではないか。

エドガーは小さくため息をつき、机上のランプを消した。
暗闇の中、彼の胸の奥に生まれたざわめきだけが、まだ消えずに残っていた。
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