夜明け草の誓い ―政略で結ばれたふたりが見つけたのは、孤独を越える小さな光―

だって、これも愛なの。

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第一幕 冷ややかな始まり

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翌日、宮殿の応接室。
高窓から差し込む光に、白いカーテンが静かに揺れていた。

彼女――リリアナは、緊張した面持ちで席に座っていた。
小柄な体を背筋だけで支え、膝の上でぎゅっと手を重ねている。
昨日の夜会で見た時と同じ、澄んだ瞳がこちらを見上げていた。

「アシュトン殿下……」
名を呼ぶ声は小さく震えていたが、不思議と真っ直ぐだった。

俺は机越しに、短く答える。
「座り心地は悪くないか」

「は、はい……! あの……」
彼女は一瞬戸惑い、視線を落とした。
まるで、言葉を探す小鳥のように。

俺はその姿を目の端で見ながら、胸の奥でわずかに息をついた。
政略婚。
彼女にとっても、俺にとっても、それ以上でも以下でもないはずだ。

けれど、昨日の夜会から続く心の揺れが、未だ静まらない。
――だからこそ、距離を置くべきだ。
これ以上近づけば、俺自身が惑わされる。

「婚約は、両家の合意によるものだ」
俺はできるだけ冷ややかな声を作った。
「……感情を持ち込む必要はない」

リリアナの瞳が揺れる。
その揺らぎが、痛みに似たものを含んでいると気づいてしまい、心がざわつく。

「ですが……」
彼女は小さく息を吸った。
「婚約者なのに……殿下は、笑ってくださらないのですか?」

俺の時間が止まった。
静かな部屋の中で、確かに響いたその言葉。
誰もが俺に「役目」や「責務」を求めるばかりだった。
そんな問いかけをしてきたのは、この少女が初めてだ。

思わず答えを失い、視線を逸らす。
笑う――? 俺に、そんなものが残っているのか。

「……必要のないことだ」
それだけを絞り出すと、沈黙が訪れた。

けれど彼女の瞳は、まだ俺を真っ直ぐ見つめていた。
怖れもなく、ただ知りたいと願うように。
その視線に晒されるたび、俺の中の孤独が小さく軋む。
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