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番外編 庭園に咲いた日(リリアナ視点)
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春が過ぎ、初夏の風が吹く頃。
庭園の一角に、あの日ふたりで植えた青い花が咲きました。
群青に近い深い色合いの花々は、昼の陽射しを浴びてもなお、夜空を閉じ込めたように凛としていて――まるで殿下そのもののよう。
「……咲きましたね」
わたしはしゃがみこんで、花にそっと触れました。
柔らかい花弁が指先にふれると、胸の奥まであたたかくなります。
「殿下に、見せて差し上げたい……」
そう思って振り返ると、すでにそこに殿下がいらっしゃいました。
静かに歩いてきて、わたしの隣に立ち、花々を見下ろす。
「……悪くないな」
短い言葉。けれど、その声色はどこか優しくて。
「殿下がお好きだと仰った色ですもの。こうして咲いてくれて、本当に嬉しいです」
わたしが笑うと、殿下は少し照れたように視線を逸らしました。
けれど、手はそっと伸びてきて、花の間からわたしの指に触れます。
「……お前が一緒に植えたからだろう」
低い声に、心臓が跳ねました。
指先を包み込まれて、胸の奥までじんわり熱くなる。
「わたし……殿下に笑っていただきたくて。
この花も、殿下のお顔を和らげる力になれたなら……」
言いかけたとき、殿下がわずかに笑ったのです。
ほんの少し、けれど確かに。
「……すでに、なっている」
その笑みを見て、頬が熱くなりました。
青い花々が風に揺れる中、殿下の横顔は光を帯びて、世界でいちばん美しく見えたのです。
――この庭が、ふたりの場所になりますように。
わたしは心の中でそっと願いました。
庭園の一角に、あの日ふたりで植えた青い花が咲きました。
群青に近い深い色合いの花々は、昼の陽射しを浴びてもなお、夜空を閉じ込めたように凛としていて――まるで殿下そのもののよう。
「……咲きましたね」
わたしはしゃがみこんで、花にそっと触れました。
柔らかい花弁が指先にふれると、胸の奥まであたたかくなります。
「殿下に、見せて差し上げたい……」
そう思って振り返ると、すでにそこに殿下がいらっしゃいました。
静かに歩いてきて、わたしの隣に立ち、花々を見下ろす。
「……悪くないな」
短い言葉。けれど、その声色はどこか優しくて。
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わたしが笑うと、殿下は少し照れたように視線を逸らしました。
けれど、手はそっと伸びてきて、花の間からわたしの指に触れます。
「……お前が一緒に植えたからだろう」
低い声に、心臓が跳ねました。
指先を包み込まれて、胸の奥までじんわり熱くなる。
「わたし……殿下に笑っていただきたくて。
この花も、殿下のお顔を和らげる力になれたなら……」
言いかけたとき、殿下がわずかに笑ったのです。
ほんの少し、けれど確かに。
「……すでに、なっている」
その笑みを見て、頬が熱くなりました。
青い花々が風に揺れる中、殿下の横顔は光を帯びて、世界でいちばん美しく見えたのです。
――この庭が、ふたりの場所になりますように。
わたしは心の中でそっと願いました。
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