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第一章:冷たい婚約者(2)
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「……一緒に、調べる?」
アシュレイの群青の瞳が、わずかに揺れた。
「ええ。本に載っていないことも、世の中にはたくさんあるもの」
リリアナはきっぱりと答えた。
「たとえば“ありがとう”とか、“好き”とか」
アシュレイはすぐには言葉を返さなかった。
まるで彼女の言葉を解読するのに、どの辞典を開くべきか迷っているかのように。
「……それらは、証明不能な言葉です」
やがて冷ややかな調子で口を開いた。
「定義を持たず、状況に左右され、再現性もない。学術的には不確かな概念です」
「だからこそ、愛されるのでしょう?」
リリアナはくすっと笑った。
その笑みは光を透かす窓辺のレースカーテンのように柔らかく、彼の理屈をするりと抜けていく。
アシュレイは再び言葉を失った。
整然と積み上げた論理の塔に、初めて小さなひびが走ったような気がした。
彼女の声はあまりにも自然で、
“学問”という重い衣をまとわずにいる。
その自由さが、どこか眩しかった。
「……あなたは、変わった方だ」
ようやく彼が言ったのは、それだけだった。
「いいえ、普通の娘よ」
リリアナは首を振る。
「ただ、私の婚約者が少し難しい方だというだけ」
アシュレイの唇がわずかに引き結ばれた。
それが怒りなのか、照れなのか――彼自身すらも理解していない表情だった。
アシュレイの群青の瞳が、わずかに揺れた。
「ええ。本に載っていないことも、世の中にはたくさんあるもの」
リリアナはきっぱりと答えた。
「たとえば“ありがとう”とか、“好き”とか」
アシュレイはすぐには言葉を返さなかった。
まるで彼女の言葉を解読するのに、どの辞典を開くべきか迷っているかのように。
「……それらは、証明不能な言葉です」
やがて冷ややかな調子で口を開いた。
「定義を持たず、状況に左右され、再現性もない。学術的には不確かな概念です」
「だからこそ、愛されるのでしょう?」
リリアナはくすっと笑った。
その笑みは光を透かす窓辺のレースカーテンのように柔らかく、彼の理屈をするりと抜けていく。
アシュレイは再び言葉を失った。
整然と積み上げた論理の塔に、初めて小さなひびが走ったような気がした。
彼女の声はあまりにも自然で、
“学問”という重い衣をまとわずにいる。
その自由さが、どこか眩しかった。
「……あなたは、変わった方だ」
ようやく彼が言ったのは、それだけだった。
「いいえ、普通の娘よ」
リリアナは首を振る。
「ただ、私の婚約者が少し難しい方だというだけ」
アシュレイの唇がわずかに引き結ばれた。
それが怒りなのか、照れなのか――彼自身すらも理解していない表情だった。
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