『群青の瞳に灯る、愛の余白』知識しか信じなかった彼が、令嬢の微笑みに心を学ぶまで

だって、これも愛なの。

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第一章:冷たい婚約者(3)

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 婚約を知らせるための小さな宴が開かれた。
 煌めくシャンデリアの下、貴族たちの視線が二人に注がれる。

「お似合いですわね」
「学術院の才子と、公爵家の花――未来は安泰だ」

 祝福の声が飛び交う中、リリアナは微笑みを返しながらも、隣に立つ婚約者を横目で見つめた。
 アシュレイは背筋を伸ばし、完璧な所作で挨拶を繰り返している。
 だが、そこに温かみはない。ただ「そうすべきだから」動いているだけ。

 杯を差し出されても、彼は淡々と受け取るだけ。
 言葉を求められても、必要最小限しか答えない。

 ――冷たい。けれど、不思議。

 リリアナは胸の奥で小さく笑った。
 冷たいはずなのに、なぜだかその沈黙が孤独に見えて、手を伸ばしたくなる。

「アシュレイ様」
 彼女は思わず声をかけていた。
「今夜は……少し、緊張していらっしゃるのかしら?」

 彼の瞳がわずかに揺れる。
「緊張など、無意味です。必要なのは礼儀と知識のみ」

「でも、心臓は嘘をつけないわ」
 リリアナは小さく囁くように言った。

 その瞬間、アシュレイは答えられなくなった。
 まるで何かを突きつけられたように、口を閉ざす。

 やがて宴は終わり、彼は最後まで一言の感情をこぼすことはなかった。
 ただ、その群青の瞳には――ほんの一瞬だけ、戸惑いの色が浮かんでいた。
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