『合理的すぎる求愛』──ズレた合理性は、最高に甘い恋になる。

だって、これも愛なの。

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第4話 書庫にて、理屈抜き

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宮殿の奥、静かな書庫。
高い天井まで続く本棚に囲まれ、午後の日差しが柔らかく差し込んでいた。

クラリッサは分厚い歴史書を膝にのせ、ページをめくっていた。
紙の匂い、しんとした空気。

そこへ、静かに足音が近づく。

「クラリッサ。読書中か」
「はい。殿下は……?」
「君と一緒にいるために来た」

本を閉じそうになった。
「……殿下、それは理由になっていませんわ」
「いや、ある。読書は知恵の糧だ。君と共に学ぶのは合理的だろう?」

(……また合理性ですのね)
クラリッサは心の中でため息をつきつつも、席を詰めた。



ふたりで黙々と本をめくる。
ときおり同じページに手を伸ばして、指先が触れる。

「……失礼」
「いえ……」

引っ込めた手が、またすぐ近くに戻る。
(距離が……近すぎますわ……!)
クラリッサの心臓は速くなり、目の前の文字がまったく頭に入らなかった。



ふと、殿下が低く呟いた。

「……やはり、理屈は要らないのかもしれない」
「え?」

本から顔を上げたクラリッサに、真っ直ぐな瞳が向けられる。

「僕はただ、君が好きだ」

「っ……」

クラリッサの頬に、一気に熱が広がる。
あまりに不器用で、飾りのない直球。
(……殿下が理屈抜きでおっしゃるなんて)

「……わたくしも、本を読むときくらい、理由は要りませんわ。好きだから読む。それで充分ですの」

殿下はしばし見つめ、それからふっと微笑んだ。
「では……君を想うのも、それで充分だな」



沈黙が落ちた書庫の中で、クラリッサは慌てて本を読み進めるふりをした。
けれど指先が震えていて、ページは同じところを何度もめくっている。

その様子を見て、殿下はくすっと笑った。
「クラリッサ。ページは三度も戻ったぞ」
「み、見ていらしたのですか!?」
「隣にいるのだから、当然だ」

そう言って彼は、そっと本を閉じる。

「……文字より、今は君の顔を見たい」

「~~~~っ!」

クラリッサは視線を逸らした。けれど頬が真っ赤なのは隠せない。
殿下はためらいがちに彼女の手に触れ、囁く。

「……理屈抜きで言う。ずっと、君に触れていたい」

クラリッサは抗えず、小さく答えた。
「……ほどほどに、でお願いいたします」
「承知した。ほどほどに、永遠に」

彼の手の温かさに、クラリッサはとうとうページをめくるのを忘れてしまった。
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