『君にだけ、“おいしい”をあげたい』 ─ 初恋はキッチンの隣から

だって、これも愛なの。

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第7章 すれちがう想い

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 グルメフェスに向けて、ふたりは毎日のように食堂で練習を重ねていた。
 包丁を握るひなの真剣な横顔に、ヒロトは何度も視線を奪われる。
 ――でも、その気持ちを素直に伝えることはできなかった。

 ある日の放課後。
 ひなは学校の友人に呼び止められていた。
「ねえ、ひな。今度フェスに出るんだって? すごいじゃん!」
「うん! 私なんてまだまだだけど……でも頑張りたいなって」

 その輪の中に、男子の同級生も混じっていた。
「へえ、愛野って料理できるんだな。今度コツとか教えてくれよ」
「え? 私なんかでいいなら……」

 屈託なく答えるひなに、ヒロトは遠くからその光景を見ていた。
 胸の奥が、じわりと重くなる。

 後日、練習の合間に、ふと口をついて出てしまった。
「なあ、なんであいつらにまで教えてんだよ」
「え? あいつら?」
「学校のやつら。フェスのこと、もう話したんだろ」

 ひなは驚いて目を瞬かせる。
「だって、応援してくれるって言ってたし……」
「……そういうの、簡単に引き受けんなよ」
「どうして?」
「……お前の料理は、誰にでもあげていいもんじゃねえだろ」

 言ってから、ヒロトははっと口をつぐんだ。
 束縛みたいに聞こえる。
 けれど、もう引き返せなかった。

「俺は……俺だけは特別だと思ってたいんだ」

 ひなは言葉を失った。
 そんなふうに思われているなんて、考えたこともなかったから。
 でも、
 ――私なんかが“特別”なわけない。
 そう心の中で呟いて、笑顔を作る。

「ヒロトさん、変なこと言うね」
「……そうだな。忘れてくれ」

 軽く笑ってごまかしたけれど、心の奥ではごまかしきれない想いが募っていく。
 すれちがう気持ちに気づきながらも、ふたりはまたフライパンを握った。
 その手の震えを隠すように。
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