'寄宿学校シリーズ──5つの恋短編集

だって、これも愛なの。

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星の涙に願う夜

プロローグ 「星の涙の夜」

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 王都から遠く離れた湖畔に、ひとつの寄宿学校がある。
 石造りの塔と古びた校舎は、夜になるとステンドグラスの窓から灯が溢れ、湖面に映って揺らめいた。
 まるで空にひとつ余計な星が落ちてきたかのように。

 ──〈星の涙〉。
 そう呼ばれる伝承があった。
 湖に映る星へ願いを託せば、その思いは夜空へ届き、やがて叶うのだと。
 真偽は定かでなくとも、生徒たちは夜ごとその話を囁き合い、夢を重ねていた。

 だが、全員が夢を信じるわけではない。

 「……くだらない」
 校舎の影。塔の下に凭れかかりながら、青年は小さく吐き捨てる。
 名はカイル。
 騎士の家系に生まれ、剣技も学問も並ぶ者のない成績を誇る。
 けれどその寡黙さと冷たげな眼差しから、同級生には「近寄りがたい」と評されていた。
 夢や噂を口にする賑やかな輪に、彼は決して混じろうとはしない。

 そのときだった。

 「ねえ、君も見てた?」

 声と共に、ぱっと視界に光が差したような気がした。
 振り返れば、明るい茶色の髪を揺らした少女が立っている。
 瞳は夜空よりもきらきらと輝き、誰に向けるのともなく笑みを浮かべていた。

 「湖に落ちた星。いま、流れたでしょう?」

 少女──リリアはそう言って、カイルの隣にひょいと腰を下ろした。
 気安い。無遠慮なほどに。
 だが不思議と、不快ではなかった。

 「……見てない」
 短く答える。
 「そっか。じゃあ、これから一緒に見ればいいよね」

 あっけらかんとした声に、言葉を失った。
 彼は人を遠ざける眼差しをしているはずだ。
 なのに、この少女は笑顔のまま、すぐ隣に居場所を作ってしまった。

 「わたし、リリア。君は?」
 「……カイル」
 「ふふ、いい名前」

 ただ、それだけ。
 大げさな挨拶も、気取った礼儀もない。
 けれどその一言が、不思議と胸に温かく残った。

 ──星の涙は、願いを叶えるという。
 もしそれが本当なら。
 この出会いもまた、夜空がもたらした奇跡なのかもしれない。
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