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第1話『星商店の夜』
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星商店の扉は、日が沈んでからようやく開く。
外の通りはまだ人通りがあるが、店の中には夜の世界の空気が満ちている。
棚の上には、小さな瓶に詰められた星のかけらたち。どれも微かに光を宿し、時おり色を変える。
「澪さん、こっちの瓶、磨き終わったよ」
悠真の声は、星の明かりに溶けるみたいに柔らかかった。
「ありがとうございます。そこに並べておきますね」
私は布越しに受け取った瓶を、棚の奥にそっと置く。
こうして星を並べていると、街の喧騒や昼間の言葉のざわめきが遠くなる。
この店の空気は、私をやさしく静めてくれる。
悠真は、作業台の向こうで星砂を小瓶に詰めていた。
スプーンですくっては、まるで息をするように自然な動作で瓶に落とす。
その表情は穏やかで、星を扱う指先は驚くほどきれいだ。
「今日は、願い星の瓶、三つですって」
彼が、ふと顔を上げる。
「三つも?」
「うん。どれも、誰かの大切な願い。強すぎず、でも長く光りそうなやつ」
そんな言い方をするから、私は少し笑ってしまう。
星の輝きは、誰かの想いの温度と時間に比例する。
悠真はその“温度”を、ほとんど感覚で言い当ててしまう人だ。
「澪さんは、願いを詰める時、何を考えてる?」
不意に問われ、私は手を止めた。
「……何も、です。ただ、その人の願いがちゃんと届くように、って」
「そっか。それが、いちばん強いのかもな」
何気ないやりとりの後、ふたりの間に静かな沈黙が落ちる。
けれどそれは気まずさではなく、落ち着く沈黙だった。
ガラス越しの星明かりと、作業の音だけが、夜の店を満たしている。
——この人といると、言葉を探さなくていい。
ふとそう思ったけれど、私はそれ以上考えず、瓶を磨き続けた。
外の通りはまだ人通りがあるが、店の中には夜の世界の空気が満ちている。
棚の上には、小さな瓶に詰められた星のかけらたち。どれも微かに光を宿し、時おり色を変える。
「澪さん、こっちの瓶、磨き終わったよ」
悠真の声は、星の明かりに溶けるみたいに柔らかかった。
「ありがとうございます。そこに並べておきますね」
私は布越しに受け取った瓶を、棚の奥にそっと置く。
こうして星を並べていると、街の喧騒や昼間の言葉のざわめきが遠くなる。
この店の空気は、私をやさしく静めてくれる。
悠真は、作業台の向こうで星砂を小瓶に詰めていた。
スプーンですくっては、まるで息をするように自然な動作で瓶に落とす。
その表情は穏やかで、星を扱う指先は驚くほどきれいだ。
「今日は、願い星の瓶、三つですって」
彼が、ふと顔を上げる。
「三つも?」
「うん。どれも、誰かの大切な願い。強すぎず、でも長く光りそうなやつ」
そんな言い方をするから、私は少し笑ってしまう。
星の輝きは、誰かの想いの温度と時間に比例する。
悠真はその“温度”を、ほとんど感覚で言い当ててしまう人だ。
「澪さんは、願いを詰める時、何を考えてる?」
不意に問われ、私は手を止めた。
「……何も、です。ただ、その人の願いがちゃんと届くように、って」
「そっか。それが、いちばん強いのかもな」
何気ないやりとりの後、ふたりの間に静かな沈黙が落ちる。
けれどそれは気まずさではなく、落ち着く沈黙だった。
ガラス越しの星明かりと、作業の音だけが、夜の店を満たしている。
——この人といると、言葉を探さなくていい。
ふとそう思ったけれど、私はそれ以上考えず、瓶を磨き続けた。
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