5 / 22
第5章 すれ違いの影
数日後の午後。
リリアーナはサロンの窓辺に座り、膝の上で手をぎゅっと握りしめていた。
(殿下は、わたしを気にかけてくださる……でも、それは“婚約者だから”では?)
芽生えた恋心が、逆に不安を呼び込む。
「……殿下は、ほんとうに、わたしを……?」
小さな呟きは誰にも届かない。
そのとき、扉が開いた。
「リリアーナ」
アレクシスの姿に、彼女の心臓は跳ねる。
けれど――うまく笑えなかった。
「ご機嫌麗しく……ございます、殿下」
「……声が硬いな」
「そ、そんなことは」
無邪気だった笑顔が曇っていることに、アレクシスは気づかないはずがない。
胸の奥がざわつく。
「君は何か隠している」
「……隠してなど……」
「リリアーナ」
鋭い声に、彼女は肩をすくめた。
(怖がらせるつもりはないのに……どうして、いつもこう不器用なんだ)
彼は大きく息を吐き、少し声を和らげる。
「……私に、言えないことか」
「……殿下は……」
「?」
「殿下は、義務でわたしを気にかけてくださっているのですか?」
言葉が落ちた瞬間、アレクシスは絶句した。
(義務……? この胸の痛みが、そんなものに見えるのか)
思わず彼はリリアーナの手を掴んだ。
「違う」
「っ……」
「義務で君を見ているわけではない。私は……君だから気になる」
震える声。
けれどリリアーナは、不安に揺れた瞳をそっと伏せる。
「……でも、わたし、なにも取り柄のない……」
「……君は」
彼は思わず言葉を遮った。
「君は、誰よりも私を惑わせる」
「……え?」
「無邪気に笑って、何もわかっていない顔をして……そのたびに私は、どうしようもなく――」
そこまで言って、アレクシスは口をつぐんだ。
(これ以上言えば、戻れなくなる)
沈黙。
けれどリリアーナは、小さく震える声で言った。
「……殿下のそういうお顔を見たら、わたし、ますます心が揺れてしまいます」
互いに不器用で、うまく伝えられない。
それでも確かに、二人の心は触れ合い始めていた。
リリアーナはサロンの窓辺に座り、膝の上で手をぎゅっと握りしめていた。
(殿下は、わたしを気にかけてくださる……でも、それは“婚約者だから”では?)
芽生えた恋心が、逆に不安を呼び込む。
「……殿下は、ほんとうに、わたしを……?」
小さな呟きは誰にも届かない。
そのとき、扉が開いた。
「リリアーナ」
アレクシスの姿に、彼女の心臓は跳ねる。
けれど――うまく笑えなかった。
「ご機嫌麗しく……ございます、殿下」
「……声が硬いな」
「そ、そんなことは」
無邪気だった笑顔が曇っていることに、アレクシスは気づかないはずがない。
胸の奥がざわつく。
「君は何か隠している」
「……隠してなど……」
「リリアーナ」
鋭い声に、彼女は肩をすくめた。
(怖がらせるつもりはないのに……どうして、いつもこう不器用なんだ)
彼は大きく息を吐き、少し声を和らげる。
「……私に、言えないことか」
「……殿下は……」
「?」
「殿下は、義務でわたしを気にかけてくださっているのですか?」
言葉が落ちた瞬間、アレクシスは絶句した。
(義務……? この胸の痛みが、そんなものに見えるのか)
思わず彼はリリアーナの手を掴んだ。
「違う」
「っ……」
「義務で君を見ているわけではない。私は……君だから気になる」
震える声。
けれどリリアーナは、不安に揺れた瞳をそっと伏せる。
「……でも、わたし、なにも取り柄のない……」
「……君は」
彼は思わず言葉を遮った。
「君は、誰よりも私を惑わせる」
「……え?」
「無邪気に笑って、何もわかっていない顔をして……そのたびに私は、どうしようもなく――」
そこまで言って、アレクシスは口をつぐんだ。
(これ以上言えば、戻れなくなる)
沈黙。
けれどリリアーナは、小さく震える声で言った。
「……殿下のそういうお顔を見たら、わたし、ますます心が揺れてしまいます」
互いに不器用で、うまく伝えられない。
それでも確かに、二人の心は触れ合い始めていた。
あなたにおすすめの小説
触れられないはずの私が、ただ一人の彼にだけ心も体も許してしまいました
由香
恋愛
男性に触れられると体調を崩す令嬢リリア。
そんな彼女にとって唯一“触れられる”存在は――幼なじみの公爵令息レオンだけだった。
手を取られ、抱き寄せられ、当たり前のように触れられる日々。
それがどれほど特別なことなのか、彼女はまだ知らない。
やがて政略結婚の話が持ち上がり、“触れられない相手との結婚”か、“彼に触れられる人生”かを選ぶことに。
「お前に触れていいのは俺だけだ」
逃げ場のない独占と、甘すぎる溺愛。
これは、触れられないはずの少女が、ただ一人にだけすべてを許していく物語。
完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます
星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。
家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。
……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。
“天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、
そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。
これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、
いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。
(完結済ー全8話)
私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―
喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。
そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。
二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。
最初は手紙も返ってきていたのに、
いつからか音信不通に。
あんなにうっとうしいほど構ってきた男が――
なぜ突然、私を無視するの?
不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、
突然ルイスが帰還した。
ボロボロの身体。
そして隣には――見知らぬ女。
勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、
私の中で何かが壊れた。
混乱、絶望、そして……再起。
すがりつく女は、みっともないだけ。
私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。
「私を簡単に捨てられるとでも?
――君が望んでも、離さない」
呪いを自ら解き放ち、
彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。
すれ違い、誤解、呪い、執着、
そして狂おしいほどの愛――
二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。
過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。
皇太子殿下は、幼なじみに触れていないと落ち着かない
由香
ファンタジー
幼い頃から一緒に育った皇子は、なぜか距離が近すぎる。
後ろから抱きしめられ、手を取られ、頬に触れられるのが当たり前の日常。
やがて彼は皇太子となるが――その距離は変わらないどころか、むしろ深まっていき。
「触れていないと、落ち着かない」
公の場でも離してくれない彼の執着に、周囲は騒然。
けれどその腕の中は、どうしようもなく安心してしまう。
これは、幼なじみの距離のまま始まる、逃げ場のない溺愛の物語。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
年下で可愛い旦那様は、実は独占欲強めでした
由香
恋愛
政略結婚で嫁いだ相手は――
年下で、可愛くて、なぜか距離が近すぎる旦那様でした。
「ねえ、奥さん。もうちょっと近く来て?」
人懐っこく甘えてくるくせに、他の男が話しかけただけで不機嫌になる彼。
最初は“かわいい弟みたい”と思っていたのに――
「俺、もう子供じゃないよ。……ちゃんと男として見て」
不意に見せる大人の顔と、独占欲に心が揺れていく。
これは、年下旦那様にじわじわ包囲されて、気づいたら溺愛されていた話。
【完結/番外追加】恋ではなくなったとしても
ねるねわかば
恋愛
十一年前、彼女は納得して切り捨てられた。
没落した貴族家の令嬢アリーネは、王都の社交サロンで同伴者として生きる道を選んだ。
歳月は、すべてを思い出に変えたはずだった。
会うたびにかつての婚約者を目で追うのは、ただの癖。
今ある思いは、恋ではない。
名がつくことのない二人の関係は、依頼主と同伴者となり、またその形を変えていく。
2万字くらいのお話です。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。