1 / 15
第一話:赤いリボンの約束
しおりを挟む
――フローレンティア侯爵家の庭園には、**“満月の夜にだけ咲く花”**があるという。
その夜も、夜空に浮かぶ月はまるで銀のティアラのようで、咲いたばかりの花々に優しい光を降らせていた。
花壇の奥、小さな噴水のそば。
ひとりの少女が、しゃがみこんで花に話しかけている。
「あなたも、恋をしているの? うふふ、よかったね。わたしも……してるの。」
少女の名は、リリアナ・フローレンティア。
金色の巻き髪に赤いリボンを結び、ドレスのすそを少し泥で汚しながらも、目はキラキラと輝いていた。
そこへ、少し年上の少年が歩いてくる。
凛とした瞳に銀色の髪、気品ある制服の胸元には小さな帝国の紋章。
彼の名は、レオンハルト=ノアディール。
遠い異国からの使節団の一員として、短くこの屋敷に滞在していた。
「こんな時間に、花と話してるのか?」
彼の声に、リリアナはふり向いてにっこり笑った。
「うん、だってこの子たち、満月じゃないと咲かないのよ。おしゃべりしてあげないと、さびしいかなって」
その笑顔がまぶしくて、レオンハルトは一瞬だけ言葉を失った。
――けれど、ふと口にしてしまう。
「……どうすれば、人を好きになれるのか、僕にはわからないんだ。」
その言葉に、リリアナはぱちぱちと瞬きをし、やがてふわっと笑う。
「好きになるのって、理屈じゃないのよ。ふわっとしてて、なんだかあたたかくて、涙が出そうになるの。」
でも、その笑顔には少しだけ、影が差していた。
レオンハルトが問いかける。
「君は……今、恋をしているのか?」
リリアナは、少し間をおいて、こう言った。
「うん。とっても、とっても好きなの。でも……かなわないって、わかってるの。」
「それでも、やめられない?」
「うん。だって、これも愛なの。……幸せになってほしいって思うの。わたしはその人の幸せを、願う花嫁修行中なのよ。」
その言葉は、あまりにも健気で、あまりにも切なかった。
どうして、そんな風に誰かを想えるのだろう。
どうして、そんなに強く、優しく、笑えるのだろう。
レオンハルトは、そんな彼女を“美しい”と思った。
まだそれが恋だとは、気づけなかったけれど――。
「ねえ、あなたは――」
リリアナがふと、自分の髪から赤いリボンを外した。
「これ、わたしのラッキーアイテムなの。恋がうまくいきますようにって、おばあさまがくれたの」
彼女はそのリボンを、そっとレオンハルトの手に結んだ。
「あなたが、いつか誰かを好きになれたら……その人にこれを渡してあげて。
そのときは、あなたの恋が本物だってこと。ね?」
リボンは、あたたかかった。
彼女の想いがこもっている気がして、レオンハルトは胸の奥がぎゅうっとなるのを感じた。
「ありがとう……君の名前を、教えてくれないか?」
リリアナはくるりとスカートを回しながら、笑って言った。
「わたしはリリアナ。恋をしてる、ちょっとだけ夢見がちな令嬢よ」
その名は、レオンハルトの心に一生刻まれることになる。
たったひとつの恋のはじまりを、彼はまだ知らないまま。
──こうして、赤いリボンの約束は、静かに結ばれた。
(つづく)
その夜も、夜空に浮かぶ月はまるで銀のティアラのようで、咲いたばかりの花々に優しい光を降らせていた。
花壇の奥、小さな噴水のそば。
ひとりの少女が、しゃがみこんで花に話しかけている。
「あなたも、恋をしているの? うふふ、よかったね。わたしも……してるの。」
少女の名は、リリアナ・フローレンティア。
金色の巻き髪に赤いリボンを結び、ドレスのすそを少し泥で汚しながらも、目はキラキラと輝いていた。
そこへ、少し年上の少年が歩いてくる。
凛とした瞳に銀色の髪、気品ある制服の胸元には小さな帝国の紋章。
彼の名は、レオンハルト=ノアディール。
遠い異国からの使節団の一員として、短くこの屋敷に滞在していた。
「こんな時間に、花と話してるのか?」
彼の声に、リリアナはふり向いてにっこり笑った。
「うん、だってこの子たち、満月じゃないと咲かないのよ。おしゃべりしてあげないと、さびしいかなって」
その笑顔がまぶしくて、レオンハルトは一瞬だけ言葉を失った。
――けれど、ふと口にしてしまう。
「……どうすれば、人を好きになれるのか、僕にはわからないんだ。」
その言葉に、リリアナはぱちぱちと瞬きをし、やがてふわっと笑う。
「好きになるのって、理屈じゃないのよ。ふわっとしてて、なんだかあたたかくて、涙が出そうになるの。」
でも、その笑顔には少しだけ、影が差していた。
レオンハルトが問いかける。
「君は……今、恋をしているのか?」
リリアナは、少し間をおいて、こう言った。
「うん。とっても、とっても好きなの。でも……かなわないって、わかってるの。」
「それでも、やめられない?」
「うん。だって、これも愛なの。……幸せになってほしいって思うの。わたしはその人の幸せを、願う花嫁修行中なのよ。」
その言葉は、あまりにも健気で、あまりにも切なかった。
どうして、そんな風に誰かを想えるのだろう。
どうして、そんなに強く、優しく、笑えるのだろう。
レオンハルトは、そんな彼女を“美しい”と思った。
まだそれが恋だとは、気づけなかったけれど――。
「ねえ、あなたは――」
リリアナがふと、自分の髪から赤いリボンを外した。
「これ、わたしのラッキーアイテムなの。恋がうまくいきますようにって、おばあさまがくれたの」
彼女はそのリボンを、そっとレオンハルトの手に結んだ。
「あなたが、いつか誰かを好きになれたら……その人にこれを渡してあげて。
そのときは、あなたの恋が本物だってこと。ね?」
リボンは、あたたかかった。
彼女の想いがこもっている気がして、レオンハルトは胸の奥がぎゅうっとなるのを感じた。
「ありがとう……君の名前を、教えてくれないか?」
リリアナはくるりとスカートを回しながら、笑って言った。
「わたしはリリアナ。恋をしてる、ちょっとだけ夢見がちな令嬢よ」
その名は、レオンハルトの心に一生刻まれることになる。
たったひとつの恋のはじまりを、彼はまだ知らないまま。
──こうして、赤いリボンの約束は、静かに結ばれた。
(つづく)
9
あなたにおすすめの小説
幸せアプリ
青の雀
恋愛
結婚間近の同棲していた恋人に捨てられ、契約直前の仕事を同期男性に盗られたその日はまさに厄日かと思われた。
帰宅して、風呂上りにスマホでサーフィンしていたら、見覚えのないアプリがインストールされている!
すぐに削除するつもりが……、次第にアプリの指示通り行動していたら、幸せが手に入るようになりました♡
不謹慎なブス令嬢を演じてきましたが、もうその必要はありません。今日ばっかりはクズ王子にはっきりと言ってやります!
幌あきら
恋愛
【恋愛ファンタジー・クズ王子系・ざまぁ】
この王子との婚約ばっかりは拒否する理由がある――!
アレリア・カッチェス侯爵令嬢は、美麗クズ王子からの婚約打診が嫌で『不謹慎なブス令嬢』を装っている。
しかしそんな苦労も残念ながら王子はアレリアを諦める気配はない。
アレリアは王子が煩わしく領内の神殿に逃げるが、あきらめきれない王子はアレリアを探して神殿まで押しかける……!
王子がなぜアレリアに執着するのか、なぜアレリアはこんなに頑なに王子を拒否するのか?
その秘密はアレリアの弟の結婚にあった――?
クズ王子を書きたくて、こんな話になりました(笑)
いろいろゆるゆるかとは思いますが、よろしくお願いいたします!
他サイト様にも投稿しています。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
運命の秘薬 〜100年の時を超えて〜 [完]
風龍佳乃
恋愛
シャルパド王国に育った
アリーリアはこの国の皇太子である
エドアルドとの結婚式を終えたが
自分を蔑ろにした
エドアルドを許す事が出来ず
自ら命をたってしまったのだった
アリーリアの魂は彷徨い続けながら
100年後に蘇ったのだが…
再び出会ってしまったエドアルドの
生まれ変わり
彼も又、前世の記憶を持っていた。
アリーリアはエドアルドから離れようと
するが運命は2人を離さなかったのだ
戸惑いながら生きるアリーリアは
生まれ変わった理由を知り驚いた
そして今の自分を受け入れて
幸せを見つけたのだった。
※ は前世の出来事(回想)です
婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
【完結】恋の終焉~愛しさあまって憎さ1000倍~
つくも茄子
恋愛
五大侯爵家、ミネルヴァ・リゼ・ウォーカー侯爵令嬢は第二王子の婚約者候補。それと同時に、義兄とも婚約者候補の仲という複雑な環境に身を置いていた。
それも第二王子が恋に狂い「伯爵令嬢(恋人)を妻(正妃)に迎えたい」と言い出したせいで。
第二王子が恋を諦めるのが早いか。それとも臣籍降下するのが早いか。とにかく、選ばれた王子の婚約者候補の令嬢達にすれば迷惑極まりないものだった。
ミネルヴァは初恋の相手である義兄と結婚する事を夢見ていたというに、突然の王家からの横やりに怒り心頭。それでも臣下としてグッと堪えた。
そんな中での義兄の裏切り。
愛する女性がいる?
その相手と結婚したい?
何を仰っているのでしょうか?
混乱するミネルヴァを置き去りに義兄はどんどん話を続ける。
「お義兄様、あなたは婿入りのための養子縁組ですよ」と言いたいのをグッと堪えたミネルヴァであった。義兄を許す?許さない?答えは一つ。
雪とともに消えた記憶~冬に起きた奇跡~
梅雨の人
恋愛
記憶が戻らないままだったら…そうつぶやく私にあなたは
「忘れるだけ忘れてしまったままでいい。君は私の指のごつごつした指の感触だけは思い出してくれた。それがすべてだ。」
そういって抱きしめてくれた暖かなあなたのぬくもりが好きよ。
雪と共に、私の夫だった人の記憶も、全て溶けて消えてしまった私はあなたと共に生きていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる