『ティアラに誓う、ただひとりのあなたへ』 ──赤いリボンが結ぶ、花園の婚約物語

だって、これも愛なの。

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第一話:赤いリボンの約束

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 ――フローレンティア侯爵家の庭園には、**“満月の夜にだけ咲く花”**があるという。

 その夜も、夜空に浮かぶ月はまるで銀のティアラのようで、咲いたばかりの花々に優しい光を降らせていた。

 

 花壇の奥、小さな噴水のそば。
 ひとりの少女が、しゃがみこんで花に話しかけている。

「あなたも、恋をしているの? うふふ、よかったね。わたしも……してるの。」

 少女の名は、リリアナ・フローレンティア。
 金色の巻き髪に赤いリボンを結び、ドレスのすそを少し泥で汚しながらも、目はキラキラと輝いていた。

 

 そこへ、少し年上の少年が歩いてくる。
 凛とした瞳に銀色の髪、気品ある制服の胸元には小さな帝国の紋章。
 彼の名は、レオンハルト=ノアディール。
 遠い異国からの使節団の一員として、短くこの屋敷に滞在していた。

 

「こんな時間に、花と話してるのか?」

 彼の声に、リリアナはふり向いてにっこり笑った。

「うん、だってこの子たち、満月じゃないと咲かないのよ。おしゃべりしてあげないと、さびしいかなって」

 その笑顔がまぶしくて、レオンハルトは一瞬だけ言葉を失った。
 ――けれど、ふと口にしてしまう。

「……どうすれば、人を好きになれるのか、僕にはわからないんだ。」

 

 その言葉に、リリアナはぱちぱちと瞬きをし、やがてふわっと笑う。

「好きになるのって、理屈じゃないのよ。ふわっとしてて、なんだかあたたかくて、涙が出そうになるの。」

 でも、その笑顔には少しだけ、影が差していた。

 

 レオンハルトが問いかける。

「君は……今、恋をしているのか?」

 リリアナは、少し間をおいて、こう言った。

「うん。とっても、とっても好きなの。でも……かなわないって、わかってるの。」

「それでも、やめられない?」

「うん。だって、これも愛なの。……幸せになってほしいって思うの。わたしはその人の幸せを、願う花嫁修行中なのよ。」

 

 その言葉は、あまりにも健気で、あまりにも切なかった。
 どうして、そんな風に誰かを想えるのだろう。
 どうして、そんなに強く、優しく、笑えるのだろう。

 

 レオンハルトは、そんな彼女を“美しい”と思った。
 まだそれが恋だとは、気づけなかったけれど――。

 

「ねえ、あなたは――」

 リリアナがふと、自分の髪から赤いリボンを外した。

「これ、わたしのラッキーアイテムなの。恋がうまくいきますようにって、おばあさまがくれたの」

 彼女はそのリボンを、そっとレオンハルトの手に結んだ。

 

「あなたが、いつか誰かを好きになれたら……その人にこれを渡してあげて。
 そのときは、あなたの恋が本物だってこと。ね?」

 

 リボンは、あたたかかった。
 彼女の想いがこもっている気がして、レオンハルトは胸の奥がぎゅうっとなるのを感じた。

「ありがとう……君の名前を、教えてくれないか?」

 リリアナはくるりとスカートを回しながら、笑って言った。

 

「わたしはリリアナ。恋をしてる、ちょっとだけ夢見がちな令嬢よ」

 

 その名は、レオンハルトの心に一生刻まれることになる。
 たったひとつの恋のはじまりを、彼はまだ知らないまま。

 

──こうして、赤いリボンの約束は、静かに結ばれた。

 

(つづく)
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