8 / 15
第八話:満月の花園で、ふたりだけの誓い
しおりを挟む
その夜、空は限りなく澄んでいた。
雲ひとつない満月。
まるで、世界がふたりのために静かに呼吸を止めているようだった。
レオンハルトは、リリアナの手を引いていた。
帝国の城を抜け、湖沿いの小道を歩き、
ふたりだけの、**“とっておきの場所”**へ向かって。
そこには、幼い頃ふたりが出会ったあの“庭園”が再現されていた。
満月の下で咲く、白く透けるような花々。
ふたりの影が寄り添いながら、芝の上に長く伸びる。
「……ここに、連れてきてくださったのですね」
「はい。ずっと、あなたをもう一度ここへ連れてきたかった」
レオンハルトの声は、今夜だけの特別な音に聞こえた。
やわらかくて、でも少し震えていて、でもとても……あたたかかった。
「覚えていますか、あのとき――君が言った言葉」
「……『これも愛なの』……って、言った気がします」
「そう。……そのときのあなたは、少し擦り切れた笑顔をしていた。
でも、どうしてか……その笑顔が、ずっと心から離れなかった」
リリアナは、ふわりと微笑んだ。
「レオンハルト様……あの頃のわたしは、きっと“恋に恋してた”んです。
幸せになれるなら、どんな涙も正解だって、そう思い込んでました」
「……今は?」
「今は、ちょっと違う。
幸せになれる“誰か”じゃなくて、
“あなたと一緒にいる今”が、もう幸せなんだって気づいたんです」
言葉を受けて、レオンハルトは懐から小さな箱を取り出した。
蓋を開けると、そこには――
月のように輝く、銀のティアラが入っていた。
「これは、幼い頃のわたしが、あなたに贈りたいと夢見たものです」
「……わたしに?」
「はい。君は、“夢を見ること”を誰にも恥じなかった。
そんな君がいたから、わたしも夢を見てみたいと思えたんです」
そっとティアラを彼女の髪にのせる。
まるで、赤いリボンの上に、もうひとつの約束を重ねるように。
「……君のおかげで、私はこんなにも幸せになれました。
これからはもう大丈夫です。
だから、次は君に、幸せになってほしい」
その言葉が、胸にまっすぐ届く。
リリアナの瞳から、ぽろりと涙がこぼれた。
「……王子様。わたし、自分の“夢見がち”なところ、ずっと恥ずかしかったんです。
だけど、それを好きって言ってもらえたの、初めてで……うれしくて……」
「わたしは、君のすべてが好きです。
涙も、夢も、そして笑顔も。全部、抱きしめたい」
彼の言葉に、リリアナは震える声で応えた。
「……その幸せ、わたしも……もらっても、いいですか?」
「もちろんです」
ふたりはそっと額を寄せる。
満月の光に照らされて、影が重なる。
――これは、誓い。
ティアラに託された、ただひとりへの想い。
この花園で、ふたりは未来を贈り合った。
(つづく)
雲ひとつない満月。
まるで、世界がふたりのために静かに呼吸を止めているようだった。
レオンハルトは、リリアナの手を引いていた。
帝国の城を抜け、湖沿いの小道を歩き、
ふたりだけの、**“とっておきの場所”**へ向かって。
そこには、幼い頃ふたりが出会ったあの“庭園”が再現されていた。
満月の下で咲く、白く透けるような花々。
ふたりの影が寄り添いながら、芝の上に長く伸びる。
「……ここに、連れてきてくださったのですね」
「はい。ずっと、あなたをもう一度ここへ連れてきたかった」
レオンハルトの声は、今夜だけの特別な音に聞こえた。
やわらかくて、でも少し震えていて、でもとても……あたたかかった。
「覚えていますか、あのとき――君が言った言葉」
「……『これも愛なの』……って、言った気がします」
「そう。……そのときのあなたは、少し擦り切れた笑顔をしていた。
でも、どうしてか……その笑顔が、ずっと心から離れなかった」
リリアナは、ふわりと微笑んだ。
「レオンハルト様……あの頃のわたしは、きっと“恋に恋してた”んです。
幸せになれるなら、どんな涙も正解だって、そう思い込んでました」
「……今は?」
「今は、ちょっと違う。
幸せになれる“誰か”じゃなくて、
“あなたと一緒にいる今”が、もう幸せなんだって気づいたんです」
言葉を受けて、レオンハルトは懐から小さな箱を取り出した。
蓋を開けると、そこには――
月のように輝く、銀のティアラが入っていた。
「これは、幼い頃のわたしが、あなたに贈りたいと夢見たものです」
「……わたしに?」
「はい。君は、“夢を見ること”を誰にも恥じなかった。
そんな君がいたから、わたしも夢を見てみたいと思えたんです」
そっとティアラを彼女の髪にのせる。
まるで、赤いリボンの上に、もうひとつの約束を重ねるように。
「……君のおかげで、私はこんなにも幸せになれました。
これからはもう大丈夫です。
だから、次は君に、幸せになってほしい」
その言葉が、胸にまっすぐ届く。
リリアナの瞳から、ぽろりと涙がこぼれた。
「……王子様。わたし、自分の“夢見がち”なところ、ずっと恥ずかしかったんです。
だけど、それを好きって言ってもらえたの、初めてで……うれしくて……」
「わたしは、君のすべてが好きです。
涙も、夢も、そして笑顔も。全部、抱きしめたい」
彼の言葉に、リリアナは震える声で応えた。
「……その幸せ、わたしも……もらっても、いいですか?」
「もちろんです」
ふたりはそっと額を寄せる。
満月の光に照らされて、影が重なる。
――これは、誓い。
ティアラに託された、ただひとりへの想い。
この花園で、ふたりは未来を贈り合った。
(つづく)
10
あなたにおすすめの小説
幸せアプリ
青の雀
恋愛
結婚間近の同棲していた恋人に捨てられ、契約直前の仕事を同期男性に盗られたその日はまさに厄日かと思われた。
帰宅して、風呂上りにスマホでサーフィンしていたら、見覚えのないアプリがインストールされている!
すぐに削除するつもりが……、次第にアプリの指示通り行動していたら、幸せが手に入るようになりました♡
不謹慎なブス令嬢を演じてきましたが、もうその必要はありません。今日ばっかりはクズ王子にはっきりと言ってやります!
幌あきら
恋愛
【恋愛ファンタジー・クズ王子系・ざまぁ】
この王子との婚約ばっかりは拒否する理由がある――!
アレリア・カッチェス侯爵令嬢は、美麗クズ王子からの婚約打診が嫌で『不謹慎なブス令嬢』を装っている。
しかしそんな苦労も残念ながら王子はアレリアを諦める気配はない。
アレリアは王子が煩わしく領内の神殿に逃げるが、あきらめきれない王子はアレリアを探して神殿まで押しかける……!
王子がなぜアレリアに執着するのか、なぜアレリアはこんなに頑なに王子を拒否するのか?
その秘密はアレリアの弟の結婚にあった――?
クズ王子を書きたくて、こんな話になりました(笑)
いろいろゆるゆるかとは思いますが、よろしくお願いいたします!
他サイト様にも投稿しています。
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
雪とともに消えた記憶~冬に起きた奇跡~
梅雨の人
恋愛
記憶が戻らないままだったら…そうつぶやく私にあなたは
「忘れるだけ忘れてしまったままでいい。君は私の指のごつごつした指の感触だけは思い出してくれた。それがすべてだ。」
そういって抱きしめてくれた暖かなあなたのぬくもりが好きよ。
雪と共に、私の夫だった人の記憶も、全て溶けて消えてしまった私はあなたと共に生きていく。
【完結】恋の終焉~愛しさあまって憎さ1000倍~
つくも茄子
恋愛
五大侯爵家、ミネルヴァ・リゼ・ウォーカー侯爵令嬢は第二王子の婚約者候補。それと同時に、義兄とも婚約者候補の仲という複雑な環境に身を置いていた。
それも第二王子が恋に狂い「伯爵令嬢(恋人)を妻(正妃)に迎えたい」と言い出したせいで。
第二王子が恋を諦めるのが早いか。それとも臣籍降下するのが早いか。とにかく、選ばれた王子の婚約者候補の令嬢達にすれば迷惑極まりないものだった。
ミネルヴァは初恋の相手である義兄と結婚する事を夢見ていたというに、突然の王家からの横やりに怒り心頭。それでも臣下としてグッと堪えた。
そんな中での義兄の裏切り。
愛する女性がいる?
その相手と結婚したい?
何を仰っているのでしょうか?
混乱するミネルヴァを置き去りに義兄はどんどん話を続ける。
「お義兄様、あなたは婿入りのための養子縁組ですよ」と言いたいのをグッと堪えたミネルヴァであった。義兄を許す?許さない?答えは一つ。
婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜
紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。
しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。
私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。
近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。
泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。
私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる