7 / 15
第七話:届かなかった恋文と、赤い証
しおりを挟む
夜の空気は、どこかさびしくて、あたたかい。
ノアディール帝国の星降る夜会。
宮廷の広間は、青と銀で統一され、まるで“夜空の中に立っている”ような錯覚を覚える。
リリアナのドレスは、夜露の雫を模したミルクブルー。
耳元には、王子が贈ってくれた小さな星のピアスが揺れていた。
(今日は、王子様が“わたしのために”作曲した曲を演奏する日)
緊張よりも、不思議なやわらかさが胸にあった。
でも、ほんの少しだけ……
“あの気持ち”を、手紙にして渡せなかったことが、心に引っかかっていた。
――好きです。
でもまだ、こわいんです。
好きになることが、
でも……わたし、あなたと手をつなぎたい。
便箋に書いたその言葉。
けれど渡せずに、引き出しの奥にしまったままだった。
***
そして、広間の灯りがふわりと落ちる。
注目が集まるステージに、ひとりの青年が現れた。
銀髪が、まるで星のしずくのように輝く。
王子・レオンハルト。
彼がピアノの前に座ると、空気が止まったように静かになる。
鍵盤にふれる、その指先。
やがて、旋律が生まれる。
やわらかく、でも確かに、胸に届く音。
それはかつて、花園の奥でリリアナが聴いた、あの旋律。
(この曲……“庭園の記憶”……)
音楽には、言葉がない。
でも、彼の奏でる音には、すべての想いが詰まっていた。
迷い、願い、後悔、そして――祈り。
それは彼の“告白”だった。
演奏が終わったとき、広間は静まりかえったまま。
そして、ひとりの少女が、そっと立ち上がる。
リリアナだった。
拍手の前に、ただ静かに歩き出す。
王子のもとへ、ゆっくりと、たしかに。
「……ありがとう、レオンハルト様。あの曲、すごく……わたしみたいでした。
……あの、わたし……手紙を、書いてたんです。本当は今日、渡そうと思って……でも……」
王子は首を横に振る。
「わたしは、それを読まずとも……もう、答えを受け取っています」
そう言って、彼は、胸のポケットから赤いリボンを取り出した。
すこし色あせて、けれど、やさしく結ばれたままのリボン。
「あなたがくれたこのリボンが、わたしをずっと導いてくれた。
“恋は、誰かのために涙を流すほどの奇跡”だと、教えてくれた。
この赤い証が、わたしの心そのものです」
王子はそのリボンを、そっとリリアナの髪に結ぶ。
「今、ようやく返します。……今度は、あなたの髪に似合うように」
リリアナの瞳に、涙がにじむ。
「……王子様……わたし、こわかったんです。
あなたに想われることが……幸せすぎて、夢みたいで……
……でも今、ちゃんと目が覚めた気がします」
星の光のなかで、ふたりはそっと笑い合った。
その笑顔こそが、届かなかった恋文の、
何より確かな返事だった。
(つづく)
ノアディール帝国の星降る夜会。
宮廷の広間は、青と銀で統一され、まるで“夜空の中に立っている”ような錯覚を覚える。
リリアナのドレスは、夜露の雫を模したミルクブルー。
耳元には、王子が贈ってくれた小さな星のピアスが揺れていた。
(今日は、王子様が“わたしのために”作曲した曲を演奏する日)
緊張よりも、不思議なやわらかさが胸にあった。
でも、ほんの少しだけ……
“あの気持ち”を、手紙にして渡せなかったことが、心に引っかかっていた。
――好きです。
でもまだ、こわいんです。
好きになることが、
でも……わたし、あなたと手をつなぎたい。
便箋に書いたその言葉。
けれど渡せずに、引き出しの奥にしまったままだった。
***
そして、広間の灯りがふわりと落ちる。
注目が集まるステージに、ひとりの青年が現れた。
銀髪が、まるで星のしずくのように輝く。
王子・レオンハルト。
彼がピアノの前に座ると、空気が止まったように静かになる。
鍵盤にふれる、その指先。
やがて、旋律が生まれる。
やわらかく、でも確かに、胸に届く音。
それはかつて、花園の奥でリリアナが聴いた、あの旋律。
(この曲……“庭園の記憶”……)
音楽には、言葉がない。
でも、彼の奏でる音には、すべての想いが詰まっていた。
迷い、願い、後悔、そして――祈り。
それは彼の“告白”だった。
演奏が終わったとき、広間は静まりかえったまま。
そして、ひとりの少女が、そっと立ち上がる。
リリアナだった。
拍手の前に、ただ静かに歩き出す。
王子のもとへ、ゆっくりと、たしかに。
「……ありがとう、レオンハルト様。あの曲、すごく……わたしみたいでした。
……あの、わたし……手紙を、書いてたんです。本当は今日、渡そうと思って……でも……」
王子は首を横に振る。
「わたしは、それを読まずとも……もう、答えを受け取っています」
そう言って、彼は、胸のポケットから赤いリボンを取り出した。
すこし色あせて、けれど、やさしく結ばれたままのリボン。
「あなたがくれたこのリボンが、わたしをずっと導いてくれた。
“恋は、誰かのために涙を流すほどの奇跡”だと、教えてくれた。
この赤い証が、わたしの心そのものです」
王子はそのリボンを、そっとリリアナの髪に結ぶ。
「今、ようやく返します。……今度は、あなたの髪に似合うように」
リリアナの瞳に、涙がにじむ。
「……王子様……わたし、こわかったんです。
あなたに想われることが……幸せすぎて、夢みたいで……
……でも今、ちゃんと目が覚めた気がします」
星の光のなかで、ふたりはそっと笑い合った。
その笑顔こそが、届かなかった恋文の、
何より確かな返事だった。
(つづく)
11
あなたにおすすめの小説
幸せアプリ
青の雀
恋愛
結婚間近の同棲していた恋人に捨てられ、契約直前の仕事を同期男性に盗られたその日はまさに厄日かと思われた。
帰宅して、風呂上りにスマホでサーフィンしていたら、見覚えのないアプリがインストールされている!
すぐに削除するつもりが……、次第にアプリの指示通り行動していたら、幸せが手に入るようになりました♡
不謹慎なブス令嬢を演じてきましたが、もうその必要はありません。今日ばっかりはクズ王子にはっきりと言ってやります!
幌あきら
恋愛
【恋愛ファンタジー・クズ王子系・ざまぁ】
この王子との婚約ばっかりは拒否する理由がある――!
アレリア・カッチェス侯爵令嬢は、美麗クズ王子からの婚約打診が嫌で『不謹慎なブス令嬢』を装っている。
しかしそんな苦労も残念ながら王子はアレリアを諦める気配はない。
アレリアは王子が煩わしく領内の神殿に逃げるが、あきらめきれない王子はアレリアを探して神殿まで押しかける……!
王子がなぜアレリアに執着するのか、なぜアレリアはこんなに頑なに王子を拒否するのか?
その秘密はアレリアの弟の結婚にあった――?
クズ王子を書きたくて、こんな話になりました(笑)
いろいろゆるゆるかとは思いますが、よろしくお願いいたします!
他サイト様にも投稿しています。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
運命の秘薬 〜100年の時を超えて〜 [完]
風龍佳乃
恋愛
シャルパド王国に育った
アリーリアはこの国の皇太子である
エドアルドとの結婚式を終えたが
自分を蔑ろにした
エドアルドを許す事が出来ず
自ら命をたってしまったのだった
アリーリアの魂は彷徨い続けながら
100年後に蘇ったのだが…
再び出会ってしまったエドアルドの
生まれ変わり
彼も又、前世の記憶を持っていた。
アリーリアはエドアルドから離れようと
するが運命は2人を離さなかったのだ
戸惑いながら生きるアリーリアは
生まれ変わった理由を知り驚いた
そして今の自分を受け入れて
幸せを見つけたのだった。
※ は前世の出来事(回想)です
婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
【完結】恋の終焉~愛しさあまって憎さ1000倍~
つくも茄子
恋愛
五大侯爵家、ミネルヴァ・リゼ・ウォーカー侯爵令嬢は第二王子の婚約者候補。それと同時に、義兄とも婚約者候補の仲という複雑な環境に身を置いていた。
それも第二王子が恋に狂い「伯爵令嬢(恋人)を妻(正妃)に迎えたい」と言い出したせいで。
第二王子が恋を諦めるのが早いか。それとも臣籍降下するのが早いか。とにかく、選ばれた王子の婚約者候補の令嬢達にすれば迷惑極まりないものだった。
ミネルヴァは初恋の相手である義兄と結婚する事を夢見ていたというに、突然の王家からの横やりに怒り心頭。それでも臣下としてグッと堪えた。
そんな中での義兄の裏切り。
愛する女性がいる?
その相手と結婚したい?
何を仰っているのでしょうか?
混乱するミネルヴァを置き去りに義兄はどんどん話を続ける。
「お義兄様、あなたは婿入りのための養子縁組ですよ」と言いたいのをグッと堪えたミネルヴァであった。義兄を許す?許さない?答えは一つ。
雪とともに消えた記憶~冬に起きた奇跡~
梅雨の人
恋愛
記憶が戻らないままだったら…そうつぶやく私にあなたは
「忘れるだけ忘れてしまったままでいい。君は私の指のごつごつした指の感触だけは思い出してくれた。それがすべてだ。」
そういって抱きしめてくれた暖かなあなたのぬくもりが好きよ。
雪と共に、私の夫だった人の記憶も、全て溶けて消えてしまった私はあなたと共に生きていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる