秘密のアルバイト

春日井駿

文字の大きさ
6 / 20

6.血の狂宴

しおりを挟む
 血の匂いが空気を濃く染める中で、織姫の瞳に宿る光がより一層深い暗闇を帯びていた。美由紀の腕から滴る赤い珠が白いシーツに染みを作るたびに、彼女の唇に浮かぶ微笑みは静かな満足感を湛えていく。
「まだ序章に過ぎないのよ、美由紀」織姫はそっと囁きながら、手に持ったメスを一度テーブルに置いた。
「貴女の身体は私にとって最高のキャンバスなの。でも、この道具では物足りなくなってきたわ」
 美由紀は息を荒げながら織姫を見上げた。腕の傷から流れる血で意識が朦朧としているが、織姫の言葉の意味だけは恐ろしいほどはっきりと理解できていた。
 織姫はゆっくりと立ち上がり、ワゴンへと向かった。そこには様々な刃物が整然と並べられている。彼女の指が一本の果物ナイフの柄に触れると、その冷たい金属の感触が彼女の興奮をさらに高めた。
 刃の長さは約十センチ、先端は鋭く尖り、果肉を切るために設計されたそれは、今この瞬間、全く別の目的のために選ばれようとしていた。
「これなら、もっと深く貴女の内側を探ることができるわね」
 織姫は果物ナイフを手に取ると、その刃を明かりにかざした。金属が放つ鈍い光が彼女の顔に影を作り、その表情をより一層冷酷に見せていた。
 美由紀の目がナイフの刃に釘付けになった。
 「お、お願いします、もうやめて」
 彼女の声は震えていたが、織姫にとってその懇願は逆に快楽の源泉でしかなかった。
「やめる?」
 織姫は首を傾げながら美由紀の横に戻ってきた。
 「でも私たちのアルバイト契約はまだ始まったばかりよ。貴女は大金が必要なのでしょう?だったら、この程度で音を上げていては何年かかるかわからないわよ」
 織姫の視線は美由紀の身体を上から下へとゆっくりと移動していく。腕に刻まれた傷を確認すると、今度は白いホットパンツから剥き出しになった太腿に注意を向けた。
「今度はここを使いましょう」
 織姫は白磁のような美由紀の右の太腿を撫でながら、
 「もっと大きなキャンバスが必要なの」
 と涎でもたらしそうなうっとりした表情で言った。
 美由紀は必死に身体をよじろうとしたが、手首と足首を固定している枷が彼女の動きを完全に封じていた。織姫は片手で美由紀の太腿を押さえ、もう一方の手で果物ナイフの柄をしっかりと握った。

「深呼吸をして、美由紀」
 織姫の声は医師が患者に語りかけるような穏やかなトーンを保っていた。
 「痛みは一瞬よ。でも、その後に訪れる感覚はもっと興味深いものになるはず」
 そして織姫は一切の躊躇なく、果物ナイフの刃を美由紀の太腿に突き刺した。刃は皮膚を貫き、筋肉組織の中へと深く侵入していく。
 約三センチの深さまで刺さったナイフが美由紀の肉体に食い込む音は、部屋の静寂を破る唯一の音だった。
「がああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 美由紀の叫び声が部屋中に響き渡った。それは彼女がこれまでの人生で発したことのないような、純粋な苦痛から生まれた絶望的な悲鳴だった。
 織姫は美由紀の反応を興味深そうに観察しながら、ナイフの柄をゆっくりと動かし始めた。刃を縦方向に引くと、皮膚と筋肉が裂けていく感覚が彼女の手に伝わってくる。
 「素晴らしい音色ね」
 織姫は小さくつぶやいた。
 「肉が裂ける音、貴女の叫び声、すべてが完璧な調和を奏でているわ」
 ナイフは美由紀の太腿を縦に約五センチにわたって切り裂いた。深さ三センチ、長さ五センチの傷口からは鮮血が勢いよく溢れ出し、白いシーツを真っ赤に染めていく。
 美由紀の身体は激痛によって痙攣し、彼女の意識は痛みという現実と混乱の境界線を行き来していた。
「もう、もうやめて??」
 美由紀は涙を流しながら織姫に懇願したが、彼女の言葉は届くことはなかった。
 織姫はナイフを傷口から抜き取ると、それをワゴンの上に置いた。そして今度は自分の指を使って、美由紀の傷口をより詳しく探索しようと考えた。
「指の方が繊細な感覚を味わえるのよ」
 織姫は右手の人差し指と中指を傷口の端に当てがった。
 「貴女の内側がどのような感触なのか、直接確かめてみたいの」
 織姫の指がゆっくりと傷口の中に侵入していく。切り裂かれた筋肉組織の温かさと湿り気が指先に感じられ、それは彼女にとって言い表せない快感をもたらしていた。
「温かくて、柔らかくて」
 織姫は指を傷口の奥深くまで押し込みながらつぶやいた。
 「人間の身体は本当に神秘的ね。外側からは見えない部分が、こんなにも美しいなんて」
 美由紀の身体は激しい痙攣に襲われ、太腿の筋肉が不規則にひくひくと動いていた。傷口から流れ出る血液の量は増え続け、彼女の意識はさらに朦朧としてきた。
 織姫は指での探索を続けながら、美由紀の表情の変化を注意深く観察していた。痛みによって歪む顔、涙で濡れた頬、必死に何かを訴えようとする唇の動き、すべてが織姫の興奮を高める要素となっていた。
「こんなに血が出るなんて、私の技術も上達したものね」
 織姫は満足そうにつぶやきながら、指を傷口からゆっくりと引き抜いた。指は美由紀の血で真っ赤に染まっており、その色合いを見つめる織姫の瞳には深い陶酔感が宿っていた。
 しかし、織姫の欲望はそこで満たされることはなかった。彼女は顔を美由紀の太腿に近づけ、唇を傷口の縁に押し当てた。血の匂いと味が彼女の感覚を刺激し、さらなる快楽を求める衝動を駆り立てた。
「美味しいわ、美由紀」
 織姫は舌を出して傷口の周囲を舐めながら言った。
 「貴女の血は思っていた以上に甘くて濃厚ね」
 織姫の舌が傷口の内部にまで侵入すると、美由紀の身体はより一層激しく震え始めた。舌先が切り裂かれた筋肉組織に触れるたびに、新たな痛みの波が彼女を襲った。
「やめて、お願いだから」
 美由紀の声はもはやかすれており、彼女の体力は急速に失われていた。
 しかし織姫は美由紀の懇願を無視し、今度は傷口に歯を当てがった。彼女は美由紀の肉を実際に食べようとしているわけではなかったが、歯で肉を挟み、軽く圧力をかけることで新しい種類の痛みを与えようと考えていた。
「少し噛んでみるわね」
 織姫は傷口の端の肉を歯で挟むと、ゆっくりと力を加えた。
 「どこまで貴女が耐えられるか試してみましょう」
 美由紀の絶叫が再び部屋に響いた。織姫の歯が肉に食い込む感覚は、これまで経験したどの痛みよりも強烈で直接的だった。彼女の意識は痛みの波に翻弄され、現実と悪夢の境界が曖昧になっていた。
 織姫はしばらく美由紀の肉を歯で挟み続けた後、ゆっくりと顔を上げた。彼女の唇と顎には美由紀の血が付着しており、それは彼女の美しい顔立ちに異様なコントラストを作り出していた。
「萌美」
 織姫は部屋の隅で震えている少女に声をかけた。「こちらに来なさい」
 萌美は織姫の命令に従い、足音を立てないよう慎重に二人の近くまで歩いてきた。彼女の目は美由紀の傷口から流れる血液に釘付けになっており、その光景に対する複雑な感情が彼女の表情に現れていた。
「この血を舐めて」
 織姫は美由紀の太腿を指さした。「貴女は私のペットなのだから、私の指示に従う義務があるでしょう?」
 萌美は一瞬躊躇したが、織姫の冷たい視線を感じると素直にうなずいた。彼女は膝をついて美由紀の太腿に近づき、恐る恐る舌を血液に触れさせた。

「そう、いい子ね」
 織姫は萌美の頭を優しく撫でながら、彼女が血を舐める様子を眺めていた。
 「もっとしっかりと舐めなさい。一滴も無駄にしてはいけないわ」
 萌美の小さな舌が美由紀の太腿を這い回り、流れ出た血液をゆっくりと舐め取っていく。その光景を見つめる織姫の表情には、深い満足感と征服欲が混在していた。
「完璧よ」
 織姫は小さくつぶやいた。
 「これこそ私が求めていた光景ね。支配と服従、痛みと快楽、すべてが理想的な形で実現されているわ」
 美由紀は意識を失いかけながらも、自分の血が少女によって舐められている現実を朦朧とした意識の中で理解していた。この異常な状況に対する恐怖と絶望が、彼女の心を完全に支配していた。
 織姫は萌美が血を舐める様子をしばらく眺めた後、満足そうに微笑んだ。彼女の欲望は一時的に満たされたが、これが終わりではないことを美由紀も萌美も理解していた。
「今日のお仕置きはここまでね。美由紀には少しばかり刺激が強すぎたようだし、少し休憩しましょう。落ち着いた頃からまた呼ぶからゆっくりおやすみなさい」織姫は立ち上がりながら言った。
「愛生、あとはよろしくね。くれぐれも痕を残さないよう、お願いしますね」
 愛生は織姫の言葉に恭しくお辞儀する。
「はい、心得ております。お任せください」
 薄れゆく意識の中で愛生の言葉が頼もしく思えた美由紀は、安堵の所為なのか、そのまま意識を失った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。 そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。 夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。 それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになるのでご安心ください。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

処理中です...