推しカプを愛でるために、悪役令嬢の私は壁姫になろうと思います!

明夏 向日葵

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ロゼリス、初恋(?)に混乱中!アーロン殿下の距離が近すぎて心拍数が危険領域!?

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シルビア殿下の誕生祭まで、あと二日。
王宮は準備に追われ、朝から晩まで人の気配が絶えない。

そんな中ロゼリスは、ある意味“別の戦場”にいた。
そう、“恋”という未知の魔窟である。

(アーロン殿下の顔を見ると……あのキスを思い出してしまいますの! そして胸が、心臓が、破裂しそうになりますのぉぉぉ!!)

それ以来、ロゼリスはアーロンの顔をまともに見られなくなっていた。
距離を取るようにして、ケーキ作りに励むルチアの手伝いをしている。

(何かに集中していれば、アーロン殿下のことを考えずに済むはずですわ!)

そう自分に言い聞かせながら、ホワイトチョコで白薔薇を形作るロゼリス。
その手付きは、まるで芸術家のように繊細で美しい。

「まぁ……! ロゼリス様、お菓子の才能までおありなのね!チョコで薔薇を作るなんて、すごいですわ!」

ルチアの無垢な瞳がきらきらと輝く。
ロゼリスは即死した。

(か、可愛すぎますわ!! 尊すぎて息ができませんわ!!)

「細かい作業は得意なのですわ! それよりも、この数日でこんなにも完成度の高いケーキを……さすがルチア様ですわ! シルビア様がうらやましいですわ!」

「ふふ。そんなことありませんわ。あっ、そうだ!」
ルチアは嬉しそうにテーブルの奥から皿を取り出した。
「ロゼリス様の大好物、ティラミスを作ってみたのです。
よければ……味見、してくださいますか?」

フォークですくったティラミスを、ルチアはそのままロゼリスの口元に差し出す。

(こ、これは……推しからの“あーん”!?!? 尊死案件ですわぁぁぁ!!)

ロゼリスの頭の中で花火が上がる。
幸せすぎて、鼻血寸前。

その光景を、扉の陰から見ていた男がひとり。

アーロンだった。

(……ちっ。)
普段なら無表情の彼の眉間に、わずかな皺が寄る。

(キスしてから、俺を見れば真っ赤になって逃げるくせに……。ルチア嬢とはこんなに楽しそうにして……あーんだと!?)

拳を握りしめる。
胸の奥が、じくりと熱くなった。

(ロゼリスを照れさせるのも、笑わせるのも……俺だけでいい。それ以外はいらねぇ。)

静かに息を吐き、アーロンはその場を去った。



「ふふ~ん♪ るんるん♪ 幸せ~♪」

ルチアとのお菓子タイムを終えたロゼリスは、上機嫌で王子の私室へ向かっていた。
(ルチア様に“あーん”される日が来るなんて……! 今なら王都を三周走れますわ!)

だが、部屋に戻ると空気が違った。

執務机に座るアーロンは、眉間に皺を寄せ、書類に目を落としながらも機嫌が悪い。
穏やかなその顔が、今日はやけに冷たい。

(き、機嫌が悪い……!? なぜですの!? 朝はあんなに爽やか王子だったのに!?)

「……アーロン殿下、私、何か無礼を働きましたでしょうか?」
おそるおそる尋ねるロゼリス。

アーロンはゆっくりと立ち上がり、ロゼリスの腰を引き寄せた。
驚いて身を固くするロゼリスの瞳を、真紅の瞳が射抜く。

「なぜ俺を避ける。」

低く響く声。
まるで心の奥を覗き込まれているようだった。

「そ、それはそのっ……!」
ロゼリスの顔が一瞬で真っ赤になる。
「アーロン殿下のことを思い出すと……胸がドキドキして……落ち着かなくて……だから……避けてしまっただけでして……」

声がだんだんと小さくなり、最後の方はほとんど囁き。

アーロンの口元に、ゆっくりと笑みが浮かぶ。

「……そうか。お前の頭の中は、俺でいっぱいってことか。」

「そ、そういう意味では――」

「なら、ルチア嬢と“あーん”してたことは、咎めねぇでおいてやる。」

「っ!? ルチア様とイチャイチャなんてしておりませんわ!!」

「“あーん”してもらって、顔まで真っ赤にしておいて?」
アーロンの声が少しだけ低くなった。
「……俺にキスされた時より、嬉しそうだったじゃねぇか。」

「そ、それは!! ルチア様が尊すぎたからでして!! 別にアーロン殿下と比べてとかではなく!!」

「“尊い”って言葉、俺にも使えよ。」

「はぁ!?!?!?」

耳元で囁く声。
距離、近い。
心拍数、危険領域。

「俺のこと、ちゃんと見ろ。逃げんな。」

アーロンの赤い瞳に捕まれた瞬間、ロゼリスの世界が止まった。

胸の奥で跳ねる鼓動。
体の芯が熱くなる。
(ああもうっ……アーロン殿下のこの距離……心臓がもちませんわぁぁぁ!!)

「……お前が、俺の頭の中をいっぱいにしてどうすんだよ。」

アーロンの唇が、微かに笑みを帯びて――
そのままロゼリスの額へ、そっとキスを落とした。

「……おやすみ、ロゼリス。」

「お、おやすみなさいませ……っ……!」

逃げるように寝室へ飛び込んだロゼリスの顔は、熟れたリンゴのように真っ赤だった。

扉の向こうで、アーロンが小さく笑う。
(……やっぱ、俺を避ける顔より、照れてる顔の方が断然いいな。)
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