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♠︎過去のトラウマ♠︎弘田宇丈
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みひろさんは、躊躇いつつもほぼすべての質問に答えていた。それも、嘘や体面なく、本音で答えている…少なくともオレにはそう思えた。
厳しかったお祖母さんへの思い。反発。味方にならない両親への苛立ちと絶望。「良い子」を演じるしかなかった学生時代…。
大学の時に恋した男性との付き合いに、「何処の馬の骨ともわからない男に白石の家の敷居は跨がせない」と激昂されたこと…。
すげぇな…オレみたいな庶民には考えつかない世界だ。人と付き合うことに「血筋」が関連するって、本当にあるんだな…。
一族の長であったお祖母さんには誰も逆らえなかった。
力がない子ども。
支配する大人。
味方がいないみひろさんがこの家でうまくやっていくには、己を殺し、感情や欲求を滅して相手の顔色を伺いつつ、相手が気に入るように振る舞うしかなかった…。
そんな彼女の過去がやるせなくて…この呪縛を断ち切ってやりたいと、心から願った。
「…白石の家は、長男ではなく長女が家を継ぐ、という因習があります。ですから、祖父は婿養子でした」
「珍しいですね?」
「はい…父は男兄弟しかいませんし長男なので、父が家を継ぎましたが…」
「じゃあ、本来なら真柴さんが家を継ぐはずですよね?なぜ婿養子を取らなかったんですか?」
びくん、とみひろさんが身じろいだ。落ち着いていた呼吸が…一気に浅くなる…。
「それは…その、祖母の要望で…」
「お祖母さんの?」
「はい…」
「…どうしてですかね…」
「さあ…」
「…お祖母さんのように、しきたりや一族の因習を重んじる方なら…真柴さんが婿養子を取るのでは?」
「…」
みひろさんの手が強く握りしめられ…血の気がなくなっていた。
アオはその様子を見て、みひろさんの手をそっと握った。みひろさんがびくん、と体を震わせた。
「大丈夫…安心して」
アオがそう声をかけると、しばらくしてみひろさんの体から力が抜けた。みひろさんが安定したのを見ると、アオはそっと手を離した。
「違う質問をさせてください」
「はい」
「お祖母さんが亡くなったときは…どう思いましたか?」
「…悲しかったです…」
「それ以外の感情は?」
「…」
「何を言っても大丈夫です。どんな感情も、正直に、素直に話してください」
「あ…」
みひろさんの様子が、少し変わった。また息が浅くなり、額に少し汗をかいている…。
「ここは守られています。本音を出して大丈夫です」
「…」
ごくっと、みひろさんが唾を飲み込み、一呼吸置いてから言った。
「…安心、しました…」
「安心?」
「もう…叱られない、監視されない…自由になれたと…そう思ったんです…」
厳しかったお祖母さんへの思い。反発。味方にならない両親への苛立ちと絶望。「良い子」を演じるしかなかった学生時代…。
大学の時に恋した男性との付き合いに、「何処の馬の骨ともわからない男に白石の家の敷居は跨がせない」と激昂されたこと…。
すげぇな…オレみたいな庶民には考えつかない世界だ。人と付き合うことに「血筋」が関連するって、本当にあるんだな…。
一族の長であったお祖母さんには誰も逆らえなかった。
力がない子ども。
支配する大人。
味方がいないみひろさんがこの家でうまくやっていくには、己を殺し、感情や欲求を滅して相手の顔色を伺いつつ、相手が気に入るように振る舞うしかなかった…。
そんな彼女の過去がやるせなくて…この呪縛を断ち切ってやりたいと、心から願った。
「…白石の家は、長男ではなく長女が家を継ぐ、という因習があります。ですから、祖父は婿養子でした」
「珍しいですね?」
「はい…父は男兄弟しかいませんし長男なので、父が家を継ぎましたが…」
「じゃあ、本来なら真柴さんが家を継ぐはずですよね?なぜ婿養子を取らなかったんですか?」
びくん、とみひろさんが身じろいだ。落ち着いていた呼吸が…一気に浅くなる…。
「それは…その、祖母の要望で…」
「お祖母さんの?」
「はい…」
「…どうしてですかね…」
「さあ…」
「…お祖母さんのように、しきたりや一族の因習を重んじる方なら…真柴さんが婿養子を取るのでは?」
「…」
みひろさんの手が強く握りしめられ…血の気がなくなっていた。
アオはその様子を見て、みひろさんの手をそっと握った。みひろさんがびくん、と体を震わせた。
「大丈夫…安心して」
アオがそう声をかけると、しばらくしてみひろさんの体から力が抜けた。みひろさんが安定したのを見ると、アオはそっと手を離した。
「違う質問をさせてください」
「はい」
「お祖母さんが亡くなったときは…どう思いましたか?」
「…悲しかったです…」
「それ以外の感情は?」
「…」
「何を言っても大丈夫です。どんな感情も、正直に、素直に話してください」
「あ…」
みひろさんの様子が、少し変わった。また息が浅くなり、額に少し汗をかいている…。
「ここは守られています。本音を出して大丈夫です」
「…」
ごくっと、みひろさんが唾を飲み込み、一呼吸置いてから言った。
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「安心?」
「もう…叱られない、監視されない…自由になれたと…そう思ったんです…」
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