籠の鳥

橘 薫

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性癖

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 ぴくり、と揺れる直線的で脂肪の少ない、バネのある体。指で辿れば演技ではないかと疑うほど敏感に反応する。
「ねぇ、これだけでそんなに反応しちゃったらもたないよ?」
「いや、そのっ……、くすぐったくて」
 
 反応がいちいち可愛い。年上の、おばさんと呼ばれてもおかしくない歳の女の前で、タオルを巻いただけの半裸状態。わたしの方は下着一枚、胸は露わだ。
 こんな状態で、彼の心の中はどうだろうか。自由を奪われている、ということに屈辱的な思いを持つ男は多い。その屈辱に屈し、プライドを捨てて懇願する姿を見たいだけなのだ。

 フェイスラインを指でなぞり、唇に触れる。
「舐めて」
「な、め……?」
「いやらしく。できる?」
「は、はい」
 ベッドの上、壁を背に座る彼を跨ぎ、指を舐める彼を見つめる。彼もまた、わたしの顔色を伺いながら指をしゃぶる。
「もっとゆっくり。舌を出して、見せつけるように」
「は、い」
「美味しいものを、時間をかけてゆっくり食べるようにしてみて。ソフトクリームを舐めとるみたいに」
「は、い」

 唾液まみれになる指。わたしは中指と薬指も彼の口にねじ込み、三本の指を咥えさせた。彼の口の中でねっとりと、しかし不慣れに愛されるわたしの指。そうだ、大事なことを教えなければ。

「愛して大切にする、ってどういうことだかわかる?
「んっ、い、え」
「わからない?」
「は、い」
 彼の口の奥に指を突っ込む。一真くんは苦しそうに顔を歪めた。
「優しくするの。肌に触れるときも話しかけるときも優しく。女は乱暴なのやうるさいのは大嫌いなのよ。そして自分の快楽よりも相手の快楽を考えることよ」
「は、い」
「特別だ、って思わせたら、相手はいい気分になる。女にとって愛されるってそういうことよ」
「……」
「まだわからなくてもいい。この仕事を続けるなら、覚えておいて損はないと思うから」
 
 腰を落とし、空いている方の手で彼自身にそっと触れる。強い刺激を与えてはダメ。欲しがる様子を見たいなら、与えられそうで与えられない、というのが一番効果的だ。今度こそ、という期待を何度も裏切られると理性が決壊する。その瞬間を見るために、わたしは大枚を払うのだ。
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