籠の鳥

橘 薫

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聖夜

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「美彩さん、聞いてもいいですか」
 少し酔いが回ったのか、頬がほんのり赤くなっている一真くんが上目遣いでわたしを見る。
「なに?」
「あの……」
 躊躇うように目を伏せる。長いまつ毛だなぁ、とその様子を見て思う。最近の男の子って、まつ毛がナチュラルに長くて狡い。

「美彩さん、性欲がないって前に言ってましたけど」
「まったくないわけじゃないよ、時期に寄る、っていうだけ」
「そう、ですか」
 また、躊躇いを思わせるようにマグカップを両手で弄り始める。
「なに? 何が聞きたいの?」
「その……」
 意を決したかのように顔を上げる。わたしと目が合うとまた慌てて逸らした。

「今までの彼氏さんとも、あんな感じのことをしてたんですか」
「あんな感じ?」
「縛って、イカせて、っていう」
「ああ」
「それとも、ちゃんと、その、最後まで……?」

 ホットワインのせいだろうか。あるいは、一真くんはわたしの脅威にはならないと思っているからだろうか。何もかもぶちまけてしまいたい気分になっている。そして、それに自制をかける自分もまた、同時に存在している。

「前の男と別れたのは、六年前。六年間特定の人はいないの」
「あ……、すみません、変なこと聞いちゃって」
「わたし、その男の愛し方以外はダメになってしまって」
 口が滑る。喋ってしまう。誰にも言ったことのない、あの男のこと。わたしの体に見えない所有の印を、永遠に刻み込んで消えてしまった……あの男。

「わたしね、彼の奴隷だったの」
 一真くんが顔を上げる。その瞳には疑問符が浮かんでいる。なのに何一つ聞いてこないのは、一真くんなりの気遣いか。話したいなら話して。話したくないなら話さないでいいよ。僕はただ、ここで聞いてるだけだからーー。

 すぅ、と大きく息を吸う。一真くんがわたしに欲情することなどないのだ。十五歳の歳の差は、買うか買われるかでの欲のやり取りはあっても、お金が絡まなければ何も生まれない。
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