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聖夜
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穏やかな雰囲気、ピースフルで愛すべき聖夜。一真くんが「まだ見習いなんで」と謙遜しつつ入れてくれたコーヒーはとても美味しかった。
「クリスマスイブに過ごせる相手がいるの、いいですね」
「そう?」
「愛児園では、毎年サンタクロースが来ましたけど……幼心に、本当に欲しいものはくれないんだな、って分かってました」
本当に欲しいものって? と無邪気に聞いてしまった自分を、後から悔やむ。一真くんは「家族です」と寂しそうに微笑んだ。
「でも、僕はそれこそ家族と言えるくらいの親友が愛児園でできたから。それはすごく感謝だと思ってます。愛児園にいなけりゃ、あいつと出会うことはなかったんで」
「そうなんだ。その人は今でも連絡を取ってるの?」
一真くんはわたしを見た、その瞳の怜悧さに、さっきまでの和やかな雰囲気が一瞬で消える。わたし、何か聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。
「……いえ、今はもう、連絡は取ってないです」
「そう、か」
深入りして聞いてはいけないのだろうと思う。そのままコーヒーを飲み干すと、カップの底に残ったコーヒーの模様がまん丸だった。
「一真くん、お酒飲めるよね?」
「はい、一応は。あまり強くないですけど」
「ホットワインでも作ろうか。イブだし」
「え、なんかめっちゃお洒落じゃないですか」
マグカップを二つ出して赤ワインを注ぎ、スライスした生姜、シナモンパウダー、冷蔵庫に少しだけ残っていたレーズンを見つけてそれも入れた。電子レンジで温めるだけだから、簡単すぎてホットワインと称していいものか、とも少し思う。
「熱いから気をつけて」
一真くんにマグカップを渡すと、嬉しそうにくんくんと匂いを嗅いでいる。その様子は、仔犬が初めて見るものの匂いを嗅いでいるようにも見える。
「おいしいです。僕、ホットワインって初めて飲みました」
「良かった。若いから初めてがたくさんあるね」
「はい、知らないことが多すぎて恥ずかしいですけど」
「いいのよ、若いんだもの。これから経験を積んでいくんだから」
そこまで言って、一真くんに経験させてしまった「あのときのこと」を思い出す。さっき、昔の男のことを思い出したからだろうか……季節の変わり目でも、排卵日でもないのに、なんだか体の奥が疼く。
「クリスマスイブに過ごせる相手がいるの、いいですね」
「そう?」
「愛児園では、毎年サンタクロースが来ましたけど……幼心に、本当に欲しいものはくれないんだな、って分かってました」
本当に欲しいものって? と無邪気に聞いてしまった自分を、後から悔やむ。一真くんは「家族です」と寂しそうに微笑んだ。
「でも、僕はそれこそ家族と言えるくらいの親友が愛児園でできたから。それはすごく感謝だと思ってます。愛児園にいなけりゃ、あいつと出会うことはなかったんで」
「そうなんだ。その人は今でも連絡を取ってるの?」
一真くんはわたしを見た、その瞳の怜悧さに、さっきまでの和やかな雰囲気が一瞬で消える。わたし、何か聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。
「……いえ、今はもう、連絡は取ってないです」
「そう、か」
深入りして聞いてはいけないのだろうと思う。そのままコーヒーを飲み干すと、カップの底に残ったコーヒーの模様がまん丸だった。
「一真くん、お酒飲めるよね?」
「はい、一応は。あまり強くないですけど」
「ホットワインでも作ろうか。イブだし」
「え、なんかめっちゃお洒落じゃないですか」
マグカップを二つ出して赤ワインを注ぎ、スライスした生姜、シナモンパウダー、冷蔵庫に少しだけ残っていたレーズンを見つけてそれも入れた。電子レンジで温めるだけだから、簡単すぎてホットワインと称していいものか、とも少し思う。
「熱いから気をつけて」
一真くんにマグカップを渡すと、嬉しそうにくんくんと匂いを嗅いでいる。その様子は、仔犬が初めて見るものの匂いを嗅いでいるようにも見える。
「おいしいです。僕、ホットワインって初めて飲みました」
「良かった。若いから初めてがたくさんあるね」
「はい、知らないことが多すぎて恥ずかしいですけど」
「いいのよ、若いんだもの。これから経験を積んでいくんだから」
そこまで言って、一真くんに経験させてしまった「あのときのこと」を思い出す。さっき、昔の男のことを思い出したからだろうか……季節の変わり目でも、排卵日でもないのに、なんだか体の奥が疼く。
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