籠の鳥

橘 薫

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聖夜

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「生半可な気持ちじゃできないのよ。お互いに信頼しあって、委ねる気持ちがないと無理。お金で買う関係ならビジネスとして割り切れるから、信頼はなくてもいいけど」
「僕、ダメですか? 信頼してもらえませんか?」
「そうじゃなくて」

 一真くんの真剣な目に絆されそうになる。この子は、どこまでも他人を信頼できるというのか。
 愛がなくても相手を信頼することはできるし、信頼できなくても相手を愛することはできる。でも、あの行為は、相手にすべてを委ね、そして委ねられる責任がある。
 なんせ他人の自由を奪うのだ。もしかしたら一生解かれないかもしれない手枷足枷。与えられないかもしれない水や食べ物。その気になれば、拘束した相手をそのままにして、何日も家を空けることだってできるのだから。

 すっかり酔いが覚めてしまった。やはり、この子に喋るべきではなかったかも、と後悔する。

「大袈裟って思うかもしれないけど、あれは命を預ける行為なのよ」
「美彩さんになら、僕……、命を預けられます」
「どうして? わたしたち、まだ知り合ってそんなに経ってないのに」
「でも、一緒に暮らしてれば分かります。それに、僕……」

 恥ずかしそうに目を伏せる。その仕草に知らず体の奥が疼く。この子をもっと恥ずかしがらせたい、と思う。頬を真っ赤に染めて、潤んだ瞳で欲に負ける瞬間が見たい。人間の弱い部分……普段は表に出さない本能と快楽をさらけ出させたい……お金が絡まない、ビジネスではない、場所で。

「僕、美彩さんのペットですよね」
「うん、まぁ、そういう約束だったよね」
「なら僕、美彩さんを信頼できます。美彩さんになら、僕のすべてをさらけ出せる。みっともないところも、情けないところも、見せる覚悟はできてます」

 ずくん、と今度は確実に体の奥が脈打った。その脈動は一度では収まらなかった。奥深いところをゆっくりと揺らすように連続し、わたしの体を震わせる。
 この子を従わせたい、快楽をコントロールしたい、支配したい、委ねさせたい……。
 その、思ったよりも強い欲に、流されないように必死で理性に掴まった。
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