籠の鳥

橘 薫

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聖夜

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 熱いシャワーのほとばしりに身を任せる。決して広いとはいえないバスルームは、蒸気でむせ返りそうだった。
 いつもは使わない、特別なとき用のボディソープはローズの香りだ。シャワーから上がると全身に同じラインの化粧水とクリームを丁寧に塗り込んでいく。

 下着は、何を着けようかと一瞬考え、一真くんにアイマスクをさせたことを思い出す。いや、見えなくとも自分の気持ちを盛り上げるために、必要な演出だ。わたしの下着は男に見せるためではなくて、自分の気持ちを昂らせるために揃えているのだから。

 準備を整え、ベッドルームに向かう前にキッチンに寄る。冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、キャップを開けて一口飲む。冷たい水が喉、そして胃へと落ちていくのを感じる。

 ちらり、とベッドルームに目をやる。一真くんは今、どうしているだろう。焦らされ、待たされて退屈しているだろうか。それとも、何をされるのかを妄想して変わらずに昂ぶったままだろうか。

 物音を立てないようにベッドルームへ。間接照明だけの部屋は薄ぼんやりとしていて、目が慣れるまで少し時間がかかった。

 一真くんはベッドの上で、さっきと変わらない体勢でいた。当然か。両手両足を拘束されて、多少身を捩ったとしても腰の位置が変わるだけ。でも、シーツによれはなかった。

 気配を消し、呼吸にも気を配り、そっと足を前に進める。彼はわたしの気配に気づいたのか、顔をこちらに向けた。

「美彩、さん?」
 返事の代わりに手を伸ばす。人差し指の腹で、つん、と頬をつつく。
「美彩さん、待ってました」
「うん、よくできました」
「ご褒美……ありますか」
 こういうところはまだ躾けなければならない。自らご褒美を強請ってはいけないのだ、と。

「ご褒美はねだってはダメよ」
 耳元に口を寄せ、吐息多めに囁くと一真くんはぴくん、と体を震わせた。そのまま、耳を舐りながら囁く。
「ご主人様を喜ばせたら、ご褒美……」
 あ、げ、る、と、声ではなく吐息で告げた。そのまま耳に口づけ、食みながら唇に指を這わせる。

「舐めて」
 差し込まれたわたしの指を、大人しく咥えて舌でねぶる。動きが早い。
「もっとゆっくり。エロティックにね。できる?」
 こくり、と頷く彼は真摯だ。与えられた指が何に使われるのかわからないまま、ただ真剣に、命令通りに行動している。
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