籠の鳥

橘 薫

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ドミナント

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 それを聞いてどこかで安心した自分がいる。今夜、彼にドミナントの有り様を教えるときに、普通に女の体に性欲を向けるタイプならば、わたしを好きに蹂躙できてしまう。
「僕は、単純に美彩さんが何をされたのかが知りたいんです。誰かを支配しようとか、そういうことではないんです」

 わかった、と頷く。わたしはキャリーケースから手枷と足枷を出した。
「これは、ある意味儀式的なものなの。だから、普通とは違うってことはちゃんと覚えておいてね」
「はい」
「今日は、わたしがあの男にされたことを順を追ってやろうと思う。まず、ドミナントは決して動揺してはダメ。動揺はサブミッシブを不安にさせる。不安があると快楽に100%集中できないでしょ?」
「はい」
 固く引き結ばれた口元。真面目な性格の一真くんは、メモでも取りそうな雰囲気だ。

「一真くんがわたしにされたときのことを思い出して。わたしはあなたを不安にした?」
「えっ……、いえ、してないです」
「初めてのことに対しての不安はあったと思うけど、それは払拭したと思うし、わたしの言動から自分がどう扱われるかはちゃんと伝わったと思ってるんだけど、どうだったかな」
「ちゃんと、してもらえました」
「そうね、傷つけたり痛いことや嫌がることは絶対にしない。その約束を破るのは万死に値する」
「はい」
「大袈裟ではなくて本当にそうなのよ」
「分かってます」

「じゃあ、手枷を嵌めて」
「はい」
 一真くんはわたしから手枷を受け取ると、最初に右手、そして左手に手枷を嵌めた。
「完全に自由を奪うために、どこかに固定した方がいい。このままだと手を振り下ろすことはできちゃうでしょ?」
「あ、はい、そうですね」
「ベッドサイドに括り付けたり、そういうのがないときは右手と右足、左手と左足で枷を付けるのもありよ。強制的に足を開くことになるから、羞恥も与えられる」
「は、はい」
「これは……そうね。じゃあ、足用の枷の片方をここの間に付けて。反対側をベッドヘッドの柵に付けようか」
「はい」
 一真くんは指示通りに動き、わたしの両手は自由を奪われた。あの男に、何度こうされただろう。自由を奪ったあの男は、よく響くセクシーな低い声で耳元で囁いたのだ。

 たくさん焦らしてあげるね。
 君が懇願する姿をじっくり見せてもらうよ。

 ふと、耳の奥、鼓膜に刻まれたあの声と吐息が蘇り、わたしはふるっと体を震わせた。
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