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新たな出発が必ずしも祝福されているとは限らない
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気が気でない馬車の旅。
赤子がそのまま大きくなったようなわがまま放題の寺田谷に合わせているせいで、予定通りには進まない。
「そんなに止まっていたら、予定通りにはつけないぞ?」
自分が助言を装い釘を刺すと、素知らぬ顔で首を傾げられた。
「いや、予定に合わせるのがあのおっさんの仕事だろ? そういう契約だ。だからオレはカンケーない」
「いや、それもそうだが。彼の予定を壊しているのは君だ」
「は? 意味わかんね。なんでオレが関係あんだよ? おっさんもしかしてバカなのか?」
おかしいな。確か寺田谷は同郷だったはずだが、会話がまったく通じない。
なんでだと困惑する自分に、寺田谷は勝ち誇ったような顔をする。
「インネンつけてくんじゃねぇよ。おっさんは黙ってろ」
会話が成立しない。
頭痛を覚える。
それと寺田谷が自分の事をおっさん呼ばわりする度にリリィの苛立ち、殺意に近い憎悪が膨らむのが分かって、そちらも冷や冷やする。
結局丸1日遅れで次の街についた。
昨晩から契約不履行だと文句を言い続ける寺田谷と、なら契約通りに運航できるように邪魔をしないで欲しいという行商。
会話にならない言葉の応酬に辟易しながら、自分たちは早々に宿を探すため離れた。
宿を見つけて一部屋借り、部屋になだれ込む。
どっと疲れが出た。
今まで一番疲れる旅だった。
ベッドに横たわった自分と。ドアにしっかり施錠したリリィが自分の横に腰かけて来た。
「リリィさんもご苦労様でした」
「いえ。それより、本当にこのままでいいんですか?」
彼女の顔には不満の二文字がしっかり表示されている。
言いたいことは分かる。自分だってこのまま寺田谷と同行するのは、遠慮したい。
遠慮したいのだが、このままあの男を放置するのも危険すぎる。
王都まで行けばしかるべき処置と監視がつけられるだろうから、今はそれまで我慢すればいい。それにさすがに生命や財産を奪うほど恐ろしい真似はしてこないだろう。
「あの男を放置するのも危険です。それこそ王政府が”転生者は危険。全員捕縛する”なんて考えになれば、自分もタダでは済まないでしょう」
真っ当な危機管理意識があるある政府ならば、あんな暴君論を正当化できる存在を手放しにできるはずがない。そしてその危険性があるなら、全て管理してしかるべきだ。
今現状の自由を守るためには、今は煮え湯を飲まざるを得ない。
自分は横にいる彼女の腰に手を回して引き寄せた。
ふわりと鼻腔に感じる彼女の香りに、安堵した。
「もう。なんですか? 村にいる時はすけべじゃなかったのに」
「自分でも、良い歳したおっさんが、何しているんだと呆れている所です」
「しかたない人です」
よく、美女は3日も見れば飽きる。抱くほどに刺激を感じなくなる。というが、自分はそんな事はないらしい。
触れ合うほどに、彼女の存在を感じ、感じるほどに愛おしく思う。
何度重ねても、脳に紫電が駆け抜け、めまいを感じるほど。
彼女にだけ聞こえるように、愛を囁く。くすぐったそうに身を捩る彼女の火照った顔が、自分もまた胸が爆ぜそうなほど激しく高鳴らせる。
お互い貪るように互いを感じて、愛を確かめ合った。その後は数分ベッドの中で少し休んだ。
それからどちらが言うでもなく、起き上がると体を清めて服を着た。
「もう夕食に丁度いい時間ですね」
「どこか程度のいい店が開いてるといいですが」
部屋を出て近くの食事処に行くと、問題が起きていた。思わず顔を覆って、天を仰いだ。リリィに至っては無言で店を出ようと踵を返していた。
「ここは勇者であるこのオレ! 寺田谷 寿璃庵があずかる! 文句がある奴は手を上げろ!」
威勢だけはいい宣言。しかしその実文句を口に出そうとする者は、すべて例の能力で封じ込んでしまっている。とんだ暴君だ。
何とかしようにも、すでに事は起きている。
赤子がそのまま大きくなったようなわがまま放題の寺田谷に合わせているせいで、予定通りには進まない。
「そんなに止まっていたら、予定通りにはつけないぞ?」
自分が助言を装い釘を刺すと、素知らぬ顔で首を傾げられた。
「いや、予定に合わせるのがあのおっさんの仕事だろ? そういう契約だ。だからオレはカンケーない」
「いや、それもそうだが。彼の予定を壊しているのは君だ」
「は? 意味わかんね。なんでオレが関係あんだよ? おっさんもしかしてバカなのか?」
おかしいな。確か寺田谷は同郷だったはずだが、会話がまったく通じない。
なんでだと困惑する自分に、寺田谷は勝ち誇ったような顔をする。
「インネンつけてくんじゃねぇよ。おっさんは黙ってろ」
会話が成立しない。
頭痛を覚える。
それと寺田谷が自分の事をおっさん呼ばわりする度にリリィの苛立ち、殺意に近い憎悪が膨らむのが分かって、そちらも冷や冷やする。
結局丸1日遅れで次の街についた。
昨晩から契約不履行だと文句を言い続ける寺田谷と、なら契約通りに運航できるように邪魔をしないで欲しいという行商。
会話にならない言葉の応酬に辟易しながら、自分たちは早々に宿を探すため離れた。
宿を見つけて一部屋借り、部屋になだれ込む。
どっと疲れが出た。
今まで一番疲れる旅だった。
ベッドに横たわった自分と。ドアにしっかり施錠したリリィが自分の横に腰かけて来た。
「リリィさんもご苦労様でした」
「いえ。それより、本当にこのままでいいんですか?」
彼女の顔には不満の二文字がしっかり表示されている。
言いたいことは分かる。自分だってこのまま寺田谷と同行するのは、遠慮したい。
遠慮したいのだが、このままあの男を放置するのも危険すぎる。
王都まで行けばしかるべき処置と監視がつけられるだろうから、今はそれまで我慢すればいい。それにさすがに生命や財産を奪うほど恐ろしい真似はしてこないだろう。
「あの男を放置するのも危険です。それこそ王政府が”転生者は危険。全員捕縛する”なんて考えになれば、自分もタダでは済まないでしょう」
真っ当な危機管理意識があるある政府ならば、あんな暴君論を正当化できる存在を手放しにできるはずがない。そしてその危険性があるなら、全て管理してしかるべきだ。
今現状の自由を守るためには、今は煮え湯を飲まざるを得ない。
自分は横にいる彼女の腰に手を回して引き寄せた。
ふわりと鼻腔に感じる彼女の香りに、安堵した。
「もう。なんですか? 村にいる時はすけべじゃなかったのに」
「自分でも、良い歳したおっさんが、何しているんだと呆れている所です」
「しかたない人です」
よく、美女は3日も見れば飽きる。抱くほどに刺激を感じなくなる。というが、自分はそんな事はないらしい。
触れ合うほどに、彼女の存在を感じ、感じるほどに愛おしく思う。
何度重ねても、脳に紫電が駆け抜け、めまいを感じるほど。
彼女にだけ聞こえるように、愛を囁く。くすぐったそうに身を捩る彼女の火照った顔が、自分もまた胸が爆ぜそうなほど激しく高鳴らせる。
お互い貪るように互いを感じて、愛を確かめ合った。その後は数分ベッドの中で少し休んだ。
それからどちらが言うでもなく、起き上がると体を清めて服を着た。
「もう夕食に丁度いい時間ですね」
「どこか程度のいい店が開いてるといいですが」
部屋を出て近くの食事処に行くと、問題が起きていた。思わず顔を覆って、天を仰いだ。リリィに至っては無言で店を出ようと踵を返していた。
「ここは勇者であるこのオレ! 寺田谷 寿璃庵があずかる! 文句がある奴は手を上げろ!」
威勢だけはいい宣言。しかしその実文句を口に出そうとする者は、すべて例の能力で封じ込んでしまっている。とんだ暴君だ。
何とかしようにも、すでに事は起きている。
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