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サバゲーの頂点に立ちたいでしょう?
03
しおりを挟む彼女がいなくなり、しばらく無言。それから音羽が無言の尋に訪ねた。
「センパイ」
「What up.いや、なんとなくわかりマスケドネー」
「あ、そうですか……。あの、約束って?」
動揺なんてみじんもない。尋の心音は平常だ。
いや、彼女の心肺機能は、常人の七割程度でしか稼働していない。何をどういうように訓練すれば、そうなるのか音羽にはわからないが、尋の心臓は並大抵の事では起伏を見せない。
「よっつもあるサバゲー部を統合しようって話しダヨー。そしたら分散してる戦力も集中できるネー」
にこにこ笑みを浮かべる尋。その表情の奥は、読めない。
――センパイは、いつもうそついてる……――
どれだけ笑みを作っていても、その下に何か隠している。そんな気が音羽にはした。
「じゃあ、この試合負けたら、どうなっちゃうんですか?」
「ウチらは第一に併合ネー。おとチャンには、ちょっと悪いことしちゃうヨー……。sorryネー」
申し訳なさそうに、眉尻を落とす。
「勝ちます」
「Why?」
「そうしたら、いいんですよね?」
キョトンとした顔で、音羽を見つめ返す尋。
「センパイは、併合したくないんですよね? だったら、勝ちます」
はっきりと明言して、短機関銃のグリップを握った。
何の反応も見せない尋。それで音羽は段々恥ずかしくなって来て、顔が火照りだした。
すると突然、尋は顔を真っ赤にさせ、目を涙で潤ませた。
「おとチャぁあン! 大好きヨー!」
突然小声で叫び、音羽を抱きしめた。さらに頭上からキスの雨を降らせた。
「ちょ、ちょっと! やめてください!」
さすがに恥ずかしすぎるので、抵抗した。それでも体格差とがっちりと抱かれてしまっているので、まったく離れられない。
「それくらいにしておけヒーロ」
ごつんと重い音を立てて、フーが尋の腰を蹴った。
「Oh no!」
衝撃でパッと手を離した。その隙にフーが音羽を引き離す。
「とにかく、勝てばいい。そうしないと、また面倒な事になる」
そっと自分の影に音羽を隠しながら、敵陣地を見据えたフー。
障害物がランダムに配置されたフィールド。完全には見えないが、わずかにフラッグが見えた。
「開始一分前でーす。両陣用意してください」
審判の声に、音羽たちもフラッグの前に整列した。フェイスマスクを装着して、位置を整える。
「開始と同時に動きマスヨー」
整列しつつ、腰を落としてエアソフトを斜め下に構える。
「じゃあ、作戦通り。ダッシュで獲り行くネー。付いて来てクダサイネー」
第四サバイバルゲーム部の人員は三人しかいない。相手は最大数の五人だ。持久戦になれば不利に決まっている。
ならばゲーム開始と同時に全力で突っ込むしかない。相手が防衛網を築くより早く。
「カウントダウン! 9、8、7、6」
安全装置を外して、気を引き締める。その瞬間、尋とフーの気配が変わる。
さながら、狩りに出向く虎のように、鋭く、心音すら静かに。そして周囲の空気に溶け込んでいくような、錯覚を覚える。
「3、2、1! スタート!」
号令と同時に、猛然と敵のフラッグへ向かって走り出した。
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