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サバゲー大会決勝戦!
09
しおりを挟む「サシで勝負!」
喜々とした声を上げて、尋に向けて二発。走るアルファの横をかすめ、牽制でふたりで二発ずつ。
「あっハ! ダメダメ! 遅いよ!」
当然二発とも避けて、走り続ける。
距離を縮められれば、その分不利になる。拳銃とライフルでは、取り回しの範囲が違うのだ。
アルファは対角線を、つねに一定の距離を保って攻撃を続ける。
――すごい――
アキラは猛然と走りながらも、上半身は微動だにしない。走る砲台とでも云えるほどに、正確な攻撃を繰り返す。
一方アルファは、あたかもバレエでも舞うように、優雅で上品。しかし急所を突きつつ、呼吸がぴたりと合い、互
いに守りあっている。完璧な戦闘態勢。
両者共に全力で森の中を駆ける。互いの攻撃を回避するために、横に走りつつ動く相手を撃つ。
二発。状態をひねり避ける。
二発。伏せて避け、バディが反撃。
二発、撃てない。
五秒目の出来事。
「ヒット、ぉー」
アキラは両手を上げて、立ち止まった。
「誘い込まれた感じかー」
笑って周囲を見渡したアキラは、自分の置かれた状況に納得した。
すぐ後ろに、音羽たちクイーンの建物。落ち着いて狙えば、絶対に当たるほど近く。
尋との攻防に、夢中になりすぎていた彼女は、他の敵を見誤っていた。
フーの距離をとりながらも、着弾が等間隔になるように計った攻撃。
尋のわざと自分に注目させる、派手な挙動。
ぎりぎりまで待ち構えた、音羽の決定打。
「次が来るぞ!」
撤収するアキラたちのすぐ脇、さらに別の集団が少しずつ前に出てきていた。
「十人出てきた。弾幕で近寄せないつもりだろうな」
ふんふんと状況を分析しているフー。
直後、猛烈な弾幕がクイーンを凪いだ。
「ヒット!」
「ヒットぉ」
幸と百合がヒット。慌てて音羽が動こうとしたが、それをフーが止める。
「今は行くな」
「でも……」
その直後にもう一度、弾幕が襲った。今被弾したふたりに、もう一度弾が当たる。
「こうなる」
ぐっとこらえ、やり過ごす。
ジャックとは塔をはさんだ場所に集まる。
「オフェンスチーム。そっちは?」
『デルタがやられたわ。それ以外は無事』
損耗は予想以上だった。
一秒間の敵の大火力弾幕。身を極限まで低くして、耐える。
『反撃、どう出る?』
「フーが、出よう」
『その間に突っ込むわ』
状況を整える。屋上ではフーが狙撃のため、ジャックから死角になる塔の裏、その背後に音羽。一階では残りの全員が用意。
『サッキーとしおチャンは少し遅れて来てクダサイネー。中堅任せたネー』
『でも……』
左は自分の狙撃銃をぎゅうと握り、何か言いかけ、
『元ライフル射撃選手ネー。落ち着いてけば、絶対大丈夫ヨー!』
励ますが、彼女の危惧する場所はそこではない。
『汚名は、拭うものよ。新しい名誉でね』
去年の大会で、珠希は尋を撃てなんて命令はしていない。左の暴走だ。
前に出て、いつも名誉と、珠希の賛辞を受けている尋が、少しだけ気に食わなかった。
魔が差したなんていえば聞こえはいい。
それでも、やってしまったのは、左自身の心の弱さだ。そしてその弱さが、チームの敗退と、分解へと繋がっていった。
『絶対、顔出させませんから』
二度と自分に負けない。己の決意と共に、愛銃を握り締めた。
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