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第88話 則のコントロール
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「ハァ、ハァ……クウッ! おいアンベルト!! ぼさっと見てるだけじゃなくてッ何かアドバイスとか……くれよッ!! 具体的にどうやったら傷口が塞がるとさッ」
ディーノは地面で巨大化を続ける血溜まりの中で、今の彼が放つ事ができる最大限の声を張り上げて叫んだ。
彼は今絶賛苦戦中である。出血開始から5分で完璧に則を観測できる様に成り、10分が経過して強い目眩が恒常化し始めた頃に則を多少コントロールできる様になった。
此処でディーノは初めて自分が強者の周りに感じていた光の玉が則であった事に気が付いたが、その事を喜んでいる余裕は無い。
実は今、ディーノは常人が一年掛けて辿る道程を10分で走り抜けたのだが、其れでも失血死を回避するにはペースが遅すぎた。
そしてディーノはこのままでは死ぬと確信し、意地でも質問しなかったアンベルトに助言を求めたのである。
「そうだな……呼吸や瞬きと同じ要領だ」
「こ、呼吸や瞬きと同じッ!? そんなの……意識してやった事ねえよ!!」
ディーノは気絶しそうになるのを必死に堪え、縋る様に叫んだ。
その反動で一気に身体が重くなり、平衡感覚まで無くなり始める。
「そうだ、つまりそう言う事だ」
「だから、どういう事だよ……」
既に声を張り上げることも出来きず、ディーノから消え入りそうな声が零れた。
「呼吸をするとき、横隔膜を下げて胸郭内の容積を増やすことによって内部圧力が低下し圧力の差によって肺の中へ空気を取り込む、等と考えている人間はいない。皆生まれた瞬間脳に刻まれた呼吸を行うプログラミングに従い、呼吸をして瞬きをしている。則のコントロールも其れと同じで、脳に治療の仕方がプログラミングされるその瞬間を待つしかない。分かったか?」
「てめえの性格が最悪だって事は分かったよ!! 黙ってろクソ野郎、死ねッ!!」
ディーノは全く役に立たないアドバイスのお礼として、迫る死へのストレスを罵倒として叩き付けた。
コッチは奴のせいでたった今殺され掛けているのだ、其れ位当然の権利だろう。
最後の手段としてプライドを曲げ、残り少ない体力を注ぎ込んで助言を求めたが何の成果も得られず苛立ちが溜まる。
(おちつけ、とにかく意識を傷口に集中させろッ! 周囲の則に働き掛けて傷口の周辺に集めれば……)
出血が進み何度か瞬間的に意識が飛び始めた頃、ディーノは等々狙った所に則を集めるレベルにまで到達した。
既に身体の限界が近い、此処で傷を何とか塞げ無ければ意識が飛んで確実に失血死する。
此れがファーストチャンスであり、ラストチャンスでもあった。
(思い出せ、ヒントはある。ついさっきゴンザレスの打撃によってボロボロに成った俺の身体を一瞬で治した時の感覚……アレを再現出来れば傷を塞げる筈だ)
ディーノは最後に残った集中力を振り絞り、今この瞬間に自らの全てを出し切る覚悟である。
怪我によって半壊した身体を癒やされた時の感覚は口で形容するのが不可能な、強いて言うなら何かが入り込んで来て染み渡っていく様な感覚であった。
その感覚だけを頼りに、ディーノはまるで生命の様に不規則に揺れ動く則にイメージを伝えていく。
(頼むッ! 伝わってくれくれ……ッ!!)
この数分間でディーノが掴んだ則と人間の関わりは、まるで電波の悪い環境で通話をしている様であった。
此方から発した言葉の9割が届かず、全く反応を示さないと思ったら突如凄まじい反応を見せる事もある焦れったい作業。
しかし諦めずに粘り強くイメージを送り続けると、とうとう則がディーノのイメージに従って傷口の周辺に集まり始めた。
少しずつ裂傷が小さくなって、漏れ出る血液の量も減少し始める。
常人が10年掛る道程をディーノは20分近くで走り抜けたのだ、追い込まれていたという事もあるが間違いなくディーノには父親から引き継いだ則を操る天性の才が宿っていた。
(よしッ! いけたッ!!)
手首から噴水の様に吹き出ていた出血が完全に止まり、薄くカサブタが出現し始めたのを見てディーノは治療完了を確信する。
しかし其処で胸を撫で降ろす程度なら良かったのだが、此処でディーノは死のストレスから解放された事よってディーノは爆発する様な歓喜の感情を発揮してしまったのだ。
則と心が繋がってしまってる状態で。
パンッという破裂音に似た小さな音が響いた。
そして一度止まった事が夢幻であったかの様に傷が再度大きな口を開け、ディーノの努力を笑い飛ばすかの様に血液を吐き出した。
此れはディーノが集中を切らし、イメージを送り込み続ける事を放棄した結果であった。
「あッ、あぁ…………」
一度塞がった筈の傷がまた開き、最早どうしようも無い程の血液が吹き出たのを見たディーノは悲鳴すら上げる事が出来ず静かに死を悟った。
自分の命が真っ赤な液体に乗って体外へと漏れ出している、そんな光景を見た人間が気を保てる訳も無く失血のダメージも相まって彼の意識は闇に呑まれた。
出血しながら意識を失う、死へ真っ逆さまである。
ディーノは地面で巨大化を続ける血溜まりの中で、今の彼が放つ事ができる最大限の声を張り上げて叫んだ。
彼は今絶賛苦戦中である。出血開始から5分で完璧に則を観測できる様に成り、10分が経過して強い目眩が恒常化し始めた頃に則を多少コントロールできる様になった。
此処でディーノは初めて自分が強者の周りに感じていた光の玉が則であった事に気が付いたが、その事を喜んでいる余裕は無い。
実は今、ディーノは常人が一年掛けて辿る道程を10分で走り抜けたのだが、其れでも失血死を回避するにはペースが遅すぎた。
そしてディーノはこのままでは死ぬと確信し、意地でも質問しなかったアンベルトに助言を求めたのである。
「そうだな……呼吸や瞬きと同じ要領だ」
「こ、呼吸や瞬きと同じッ!? そんなの……意識してやった事ねえよ!!」
ディーノは気絶しそうになるのを必死に堪え、縋る様に叫んだ。
その反動で一気に身体が重くなり、平衡感覚まで無くなり始める。
「そうだ、つまりそう言う事だ」
「だから、どういう事だよ……」
既に声を張り上げることも出来きず、ディーノから消え入りそうな声が零れた。
「呼吸をするとき、横隔膜を下げて胸郭内の容積を増やすことによって内部圧力が低下し圧力の差によって肺の中へ空気を取り込む、等と考えている人間はいない。皆生まれた瞬間脳に刻まれた呼吸を行うプログラミングに従い、呼吸をして瞬きをしている。則のコントロールも其れと同じで、脳に治療の仕方がプログラミングされるその瞬間を待つしかない。分かったか?」
「てめえの性格が最悪だって事は分かったよ!! 黙ってろクソ野郎、死ねッ!!」
ディーノは全く役に立たないアドバイスのお礼として、迫る死へのストレスを罵倒として叩き付けた。
コッチは奴のせいでたった今殺され掛けているのだ、其れ位当然の権利だろう。
最後の手段としてプライドを曲げ、残り少ない体力を注ぎ込んで助言を求めたが何の成果も得られず苛立ちが溜まる。
(おちつけ、とにかく意識を傷口に集中させろッ! 周囲の則に働き掛けて傷口の周辺に集めれば……)
出血が進み何度か瞬間的に意識が飛び始めた頃、ディーノは等々狙った所に則を集めるレベルにまで到達した。
既に身体の限界が近い、此処で傷を何とか塞げ無ければ意識が飛んで確実に失血死する。
此れがファーストチャンスであり、ラストチャンスでもあった。
(思い出せ、ヒントはある。ついさっきゴンザレスの打撃によってボロボロに成った俺の身体を一瞬で治した時の感覚……アレを再現出来れば傷を塞げる筈だ)
ディーノは最後に残った集中力を振り絞り、今この瞬間に自らの全てを出し切る覚悟である。
怪我によって半壊した身体を癒やされた時の感覚は口で形容するのが不可能な、強いて言うなら何かが入り込んで来て染み渡っていく様な感覚であった。
その感覚だけを頼りに、ディーノはまるで生命の様に不規則に揺れ動く則にイメージを伝えていく。
(頼むッ! 伝わってくれくれ……ッ!!)
この数分間でディーノが掴んだ則と人間の関わりは、まるで電波の悪い環境で通話をしている様であった。
此方から発した言葉の9割が届かず、全く反応を示さないと思ったら突如凄まじい反応を見せる事もある焦れったい作業。
しかし諦めずに粘り強くイメージを送り続けると、とうとう則がディーノのイメージに従って傷口の周辺に集まり始めた。
少しずつ裂傷が小さくなって、漏れ出る血液の量も減少し始める。
常人が10年掛る道程をディーノは20分近くで走り抜けたのだ、追い込まれていたという事もあるが間違いなくディーノには父親から引き継いだ則を操る天性の才が宿っていた。
(よしッ! いけたッ!!)
手首から噴水の様に吹き出ていた出血が完全に止まり、薄くカサブタが出現し始めたのを見てディーノは治療完了を確信する。
しかし其処で胸を撫で降ろす程度なら良かったのだが、此処でディーノは死のストレスから解放された事よってディーノは爆発する様な歓喜の感情を発揮してしまったのだ。
則と心が繋がってしまってる状態で。
パンッという破裂音に似た小さな音が響いた。
そして一度止まった事が夢幻であったかの様に傷が再度大きな口を開け、ディーノの努力を笑い飛ばすかの様に血液を吐き出した。
此れはディーノが集中を切らし、イメージを送り込み続ける事を放棄した結果であった。
「あッ、あぁ…………」
一度塞がった筈の傷がまた開き、最早どうしようも無い程の血液が吹き出たのを見たディーノは悲鳴すら上げる事が出来ず静かに死を悟った。
自分の命が真っ赤な液体に乗って体外へと漏れ出している、そんな光景を見た人間が気を保てる訳も無く失血のダメージも相まって彼の意識は闇に呑まれた。
出血しながら意識を失う、死へ真っ逆さまである。
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