キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

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第91話  埋まった差

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(勝負あったな……)



 そう思いながらゴンザレスは自分の拳を正面から受け、背骨の限界近くまで上半身を仰け反らせながら吹飛ぶディーノを見ていた。

 拳からはしっかりと骨が粉砕する感触が伝わっており、鼻を砕いた時に弾けた血液がベットリと付いている。間違い無くクリティカルヒットだ。

 追撃の必要も無い程強烈な一撃が入り、後はこのまま後ろ倒しに倒れるのを確認すれば決着である。



(一日で此れだけの成長、充分過ぎる位だ……)



 結果的には一方的にボコボコにされる形となったが、ディーノは確実に飛躍的な成長を遂げている。

 昨日は目立っていた頭と身体のズレによる行動のぎこち無さが減り、一度だけとは言え渾身の一撃を紙一重で回避してみせた。

 確実に差が埋まっている、次の戦いが非常に楽しみな結果である。

 今回はこのままダウンして速く楽にッ……



「グオオオオオオオオオッ!!」



 勝利を確信して肩の力を抜き、警戒の糸を解いていたゴンザレスの耳に獣の様な叫び声が飛び込んでくる。

 その音の奇っ怪さもさることながら、彼の注意を最も引いたのはその声の発生源であった。

 ディーノが叫んでいるのである。



「グゾがァァッ!! ボコスカ殴りやがって、俺はッぜってえ倒れねぇ…からなッ!!」



 ゴンザレスは一瞬思い切り頭を殴りすぎて脳に障害が発生し、気が狂ってしまったのかと思った。

 しかし直ぐにその考え、いやッ勝利を確信した事自体も目の前に立っている若き戦士に対する冒涜であったと気が付く。



 何と、ディーノはゴンザレスの本気のパンチを三連続で受けて持ち堪えたのである。

 そして驚く事に仰け反っていた上半身を腹筋の力で持ち直し、闘志が一切衰えていないギラギラした目で睨み返してきたのだ。

 アレだけの攻撃を受けてまだ戦うつもりなのである。



「ハハ……ッ!! 凄いや、凄いぞディーノ!! 前はパンチ一発で意識を失っていたのに、今日は三発受け手も意識を保ってる。それも二本足で立ってファイティングポーズを維持している!! 済まなかった、僕はどうやら君を過小評価していたようだッ!!」



 ゴンザレスは自分の渾身の一撃を耐えられたにも関わらず満面の笑みを浮かべ、まだ遊べる事が嬉しくて溜まらないといった表情でディーノと向かい合う。



 一方のディーノはそれと対象的に満身創痍で肩で息をしている。

 膝を突くことだけは何とか堪えたがどうやらダメージは確実に受けている様で、目も死んでは居ないが瞳が細かく揺れていた。

 立っているだけでも辛そうであるが、ディーノは気丈に相手から受けた言葉に返答を返す。



「褒めてくれるのは嬉しいが、どうせ褒めるなら……俺がお前を床に叩きおとした時にしてくれ。立っているだけで褒められても複雑だ……」



「凄いな、この状況でまだ勝とうとしているのかッ!!」



「お前多分気付いてないだろうけどな、皮肉にしかッ聞こえねえよォッ!!」



 ディーノは痛みや疲労を一時的に麻痺させるために感情を爆発させながら雄叫びを上げ、身体が満身創痍なのが嘘であるかの様に地面を蹴って間合いを詰める。

 つい先程凄まじい一撃を浴びたばかりだと言うのに、一切カウンターを受ける事に対して恐怖を抱いていない様だ。



(まさか突っ込んでくるとは……ッ!! 恐怖を感じていない、生物として生まれ持っている筈の生存本能がぶっ壊れている。蛮勇で狂人で負けず嫌い、まさに戦いの為に生まれたかの様な男だ!!)



 ゴンザレスは目の前で力強く輝いている才能に感動を覚るが、其れでも一切手を抜かず全力で叩き潰す為に拳を振り上げて待ち構える。



 体格も筋肉量も技術も圧倒的にゴンザレスが上で、しかも今はダメージが蓄積されおりディーノが圧倒的に不利な状況である。当然正面から行って勝てる訳が無い。

 だが其れでもディーノは真っ直ぐ最短距離で敵目掛けて突っ走り、拳を振り上げる。

 既に頭は気絶寸前で体力も殆ど残って居らず、一直線に走って拳を放つ事が今彼の出来る最大限であったのだ。

 このまま突っ込んでも拳が届く前に叩き潰される事は理解してる、しかし意識が途切れて無様に倒れ伏すまでは絶対に勝負を投げ出さない。

 其れがディーノが掲げる美学であり、確かに感じる拍動に対する責任であった。



「ヅラアアアアアアアアッ!! 勝つのはッ俺だァァ!!」



 瞳に一切の恐怖を灯さず重心を力の限り前方に倒して突撃し、文字通り命を削り気持ち一つで山のような大男に迫り拳を撃ち放った。

 しかし気持ちだけでは拳は届かない、見る者に感動さえ与えそうな突進は余りにも現実的で夢の無い理由によって打ち砕かれる。

 其れはリーチの差、ゴンザレスの方が数センチ腕が長かったのだ。

 正面から互いにパンチを打ち合えば、腕の長い方のパンチが先に命中して短い方は拳が届く前に弾き飛ばされる。子供でも分かる当然の節理。



 ディーノは既に大きく歪んでいた鼻を更に歪ませ、口と鼻孔から夥しい量の血液を吹き出しながらゴンザレスの拳にもたれ掛ったまま気絶していた。

 そしてゆっくりと重力に従ってずり落ち、涎鼻水血液で糸を引きながら地面目掛けて崩れ落ちる。

 その時のディーノは完全に肉体から力が消え去っており、糸が切れた操り人形の様であった。



 つい先程の件があるとは言え、流石のゴンザレスも勝利を確信する。

 一発でひ弱な人間では脳に重大なダメージを受け、下手すれば死ねる様な一撃をディーノは何発も受けているのだ。

 この攻撃を耐えるのは物理的に不可能であった。



 思い返せば不憫である。

 ディーノは誰もが惚れ惚れする程屈強な精神を持ち、激痛にも猛烈な吐き気にも慢性的な目眩すらも耐え凌いで向かって来た。

 しかしその様にロマンと感動に溢れた行動が、無骨で淡泊なリーチの長さという要素によって無に帰されてしまったのだ。

 ゴンザレスは余りにロマンの無い幕切れに、後味の悪さと現実の無情さを感じとる。



 しかし、ゴンザレスは二つの要素の比べ方を致命的に間違っていた。

 リーチなどの数字に還元出来る要素は普遍でいかなる時でも変わらず効力を発する。

 一方で根性や精神などに数値に還元出来ない要素は気分屋である。自分が圧倒的に有利な時点では

全くの無用であるが、土俵際に追い詰められた瞬間その進化は発揮される。

 敗北の寸前という最大の危機を勝利の起点に変えるジョーカーなのだ。



「まだッだ……」



 原理不明、勝利への執念としか言い表せない謎の力でディーノの意識が再び肉体と繋がる。

 それから地面に向かって一直線に落下する身体を止める為、殆ど反射敵に左足が前に出て右拳を腰の辺りまで引き付ける。

 そして何処にそんな力が残っていたのかは分からないが、ピクリとも動かす力が残っていなかった筈の右腕と背筋に消えかけの炎が灯った。



「グゥウウアアーーーッ!!」



 ディーノは今にも消えそうな灯を腹から出した雄叫びによって一瞬燃え上がらせ、そのエネルギーを爆発させながら背筋を思いっきり反らし拳を打ち上げた。

 その拳は実際のエネルギー以上に『重さ』を纏い、勝利を確信して防御を解いていたゴンザレスの顎に命中して打ち砕く。

 初めて拳がゴンザレスに命中したのである。



「ゴフゥ……ッ!?」



 その一撃は満身創痍意であったにも関わらず凄まじい衝撃となってゴンザレスの顎から脳天までを突き抜けた。

 ディーノの貪欲なまでに勝利を求める意志に、世界が、則が応じたのである。

 その威力は体重178キロを誇るゴンザレスの小山の様な肉体を大きく仰け反らせた程でああった。



(どうして? どうしてあそこまでダメージを負って尚これ程のパンチが放てる?? 脳が揺れて立っている事すらままならず……当然拳を握り込む力や上半身を反らせる力なんて残っていなかった筈だ)



 ゴンザレスは衝撃で仰け反りながら天を仰ぎ、驚きでまん丸に成った両目で意味も無く天井を眺めた。

 このディーノが放った一撃には、言葉で表せない謎の力が含まれていた。

 攻撃を受けた相手に怒りでも苦痛でも無く、感動を与える様なそんな何か。



(良いパンチだ、僕が君に打ち込んだ3発のパンチどれと比べても……間違い無く君のパンチが一番だ。とても熱くて、カッコいいパンチだ。でも、まだ少し足りないッ!!)



 ゴンザレスの重心は大きく後方に倒れてダウン確実かと思われたが、全身を鎧の様に包む筋力がその有り得ない体勢で身体を静止させた。

 しかも其処からゆっくりと上半身を起こし、再び元の体勢に戻ったのである。

 命を削り拳に纏わせた渾身の一撃であっても、ゴンザレスの城塞の様な頭蓋骨を貫通して脳機能を断ち切るには至らなかったのだ。



「あ、危なかッ……え?」



 しかしゴンザレスは此処で異変を感じ取った。

 上半身を完全起こしきったにも関わらず、視界がドンドン前に進んでいくのである。

 最初は身体が勝手に暴走して前方に進んでいるのかと思ったどうも違った、前倒しに身体が落下していっているのだ。

 ゴンザレスは慌てて体勢を立て直そうとするが、穴の開いた風船の様に入れた力が一瞬で霧散して踏ん張りがきかない。

 ディーノのパンチが時間差で脳を揺らし、刈り取ったのだ。



「嘘……だろ??」



 ゴンザレスはたった今自分の身体に起こっている衝撃の出来事に唖然としながら地面に向かって落下し、顔から地面に落下した。

 痛みも気持ち悪さも一切感じていないにも関わらず、力が入らない。

 その感覚はまるで目を開け意識がハッキリとした状態で、身体のみが眠りについた金縛り状態。



 そしてゴンザレスが地に伏したのを待っていたかの様に、ずっと白目を剥いたまま拳を打ち上げた状態で固まっていたディーノの身体が崩れ落ちる。

 こうしてディーノはたったの二日で、戦いのプロフェショなるであるゴンザレスを先に地面に付けさせるという偉業を達成したのである。

 想像を遙かに凌駕する成長スピードと、ゾクゾクする程の勝利に対する執念にゴンザレスはただ驚愕を顔に浮かべて見詰める事しか出来なかった

 
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