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106話 ゴンザレスの話
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「やあディーノ!! 楽しい修行が出来なくて暇してるんじゃ無いの~? 僕も暫く本気の殴り合いができてなくて寂しいよ!」
勢いよく部屋に侵入してきたのはゴンザレスであった。
その笑顔は満面の笑みで埋まり、何時も通り害意の欠片も感じさせない赤ん坊の様な表情で近づいてくる。
しかしディーノはその顔を見た瞬間身体を強張らせた。
「ご、ゴンザレス!? お前……また俺に心臓マッサージするつもりか!!」
つい先程、ディーノは全く問題無く心臓が動いていたにも関わらず、何故かこの男に心臓マッサージされかけて危うく逆に心停止する所だったのだ。
あの巨体に全力で胸部圧迫されれば確実に胸骨を砕かれ、心臓は破裂する。
ディーノが迫るゴンザレスに最大限の警戒をするのは当然のことだった。
「そんな身構えるなよー。さっきはごめんね、後からフーマに『心臓マッサージは心臓が止まってからやる物だ』って教えて貰ったから大丈夫!!」
「そ、そうかッ。フーマが教えといてくれたんなら大丈夫そうだな……」
「うん! でも何かあったら直ぐ助ける構えさ、君が気絶したら即座にマウントポジションをとってプッシュプッシュ!!」
そう言うとゴンザレスは地面をディーノの心臓に見立てて実演する。
ワンプッシュ毎にコンクリートの床に亀裂が入り、それがズドンッズドンッという音と共に破片を撒き散らしながら拡散していった。
「良しッよく分かったぞゴンザレス!! お前は絶対に心臓マッサージをするな! 俺が気絶したら即座に走って他の誰かを呼んでこいッ!!」
ディーノは粉々に砕けて最早クレータと呼んだ方が良い状態になった心臓マッサージ痕を見て青い顔になり、それから叫ぶ様に言った。
こんな心臓マッサージを受けるなど、プレス機に押し潰されるのと同じだ。
絶対に御免被る。
「え? 書斎で予習しといたから結構自信があったんだけど……手首の基部に全体重を乗せて1分に100回のペースで圧迫圧迫ッ!!」
ゴンザレスは再び地面に対して実演して見せた。
地面に対して腕を垂直にし、一切エネルギーの無駄が無い完璧なフォームと完璧なペースで地面を圧迫していた。
アレならば一切無駄なく簡単に心臓を破裂させる事が出来るだろう。
中々熟れた手付きで、若しかするとディーノにもしもの事があった時即座に救える様、何処かで練習を積んできたのかも知れない。
そうなると流石に全否定して好意を跳ね返すのは違う気がしてきた。
「いや……何て言うの? ほら、上手すぎて逆に死んじゃうみたいな?? あれだよあれ……ちょっとスムーズに蘇生されすぎて寝覚めが良すぎてもアレじゃん? ね、アレがアレだとちょっと厳しいじゃんか!!」
ディーノは何とかゴンザレスの努力も報われる形で殺人マッサージを回避しようとするが、滅多に嘘や言い訳をしないので言葉が上手く出てこない。
その結果内容をぼかしにぼかし、代名詞で埋め尽くされた怪文章が出現した。
ゴンザレスはやはり違和感を覚えたのか目を細め、怪訝そうな表情で見詰めてくる。
(やッ、やべえ……流石に言い訳が支離滅裂過ぎた。もしかして、俺が是が非でもマッサージを回避しようとしてるって向こうに伝わっちまったか……??)
自分でも発言がお粗末過ぎたと気付いたディーノは、滝の様な冷や汗を背中に感じながら作り笑いを浮かべる。
ディーノは完全に誤魔化す事を諦め、死刑執行を待つ囚人の面持ちでいっそ早く断罪してくれた願った。
そして数秒の沈黙が流れた後、ゴンザレスは漸く固まっていた口をようやく動かして声を発する。
「成る程、確かにアレはあれでそうだよね。OK……理解したッ」
そう言ってゴンザレスは太くて大きな親指を立てたのだった。
どうやら先程の表情は疑いの目では無く、考え事の目だったようだ。そして何かを理解した。
言い訳をした張本人であるディーノ自身であっても、あの言葉から何を理解する要素があったのか分からず逆に混乱する。
(アレって何だよ、お前は何を理解したんだッゴンザレス!! 何で言った本人の俺が理解出来てないのに、お前はスッキリした顔してんだよッ!!)
謎の理解を示したゴンザレスに対してディーノは全力で突っ込みたい衝動に襲われたが、必死に口を押さえて堪える。
彼の脳内で何が起こっているのかは分からないが、勝手に納得してくれたのなら其れに超した事は無い。言わぬが吉という奴だ。
此処は適当に話を逸らし、別の話題に変えるべきだろう。
「そ、それにしても……休みなんて久し振りでさ、何して良いか分からないんだよね~。ゴンちゃん何か暇潰しになる様な話持ってない?」
ディーノはベッドから動けず暇しているというシチュエーションを最大限に生かし、自然な流れで話題を変えた。
その余りにスムーズな手口にゴンザレスは一切違和感を感じず、顎に手を当てて何か面白い話が無いか考え始める。
「面白い話か……そうだな、フルーツと間違って手榴弾を食べて口の中で爆発した話なんてどうだ?」
「え、何その話!! 普通に興味あるぞッ」
正直これ以上心臓マッサージの話題を続けない為に大して期待もせずに振った話題であったが、想像を遙かに上回る面白そうなタイトルが飛び出して驚いた。
暇であった事は本当なディーノは、飢えた獣の様にその話題に飛び付く。
「ん? 意外と食いつきは良いな、この程度の話であれば幾らでもあるぞ。水と間違ってガソリン飲んだら胸ヤケした話とか、敵地に取り残された時にタイヤを食べて飢えを凌いだ話とか、ドングリかと思ったらアンベルトさんだった話とか……」
ゴンザレスは興味を持たれるとは思っていなかった様な様子で、パワーワード過ぎる話のタイトルを指折り数えながら次々紹介してくれる。
そのどれもが常識を知らないのでは?と思える程現実離れしたタイトルだ。
一瞬作り話かとも思ったが、ゴンザレスの性格的に嘘は付けないしそんな脳も無い筈だった。
「す、凄え!! 何でそんな強いエピソードを大量に持ってるんだよ!?」
「そ、其処までの話かな? まあ、僕は物心付く頃にはもう戦場で人をぶっ殺してたからね。確かに普通の人間よりも変わった人生は送ってるから、その分変なエピソードが多いのかもね」
『分かった人生』というワードがディーノの暇していたセンサーに引っ掛かる。
実を言うとディーノは結構前から、このお茶目で風変わりで優しい巨人の生い立ちに興味を持っていたのだ。
幼少期に何があって今の強烈なキャラが生成されたのか凄く気に成る。
「そうだッ!! ゴンザレス、お前の人生を俺に話してくれよ。俺も結構訳ありだけど、お前の人生はもっと面白そうだ! あ、勿論ッお前が話たく無かったら、話さなくても良いんだぞ……?」
話ながらディーノは他人の人生を勝手に詮索した事、そしてその人生を『面白そう』と言ってしまった事を申し分け無く感じる。
ゴンザレスはつい数秒前に『物心付く頃にはもう戦場で人をぶっ殺してたからね』という発言をしており、余り幸福に満ちあふれているとは言い難い幼少期を過ごした様だ。
若しかすると、自分は無意識に嫌な記憶を思い出させようとしているのかも知れない。
「うん、別に良いよ! 僕の人生に興味を持ってくれる人なんてあんまり居ないから、ちょっと照れるな~」
ゴンザレスはディーノの心配を笑い飛ばすかの様な笑顔を浮かべ、全く気にした様子を見せずに話す事を了承してくれた。
思い返してみれば、ゴンザレスは頼まれた事を断ったことが無い。
今まで全ての事を海の様に深い心で受け入れ、笑いながら実行してくれた。
前にアンベルトが言っていたが、本当に血と硝煙の匂いが途切れる事の無い裏社会では絶滅危惧種の優しく純粋な人物である。
その少年の様な心と屈強な身体はどのようにして誕生したのか、その事の方が面白いエピソードを聞くよりも主要な目的と成っていた。
そしてゴンザレスは一切迷い無く口を開き、物語でも語るような淡々とした口調で自分の人生を語り始める。
しかしその人生は、彼の語り口調とは余りに不釣り合いな悲しみと不運に満ちあふれた物語であった。
勢いよく部屋に侵入してきたのはゴンザレスであった。
その笑顔は満面の笑みで埋まり、何時も通り害意の欠片も感じさせない赤ん坊の様な表情で近づいてくる。
しかしディーノはその顔を見た瞬間身体を強張らせた。
「ご、ゴンザレス!? お前……また俺に心臓マッサージするつもりか!!」
つい先程、ディーノは全く問題無く心臓が動いていたにも関わらず、何故かこの男に心臓マッサージされかけて危うく逆に心停止する所だったのだ。
あの巨体に全力で胸部圧迫されれば確実に胸骨を砕かれ、心臓は破裂する。
ディーノが迫るゴンザレスに最大限の警戒をするのは当然のことだった。
「そんな身構えるなよー。さっきはごめんね、後からフーマに『心臓マッサージは心臓が止まってからやる物だ』って教えて貰ったから大丈夫!!」
「そ、そうかッ。フーマが教えといてくれたんなら大丈夫そうだな……」
「うん! でも何かあったら直ぐ助ける構えさ、君が気絶したら即座にマウントポジションをとってプッシュプッシュ!!」
そう言うとゴンザレスは地面をディーノの心臓に見立てて実演する。
ワンプッシュ毎にコンクリートの床に亀裂が入り、それがズドンッズドンッという音と共に破片を撒き散らしながら拡散していった。
「良しッよく分かったぞゴンザレス!! お前は絶対に心臓マッサージをするな! 俺が気絶したら即座に走って他の誰かを呼んでこいッ!!」
ディーノは粉々に砕けて最早クレータと呼んだ方が良い状態になった心臓マッサージ痕を見て青い顔になり、それから叫ぶ様に言った。
こんな心臓マッサージを受けるなど、プレス機に押し潰されるのと同じだ。
絶対に御免被る。
「え? 書斎で予習しといたから結構自信があったんだけど……手首の基部に全体重を乗せて1分に100回のペースで圧迫圧迫ッ!!」
ゴンザレスは再び地面に対して実演して見せた。
地面に対して腕を垂直にし、一切エネルギーの無駄が無い完璧なフォームと完璧なペースで地面を圧迫していた。
アレならば一切無駄なく簡単に心臓を破裂させる事が出来るだろう。
中々熟れた手付きで、若しかするとディーノにもしもの事があった時即座に救える様、何処かで練習を積んできたのかも知れない。
そうなると流石に全否定して好意を跳ね返すのは違う気がしてきた。
「いや……何て言うの? ほら、上手すぎて逆に死んじゃうみたいな?? あれだよあれ……ちょっとスムーズに蘇生されすぎて寝覚めが良すぎてもアレじゃん? ね、アレがアレだとちょっと厳しいじゃんか!!」
ディーノは何とかゴンザレスの努力も報われる形で殺人マッサージを回避しようとするが、滅多に嘘や言い訳をしないので言葉が上手く出てこない。
その結果内容をぼかしにぼかし、代名詞で埋め尽くされた怪文章が出現した。
ゴンザレスはやはり違和感を覚えたのか目を細め、怪訝そうな表情で見詰めてくる。
(やッ、やべえ……流石に言い訳が支離滅裂過ぎた。もしかして、俺が是が非でもマッサージを回避しようとしてるって向こうに伝わっちまったか……??)
自分でも発言がお粗末過ぎたと気付いたディーノは、滝の様な冷や汗を背中に感じながら作り笑いを浮かべる。
ディーノは完全に誤魔化す事を諦め、死刑執行を待つ囚人の面持ちでいっそ早く断罪してくれた願った。
そして数秒の沈黙が流れた後、ゴンザレスは漸く固まっていた口をようやく動かして声を発する。
「成る程、確かにアレはあれでそうだよね。OK……理解したッ」
そう言ってゴンザレスは太くて大きな親指を立てたのだった。
どうやら先程の表情は疑いの目では無く、考え事の目だったようだ。そして何かを理解した。
言い訳をした張本人であるディーノ自身であっても、あの言葉から何を理解する要素があったのか分からず逆に混乱する。
(アレって何だよ、お前は何を理解したんだッゴンザレス!! 何で言った本人の俺が理解出来てないのに、お前はスッキリした顔してんだよッ!!)
謎の理解を示したゴンザレスに対してディーノは全力で突っ込みたい衝動に襲われたが、必死に口を押さえて堪える。
彼の脳内で何が起こっているのかは分からないが、勝手に納得してくれたのなら其れに超した事は無い。言わぬが吉という奴だ。
此処は適当に話を逸らし、別の話題に変えるべきだろう。
「そ、それにしても……休みなんて久し振りでさ、何して良いか分からないんだよね~。ゴンちゃん何か暇潰しになる様な話持ってない?」
ディーノはベッドから動けず暇しているというシチュエーションを最大限に生かし、自然な流れで話題を変えた。
その余りにスムーズな手口にゴンザレスは一切違和感を感じず、顎に手を当てて何か面白い話が無いか考え始める。
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暇であった事は本当なディーノは、飢えた獣の様にその話題に飛び付く。
「ん? 意外と食いつきは良いな、この程度の話であれば幾らでもあるぞ。水と間違ってガソリン飲んだら胸ヤケした話とか、敵地に取り残された時にタイヤを食べて飢えを凌いだ話とか、ドングリかと思ったらアンベルトさんだった話とか……」
ゴンザレスは興味を持たれるとは思っていなかった様な様子で、パワーワード過ぎる話のタイトルを指折り数えながら次々紹介してくれる。
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話ながらディーノは他人の人生を勝手に詮索した事、そしてその人生を『面白そう』と言ってしまった事を申し分け無く感じる。
ゴンザレスはつい数秒前に『物心付く頃にはもう戦場で人をぶっ殺してたからね』という発言をしており、余り幸福に満ちあふれているとは言い難い幼少期を過ごした様だ。
若しかすると、自分は無意識に嫌な記憶を思い出させようとしているのかも知れない。
「うん、別に良いよ! 僕の人生に興味を持ってくれる人なんてあんまり居ないから、ちょっと照れるな~」
ゴンザレスはディーノの心配を笑い飛ばすかの様な笑顔を浮かべ、全く気にした様子を見せずに話す事を了承してくれた。
思い返してみれば、ゴンザレスは頼まれた事を断ったことが無い。
今まで全ての事を海の様に深い心で受け入れ、笑いながら実行してくれた。
前にアンベルトが言っていたが、本当に血と硝煙の匂いが途切れる事の無い裏社会では絶滅危惧種の優しく純粋な人物である。
その少年の様な心と屈強な身体はどのようにして誕生したのか、その事の方が面白いエピソードを聞くよりも主要な目的と成っていた。
そしてゴンザレスは一切迷い無く口を開き、物語でも語るような淡々とした口調で自分の人生を語り始める。
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