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第122話 最速の一歩
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「それじゃあ今から始めようか、本当の崩身の戦いをッ」
そう口走った瞬間、フーマは半身で右手を鼻の前で構えるファイティングポーズを作った。
ディーノはその様子を見て即座に構えを作り、恐らく今から始まるであろう本気の崩身を使ったフーマとの戦いに備える。
(凄え、ゴンちゃんやアンベルトとは全く違う……剥き出しというよりも研ぎ澄まされた殺意。何としてでも殺すっている覚悟が伝わって来る)
戦闘モードに入って拳をしっかりと握ったフーマからは人並み外れた殺意が漏れ出していた。
どれ程普段性格が穏やかで物腰柔らかだとは言え彼もマフィアである、ディーノの何十倍も修羅場を超えて研ぎ澄まされた空気感。
拳を交えなくても分かる、この男もまた強者なのだと。
(だが簡単に負けるんじゃ面白くねえ……狙うに決まってんだろ、カウンターを!!)
フーマの底知れ無さを肌と視線で感じたディーノは自らが一番信頼している技術、カウンターを狙いにいく。
彼にも幾度と無くゴンザレスにボコされ、その度に強く成ってきたというプライドがある。
自らの切り札であるカウンターであれば確実に一矢報る事ができると信じていた。
(見極めろッ助走を予備動作を……あの身体から発される攻撃の予兆を完璧に読み切ってカウンターを合わせッ……)
ディーノは是が非でもカウンターを合わせる為に目をガン開き、この数日間で手に入れた新たな武器である人並み外れた集中力を振りかざしてフーマを睨み付けた。
しかし、それを嘲笑う様にその出来事は起こる。
何の前触れもなく、ディーノの視線全てが拳に埋め尽くされたのである。
「へぇ……?」
全力の警戒をしていたにも関わらず正面からその警戒を突破されたディーノの口からまるで魂が抜けたような、力の無い声が零れた。
そしてそれから一拍おいて、その声とは正反対の余裕に満ちた声が響く。
「どうだい、見えなかっただろ?」
フーマの口から発された言葉を聞いた瞬間、ディーノの身体から一気に力が抜けて無力感に苛まれたまま地面に腰を打ち付けた。
此処まで全く反応できなかったのは初めてである。
「なんだ……今の……」
状況が全く飲み込めないディーノの口から呆然とした声が漏れる。
「此れが崩身が多用する元も重要な技術、『瞬歩』。一蹴りでトップスピードに身体を持っていく技さ」
「瞬歩、それが今の瞬間移動みたいな動きの秘密なのか?」
「そうなんだけど、実際にもう一度見て貰った方が早いかな」
そう言うとフーマは地面に座り込んでいるディーノに身体の側面を向け、再び拳を握って構えを作った。
今回はゴンザレスが使っている様な一般的な構えだ。
「先ずは普通のパンチから」
そう言うとフーマはシャドウでパンチを放った。
空気を切り裂くビュンビュンという音が響き、非常に洗練された動きでコンパクトにパンチを刻んでいく。
しかし、非常に良いパンチだが簡単に目で追える程度であった。簡単に回避してカウンターを合わせる事が出来るだろう。
どうしてもゴンザレスのパンチに比べると見劣りしてしまう。
「じゃあ次は瞬歩を用いたパンチね。一瞬だから良~く見てて」
そう言うとフーマは最初に見せた半身で鼻の前に拳を構えるフォームを作った。
そして一秒後、ダンッというコンクリートの地面を力強く蹴り付ける音が響いたかと思うと、フーマの身体全体がそのエネルギーを増幅させて前方に進んだ。
そのエネルギーは最終的に拳へ辿り着き、まるで身体が一本の槍であるかの様に酷く前傾姿勢ではあるが目にも留まらぬ速さで拳が宙を貫いた。
(速ええ、来るって分かってても完璧に目で追えなかった……)
凄まじい事は理解していたが、其れを遙かに上回るデタラメなスピードに言葉を失う。
何よりも恐ろしいのがあのスピードに達する間で助走を必要としていないという事。
この事実が表すのは、カウンターを狙っている時でも、回避しようとしている時も、敵が見せた僅かな隙を突こうとする時でも、何時でも即座にこのスピードを発動できるという事だ。
余りにもメチャクチャな技に言葉を失う。
「ディーノには、恐ろしい程早いパンチに見えたかな?」
「ああ、見えた。こんなに目で追えないパンチは初めてだ」
フーマの質問にディーノは頭をブンブンと降って応じる。
「じゃあもうネタばらしをするんだけど、実はこのパンチのトップスピード自体は最初のパンチよりも遅いんだ」
「……遅い? 何言ってんだ??」
「そうだね、困惑するのも無理はない」
そう言うとフーマは少し説明を頭で纏める為に間隔を置き、それかゆっくりと口を開いた。
「人間の目っていうのはゆっくりと加速した物体であれば慣れて実際よりもゆっくりに感じる、無意識のうちに軌道を脳が予測するというサポートがあるからだ。しかし急加速した物体であればそのサポートは発生しない」
ディーノは少しずつ何が言いたいのかを理解して頭をコクコクと振る。
「そしてこの瞬歩は一歩の踏み込みに全てを掛け、全身を使いパンチを打ち出す事により初速を極限まで上げている。僕の場合は初速が普通のパンチの1,5倍になっているよ」
此処で漸く全く反応できなかったフーマの攻撃の秘密が掴めてきた。
つまりクラウチングスタートの様な原理で初速に全力を掛け、加速課程で相手に反応される事を防ぎ最初からトップスピードで拳を撃ち放つ。
急加速した物体ほど目で追えない人体の特徴を利用した巧妙な技術だ。
「成る程。其れに相手の隙も突きやすいし、回避にもコッチの方が便利だ」
「確かにその通り、だけど欠点もある。其れは一度使えば確実に体勢が崩れる事、此れが最大の欠点だね」
そう言ってフーマは人差し指をピンと立てた。
「普通のパンチは常に重心を安定させて、例え攻めに行く時でも完璧に体勢が崩れるまでは重心を倒さない。一方この瞬歩では全重心を前に倒して重心の力を最大限に生かし攻撃する、その分体勢は大きく崩れる」
「回避されるとヤバいって事か」
「そう。逆に自分が回避として瞬歩を利用する場合は、敵が放ってきた大振りに合わせて使わないと逆に追い詰められてしまう。だから使い所には注意しなくちゃいけないね」
ディーノは脳内でこの攻撃によって発生するメリットを考えた。
確かにこの瞬歩にを外したときのデメリットは大きい、しかし其れを補って余りある程のメリットがこの瞬歩には隠されている。
瞬間的に加速する事によって得られる選択肢は無限大だ、敵の警戒を正面から突破して一撃を入れられる手札が増えるだけでかなり有利に立ち回れる。
そしてその力が手に入る絶好の機会が目の前に転がってきた、掴まない手はない。
「教えてくれ、その瞬歩。一秒でも早く物にしたいッ」
「その言葉を待っていたよ。良いだろう、今日中に叩き込めるだけ叩き込んでやる」
そう言ってディーノとフーマは再び拳を掲げ、長い組み手が始まったのだった。
そう口走った瞬間、フーマは半身で右手を鼻の前で構えるファイティングポーズを作った。
ディーノはその様子を見て即座に構えを作り、恐らく今から始まるであろう本気の崩身を使ったフーマとの戦いに備える。
(凄え、ゴンちゃんやアンベルトとは全く違う……剥き出しというよりも研ぎ澄まされた殺意。何としてでも殺すっている覚悟が伝わって来る)
戦闘モードに入って拳をしっかりと握ったフーマからは人並み外れた殺意が漏れ出していた。
どれ程普段性格が穏やかで物腰柔らかだとは言え彼もマフィアである、ディーノの何十倍も修羅場を超えて研ぎ澄まされた空気感。
拳を交えなくても分かる、この男もまた強者なのだと。
(だが簡単に負けるんじゃ面白くねえ……狙うに決まってんだろ、カウンターを!!)
フーマの底知れ無さを肌と視線で感じたディーノは自らが一番信頼している技術、カウンターを狙いにいく。
彼にも幾度と無くゴンザレスにボコされ、その度に強く成ってきたというプライドがある。
自らの切り札であるカウンターであれば確実に一矢報る事ができると信じていた。
(見極めろッ助走を予備動作を……あの身体から発される攻撃の予兆を完璧に読み切ってカウンターを合わせッ……)
ディーノは是が非でもカウンターを合わせる為に目をガン開き、この数日間で手に入れた新たな武器である人並み外れた集中力を振りかざしてフーマを睨み付けた。
しかし、それを嘲笑う様にその出来事は起こる。
何の前触れもなく、ディーノの視線全てが拳に埋め尽くされたのである。
「へぇ……?」
全力の警戒をしていたにも関わらず正面からその警戒を突破されたディーノの口からまるで魂が抜けたような、力の無い声が零れた。
そしてそれから一拍おいて、その声とは正反対の余裕に満ちた声が響く。
「どうだい、見えなかっただろ?」
フーマの口から発された言葉を聞いた瞬間、ディーノの身体から一気に力が抜けて無力感に苛まれたまま地面に腰を打ち付けた。
此処まで全く反応できなかったのは初めてである。
「なんだ……今の……」
状況が全く飲み込めないディーノの口から呆然とした声が漏れる。
「此れが崩身が多用する元も重要な技術、『瞬歩』。一蹴りでトップスピードに身体を持っていく技さ」
「瞬歩、それが今の瞬間移動みたいな動きの秘密なのか?」
「そうなんだけど、実際にもう一度見て貰った方が早いかな」
そう言うとフーマは地面に座り込んでいるディーノに身体の側面を向け、再び拳を握って構えを作った。
今回はゴンザレスが使っている様な一般的な構えだ。
「先ずは普通のパンチから」
そう言うとフーマはシャドウでパンチを放った。
空気を切り裂くビュンビュンという音が響き、非常に洗練された動きでコンパクトにパンチを刻んでいく。
しかし、非常に良いパンチだが簡単に目で追える程度であった。簡単に回避してカウンターを合わせる事が出来るだろう。
どうしてもゴンザレスのパンチに比べると見劣りしてしまう。
「じゃあ次は瞬歩を用いたパンチね。一瞬だから良~く見てて」
そう言うとフーマは最初に見せた半身で鼻の前に拳を構えるフォームを作った。
そして一秒後、ダンッというコンクリートの地面を力強く蹴り付ける音が響いたかと思うと、フーマの身体全体がそのエネルギーを増幅させて前方に進んだ。
そのエネルギーは最終的に拳へ辿り着き、まるで身体が一本の槍であるかの様に酷く前傾姿勢ではあるが目にも留まらぬ速さで拳が宙を貫いた。
(速ええ、来るって分かってても完璧に目で追えなかった……)
凄まじい事は理解していたが、其れを遙かに上回るデタラメなスピードに言葉を失う。
何よりも恐ろしいのがあのスピードに達する間で助走を必要としていないという事。
この事実が表すのは、カウンターを狙っている時でも、回避しようとしている時も、敵が見せた僅かな隙を突こうとする時でも、何時でも即座にこのスピードを発動できるという事だ。
余りにもメチャクチャな技に言葉を失う。
「ディーノには、恐ろしい程早いパンチに見えたかな?」
「ああ、見えた。こんなに目で追えないパンチは初めてだ」
フーマの質問にディーノは頭をブンブンと降って応じる。
「じゃあもうネタばらしをするんだけど、実はこのパンチのトップスピード自体は最初のパンチよりも遅いんだ」
「……遅い? 何言ってんだ??」
「そうだね、困惑するのも無理はない」
そう言うとフーマは少し説明を頭で纏める為に間隔を置き、それかゆっくりと口を開いた。
「人間の目っていうのはゆっくりと加速した物体であれば慣れて実際よりもゆっくりに感じる、無意識のうちに軌道を脳が予測するというサポートがあるからだ。しかし急加速した物体であればそのサポートは発生しない」
ディーノは少しずつ何が言いたいのかを理解して頭をコクコクと振る。
「そしてこの瞬歩は一歩の踏み込みに全てを掛け、全身を使いパンチを打ち出す事により初速を極限まで上げている。僕の場合は初速が普通のパンチの1,5倍になっているよ」
此処で漸く全く反応できなかったフーマの攻撃の秘密が掴めてきた。
つまりクラウチングスタートの様な原理で初速に全力を掛け、加速課程で相手に反応される事を防ぎ最初からトップスピードで拳を撃ち放つ。
急加速した物体ほど目で追えない人体の特徴を利用した巧妙な技術だ。
「成る程。其れに相手の隙も突きやすいし、回避にもコッチの方が便利だ」
「確かにその通り、だけど欠点もある。其れは一度使えば確実に体勢が崩れる事、此れが最大の欠点だね」
そう言ってフーマは人差し指をピンと立てた。
「普通のパンチは常に重心を安定させて、例え攻めに行く時でも完璧に体勢が崩れるまでは重心を倒さない。一方この瞬歩では全重心を前に倒して重心の力を最大限に生かし攻撃する、その分体勢は大きく崩れる」
「回避されるとヤバいって事か」
「そう。逆に自分が回避として瞬歩を利用する場合は、敵が放ってきた大振りに合わせて使わないと逆に追い詰められてしまう。だから使い所には注意しなくちゃいけないね」
ディーノは脳内でこの攻撃によって発生するメリットを考えた。
確かにこの瞬歩にを外したときのデメリットは大きい、しかし其れを補って余りある程のメリットがこの瞬歩には隠されている。
瞬間的に加速する事によって得られる選択肢は無限大だ、敵の警戒を正面から突破して一撃を入れられる手札が増えるだけでかなり有利に立ち回れる。
そしてその力が手に入る絶好の機会が目の前に転がってきた、掴まない手はない。
「教えてくれ、その瞬歩。一秒でも早く物にしたいッ」
「その言葉を待っていたよ。良いだろう、今日中に叩き込めるだけ叩き込んでやる」
そう言ってディーノとフーマは再び拳を掲げ、長い組み手が始まったのだった。
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