バンクエットオブレジェンズ~フルダイブ型eスポーツチームに拉致ッ、スカウトされた廃人ゲーマーのオレはプロリーグの頂点を目指す事に!!~

NEOki

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第四話 オンラインマッチ

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ズザァンッ!!

【キルログ プレイヤーD → プレイヤーB✖】

【プレイヤーDが最高レベルへ到達。チームブルーにレベル10プレイヤーが誕生しました、警戒してください】

 身の丈程もある長剣を容赦無く背中へと振り下ろされ、アーチャーの肉体は無情にも光の粒へと転じる。
 更にその魂は彼を殺した張本人である騎士の中へと吸い込まれ、憎き仇を頂の力へと導く踏み台とされたのだった。

 これで九割九分試合は決したと考えて良いだろう。10とそれ以下、例えレベル9が相手でもその間にはステータス合計で三割近い差が存在するのだから。

 例え此れまで彼が殺してした者達が蘇り、全プレイヤーが束に成ったとしても、倒すという選択肢が現実的と呼べる範疇に入ってこない。
 それ程までにレベル10プレイヤーとはこのバンクエットオブレジェンズの世界における絶対なのだ。

ザアァァァァァァ………

 まるで森羅万象が彼の力を前に平伏したかの如く、吹き抜けた快風が草花樹木の頭を垂れさせる。
 その自然極まる風は、このゲームには過剰としか言い様のないリアルな木漏れ日や森林特有のむせ返る様な甘い香りを際立たせた。

 しかしその森の鳴き声が足音を隠したか、揺らめく影と光の境界線が姿を隠したか、将又はたまたレベル10の人域越えた厳威げんいが存在を隠したのか。
 何時の間にか騎士の背後に、頭をスッポリと頭巾で覆う影をそのまま直立させた様な姿の男が立っていたのである。

 ここは戦場、中立地帯の真っ只中。周囲に仲間の位置を知らせる点は存在しない。
 つまり、今彼の背後に居るのは『敵』だという事になる。

ズザンッ

 そう曲がり道のないストレートな思考で結論へと辿り着いた騎士は、振り返る動作にそのまま斬撃を乗せ背後の人影を斬り付けた。
 円弧の残像が長剣の後を追って宙に引かれる。そしてその白刃が辿った軌跡は薄衣1つ挟まれる事なく敵へと到達し、悲鳴を上げる間も与えず敵の首を斬り飛ばす。



ドォン″ッ!!  ドサッ

 しかし、その直後聞こえたのは生首が地に落ちる音ではなかった。
 見事と言う他無き剣技で敵首を撫で斬りにした筈の騎士が、謎の衝撃により弾き飛ばされる音だったのである。

 この瞬間、騎士は突然目の前に振ってきた2つの強烈な違和感に頭抱える事となる。
 1つ目はたった今確かに斬り飛ばした筈の首が、まだ敵の胴の上に乗っている事。2つ目はおのれが今受け2メートル程吹飛ばされた衝撃、胸へ確かにその余韻が残っているにも関わらず何故か自分が1ダメージも受けていない事。
 
 このゲームの最も基本的な前提、攻撃を当てればダメージを与えられるという大前提が揺らいだ怪奇現象。普通の人間であればその余りな衝撃に足を地に貼り付けて動けなく成るだろう。
 しかし、少なくとも普通の人間ではない騎士はその違和感全てをダストボックスに放り込み、今自らがすべき最善択を選び取った。

 唯純粋に敵を殺す為作られた殺人マシンとして、躊躇も恐怖もなく互いの間に存在する2メートルの距離を一蹴りで詰める。
 そして敵の脳天目掛け、上段より長剣を振り下ろした。

ッキィィィィィン!!

 だがその長剣が敵の輪郭を捉える寸前、急に空間が其処だけ歪んでいるかの如く剣筋が乱れた。他の如何なる場所でも聞いた事がない独特な高音を発して、目標の横へと刃が流されたのである。

 そして気が付くと、その影の男の手には赤黒く塗られた片刃の武器が握られていた。まるでナイフの如き、一般的な物よりも一回り刃渡りが短い短刀である。

 その宛ら刺し殺してきた犠牲者の血が染みつき浮かび上がっているかの如きおどろおどろしい雰囲気に、騎士は迷いなくその武器を驚異と認定。リーチで優位を持つ者の当然な判断として懐に入り込まれぬ様素早く長剣を煌めかせる。
 影の男は自らの攻撃が届かぬ間合いの外より、視界が残像で埋まる程の目にも留まらぬ斬撃の嵐へと呑み込まれる事と成った。

ヒュンッヒュンッビュオ″ッヒュンッビュン″ッ!!

「………………」

 しかし、その嵐のただ中に居る彼の足はまるで其処が台風の目であるかの如く、平然と一点に留まっていた。

 騎士は中々引き剥がし距離を作り出せない事に対して苛立ちを覚えるかの如く、斬撃を振るう回転を更に加速させる。
 神に足元まで迫るレベル10の身体能力にて放たれるその攻撃は、さながら白銀の大気が旋風を成しているかの如く。
 
…………………………………トンッ

 しかしその猛撃であっても、影の男に半歩すら背後に引かせる事は出来ない。本当にその周囲のみ空間がこの世界と乖離しているのではないかと見えてしまう程剣閃が逸れていくのだ。

 更にそれに加えて男は、騎士の誇りに唾を吐き付ける様な行動を取る。
 全身全霊を掛け力の限り敵を遠避けんと剣を振るう彼へ、何と宛ら散歩でもするかの様に悠々前へ足を出し近づいてみせたのだ。

 その予想外な接近、何を如何すればあの分厚い斬幕の中前へ進めるのかという歩みに騎士は緊急回避の行動を取る。
 威嚇として大振りに長剣を振り下ろし、バックステップで自ら安全な距離を作り出そうとした。


トンッ、キィィィィィィンッ………ドウォン″ッ!!


 だがまるでその行動を待ちわびていたかの如く、剣が振り下ろされると同時に影の男が前に出る。そして当然の如く斬撃は彼の身体を避けて流れた。

 次の瞬間、騎士の心臓真上へと電光石火で半身作った敵の蹴りが突き刺さる。

「…………ッ!!」

 胸に槍で突き貫かれた様な鋭い衝撃を受け背後に吹飛んだ騎士は、何とか転倒する事なく着地する。しかし堪えるのでやっとという様子で数歩ヨロヨロと後退った。

 今、間違い無く蹴りではなく短刀による攻撃であったなら殺されていた。そしてそれが奴には出来た。出来たのにしなかった。
 理解できない。彼に与えられた知能では理解する事が不能な事実だけがメモリーに蓄積されていく。

 分からない、敵の思考も動きも。唯それにも関わらず、自分の攻撃ではあの存在している次元が異なる様な男に刃を届かせる事は出来ないという事だけは分かっていた。
 だがそれでも、騎士は役目に従い剣を振り上げる。そしてこの状況下で己に出来る最大限を捧げる為、地面を力強く蹴り抜た。

 彼が放ったのは、レベル10のステータスを最大限に生かす突進と共に広範囲を薙ぎ払う横一閃の斬撃。


ストンッ………


 騎士が最後の望みを掛けて振り抜いたその一太刀は、願い天に通じたかこれまで幾発もの斬撃を無に帰してきた空間の歪みを突破。遂に音速を超えたその切っ先が標的の肉体を捉えたのである。

 しかしそれなのに、確かにこの目で己の刃が敵の身体を切り裂いて行く様を見届けたというのに、何故か首に短刀を突き刺され身体が崩れていくのは彼の方であった。

 そしてそのみるみる高度を落としていく騎士の視界の中、傷1つなく平然と二本足で立つ影の男は、冷めた瞳で彼を見下ろしこう呟いたのである。



「NPCの相手は飽きたな………仕方ない、そろそろ対人戦に行こうかモッチーナ」

 九時間を超すNPC相手の戦闘に区切りを付け、ジークは何とも物悲しそうな顔と成りそう呟いた。
 
『了解ッ!! 二時間前くらいから最高レベルのNPC相手でも擦り傷すら負わなく成ってたしね。もうステップアップには十分過ぎるくらいだよ』

 そうモッチーナからも太鼓判を押され、いよいよ足踏みしている理由が無くなってしまう。

 ジークは今、このゲームを恨んでいた。
 このバンクエットオブレジェンズが面白過ぎた事を心の底から恨んでいるのである。

 このゲームが面白過ぎたせいでついジークは時を忘れやり込んでしまい、ふと気付いた時にはもう手遅れだった。
 知識を得れば得るほど、マップを覚えれば覚える程、技術が身に付けば付く程強く成れる事に気持ちよく成っていたら、何時の間にか嘗てあれ程興奮していた筈のドラゴンやレベル10プレイヤーも容易く倒せる様に成ってしまったのだ。

 今現在行っているNPC相手に戦うモードでは実力が突き抜けてしまい、もうこれ以上どれだけ強く成っても圧倒という同じ結果が返ってくるのみ。
 RPGをプレイしている時。序盤は早く上のレベルへ到達したいと思って遊ぶが、いざレベル100に成ってみてレベル10~20辺りの時期が一番楽しかったのだと気付くあの感覚だ。

 それ故このゲームに何も感じられなく成ってしまう前に、自分が100レベに成ってしまう前に、更なる強敵を求めオンラインの大海原へと漕ぎ出す決断をしたのであった。


(お願いだ、バンクエットオブレジェンズ。もう少しオレに此処へ居させてくれ…)


 そう胸の中で呟きつつも、同時に内心ではもうあの瞬間以上に自分がこのゲームへ没入する事は無いんだろうなという諦めの感情も存在していた。

 だがしかし、この時の彼はまだ知らなかったのだ。
 このバンクエットオブレジェンズというゲームが世界で最もプレイされているeスポーツである、その意味を。
 海面から見下ろしただけじゃ、その海の深さは1%だって理解する事は出来ない。海底で揺れる怪物の巨影は、海の青さに呑まれ、まだジークの瞳に映ってはいなかったのである。
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