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第三話 バンクエットオブレジェンズ⑪
しおりを挟む『ジーク君、お疲れ様。と~ってもナイスファイトだったよ!!』
何時の間にかゲームがスタートした場所、十体の彫刻が並ぶ神殿へと移動していたジークは呆然とそのモッチーナの声を聞いていた。
目を閉じればまるで未だあの戦場に立っているかの如く鮮明に思い出せる。胸の中で動け動けと響き続ける自分の声と迫る敵の長剣、刃が首筋に触れた瞬間の魂を突つつかれた様なゾクリとした感覚、切断されみるみる高度を落としていく視線、地面で頭蓋骨が跳ねる奇妙な衝撃。
その一つ一つが、あの瞬間現実として戦いに没入していたジークにとって紛れもない死であった。
『負けちゃったのは残念だったけど、あれはちょっと運が悪かったね。こんなに早く敵チームにレベル10プレイヤーが誕生する何て滅多にない事なんだッ……』
「フフッ」
『ん? 如何したのジーク君??』
「…フッ、フフフッ………フッ…フアハハハハハッ!! アハハハハハハハッ!!」
『!?』
それまで一を描く様に固く閉ざされていたジークの口から出た呼吸音とも声とも取れる音。それが気になり顔を近づけたモッチーナは、しかし直後そこから弾けた狂気的な笑いに驚き仰反る事と成った。
「アハハハハッアハッ、アハハハハハハ………負けた負けたッ…負けた、ちくしょうッ!!」
『うわあッ!?』
そして今の今まで笑っていたにも関わらず更に予期せず飛び出した怒声に、モッチーナは等々悲鳴を上げ飛び退いたのであった。
内面が外面へ現れ過ぎて逆に感情が読み取れない。
だが、感情が分からなく成っていたのはこの時のジーク自身も同じだったのである。
出し惜しみの無い自分の全力をぶつけても底の見えぬゲームと出会う事が出来たという喜び。しかし其れと別にして勝負に負けた事に対する腸が煮えくり返る様な悔しさ。
その相反する感情が真っ向からぶつかり合い、ジークの顔は笑いながら怒っている奇妙極まりない表情と成っていたのである。
だがそのどちらの感情もヘルズクライシスが無くなってしまえばもう湧く事は無いと思っていた物。だからやっぱり、嬉しいの方が上回った。
「くそぉ~負けた、負けたかー。何で負けたんだ? ……そうだ、斬撃を受け止めたら急に身体が動かなく成ったんだ。なあモッチーナ?」
『は、はい! なッ何でしょうか!!』
笑っていたかと思えば突然怒り出し、そして今度はペチャクチャと独り言を言い出した男に名前を呼ばれモッチーナはピクリと身体を振るわす。
しかし其れでも職務放棄はせず、しっかりと彼はナビゲートAIとしての役割を果たしてくれる。
「何で敵の斬撃を受けた途端身体が金縛りに遭ったみたいに成ったんだ? それに動きがオレと相手でまるっきり違ったんだが、レベル8とレベル10ってどれ位のステータス差が有るのかも知りたい」
『うんッ、そう言う事なら任せてよ! まずさっきジーク君が動けなく成ったのはねぇ………』
ジークの明らかこの世界へ訪れたばかりの時と色が変わった瞳に、心なしかモッチーナの笑顔がより柔らかく成った気がした。
そんなモチモチとした相棒により彼はこのゲーム、バンクエットオブレジェンズの更なる詳しい説明を受ける事と成ったのである。
最初は先程の戦いで具体的な敗因となった謎硬直の解説。其処からナイトジョブの各レベル毎のステータス数値の表示、ナイト同士の戦いとなった場合に何よりも重要となってくる要素の説明。
そして更に話は発展しナイト以外のジョブのステータスや特性の解説へ移り、しっかりとジョブやスキル,アイテム等のシナジーを考え組み合わせるという段階にまでジークは至ったのだ。
「何だこれ………メチャクチャな強スキルが有るじゃん。良いのかこんなの普通に選択出来てッ」
脳死でやっているだけじゃつまらない、そう思ったジークはナイト以外のジョブに可能性を求め画面に表示されたスキル一覧眺めていた。
すると、彼はあるスキルに途轍もない可能性を見出したのである。一つだけ明らか性能も使い勝手も頭一つ抜けている物を発見したのだ。
そんな掘り出し物を見つけてしまえば、もう試さずには居られない。そう思うのがゲーマーの性であろう。
「おいモッチーナ! やりたい事見つけた、早速次の試合に行かせてくれ!!」
『了解ッ! ジーク君は才能が有るからね。宝石は磨かないと勿体ない、どんどんマッチを組んで経験を積んでいこー!!』
ジークが目を少年の如くキラキラさせながら発したその言葉に、モッチーナは本心なのかおべっかなのか判然としない言葉を返す。
しかしそんな事は如何でも良いと言わんばかりに、彼はこの瞬間流れゆく時すら惜しむ様子で記念すべき第二戦へと向かっていった。
そして其れから丸10時間近く、ジークは時も外界の存在も忘れてバンクエットオブレジェンズの世界に没入したのである。
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