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第四話 オンラインマッチ⑩
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「ゴッ、フェエ………ッ!」
「あッ、Arthur卿ッ!?」
必勝方を導き出し自らの勝利を信じて疑わなかったナイトが、流し受けを行ないながらの前進というあらゆる常識を覆す行動を取ったアサシンの肘打ちを受け吹き飛んだ。
そしてその今まで見た事がない仲間のやられ様に、普段絶対的な信頼故にナイトの行動には口を出さないアーチャーからつい声が出る。
プレイヤー Arthurという男がその類い希なる知識を用い、此れまで例え格上相手だろうと激戦を演じて来た事を彼は誰より知っているから。少なくとも、初期スキンのアサシンに三度も容易く打撃攻撃を入れられる屈辱を味わって良いプレイヤーではない。
「グゥ………ァアアッ!!」
…………………………ズオォン″ッ!!!!
背後に控える味方が上げた不安の色滲む声に、ナイトはエースプレイヤーとしての誇りに掛け奮起。
肘打ちを受け倒れかかっていた身体を巧みな足捌きとバランス感覚で着地させ、以前後退を知らぬかの如く前進してくるアサシンへと長剣を振り下ろした。
ッキィィィン″!! ドゴッ、ガッ、ズドォオ”ッ!!
しかしその苦し紛れな反撃程度では彼らを襲った理不尽の権化を払い退ける事など出来ない。
容易く流し受けで剣筋を狂わされ、距離をゼロにされる。そして気付いた時には鋭い三発の衝撃が顔・胸・腹に打ち込まれていた。
「ガァ、ァァァ……ッ!!」
ドガァ”ッ!!
打撃により身体へ蓄えられたスタン値が限界を超え、まるで風船に穴が空いたかの如くナイトの身体より力が抜け出ていった。そして重力に従い地面に倒れる、事さえその敵は許してくれない。
前傾した頭部の顎を狙い澄ましたアッパーがかち上げ、その倒れかかっていたナイトの身体を強引に空中へと押し戻してきたのである。
それはキルを取る事もせず、スタン値が溜まって動けなく成ったとしてもこの惨劇を終わらせる気はないというアサシン側からの残酷なメッセージであった。
ドガッ ガァンッ ドッズドォ!! ダンッ ガッ、ガン!! ドゥンッ!! ドゥッ ガッガンッズドォンッ!! ズバアァッ!! ガンッ ガンッ ガンッ ドガアン″ッ!!!!
(こ、これは……余りにッ惨い!)
倒れる事すら許されずサンドバッグの如く一方的な暴力を浴びせられ続ける仲間の姿に、アーチャーは涙を堪えるので必死だった。
もうマナーが悪いとかそういう次元の話ではない。ゲームだから相手に痛みは伝わらないとは言え、見た目上完全に人間な相手を何故ここまで執拗に甚振る事が出来る? 敵の神経が理解出来ない。
しかし同時に、アーチャーはその惨い有様を前にして何も出来ない自分自身にも怒りを覚えていた。
彼にこの場で与えられた役割はサポート。ナイトが攻撃し易いよう隙を作ったり、危機に陥ったタイミングで撤退の間を生み出す為矢を放つのが仕事だ。
だがその役割が最も求められている今、アーチャーは矢を引き絞ったまま立ち尽くす事しか出来ていないのである。
それはアサシンとナイト、そしてアーチャーの位置関係が原因。アサシンは彼には目もくれず遊戯が如くナイトを殴り蹴りし続けているにも関わらず、細かに足を動かして矢が放てなき絶妙なポジションを維持し続けているのだ。
ナイトの身体を盾のように使って射線を切り、密着した状態で打撃を行なっている為一瞬隙が出来てもフレンドリーファイアを恐れ矢を放つ事が出来ない。すぐ三メートル程の距離に居るにも拘わらず手が出せないのであるり
(クソ……拙者は役立たずでござる!! 仲間が目の前で痛め付けられているというのに、その姿を唯傍観する事しか出来ないとは…ッ)
アーチャーは、味方の肩越しに僅かだけ覗く敵の頭を正確に射抜けるだけの腕が自らに無い事を心の底から恥じた。
自分のこれまでアーチャー一筋で鍛え上げてきた時間は一体何だったのかと情けなくて仕方が無い。
しかし、そんな彼の顔が絶望に俯きかけたその寸前、下を向いた両目に仲間が必死な思いで送ってきたとあるメッセージが映ったのである。
(あれはッ……………………そうか、アレをやれと言っているのでござるなッ!!)
ナイトはもう全身がスタン状態になり腕を振ることさえままならなく成りながらも、懸命に小指を立てていたのだ。
円卓の騎士団では手の指に緊急事態用の作戦をハンドサインとして紐付けている。そして小指を立てたその意味は、最終手段使用の合図。
この状況にあってもナイトは未だ諦めていなかったのだ。
そしてその闘志がアーチャーの瞳に炎を灯す。最も辛い状況にある仲間が諦めていないのに自分が折れる訳にはいかない、彼は絶望を拭い顔を上げた。
「ブースト、起動ッ!!」
【ブースト アルテミスアロー起動。戦の雌雄、この一矢に定まりたり】
ブーストが起動しその弓に番えた矢が黄金の輝きを放ち始める。
そして彼が照準を定めたその先には、たった今この瞬間も一方的な暴力に晒されている味方の背中。
アーチャーのブースト『アルテミスアロー』の効果は瞬間的な攻撃力のバフに加え、大木も大岩も獣も人体も何もかもを貫通するという特殊効果が矢に付与されるという物。
そして彼らが小指に紐付けた作戦とは、味方一名が敵一名を抑え、その味方ごとアルテミスアローで撃ち抜き1対1の交換で強敵を排除するという物だった。
(Arthur卿、貴方の死を無駄にはしない。私はこの矢で味方ごと敵を射貫き、この悪逆非道なプレイヤーに裁きの鉄槌を下すでござるッ!!)
アーチャーは奥歯を力の限り食い縛り、己の持ち得る全ての集中力をこの一瞬に注ぎ込みながら腹の中で呟いた。すると不思議な事にこの矢は絶対に当たるという自信が湧いてきたのである。
更にそんな彼の燃えたぎる闘志を背に感じたのか、ナイトが最後の意地を見せた。打撃スタンを受けもう殆ど動かなく成っていた身体の重心を何とか前に傾け、まるで覆い被さるように倒れる事でアサシンの動きを少しでも妨げようとしたのである。
そしてその行動が功を奏し、倒れてきた彼の身体が背後でブーストを発動させたアーチャーの姿を隠してアサシンの危機察知を僅かに遅らせる。
奴の足なら時間が一秒もあればアーチャーの矢より逃れる事は容易だったであろう。ナイトが奪ったのは、その1秒だった。
最後の最後で、Arthurはジークに正しく一矢報いてみせたのである。
ッビュウ”ン”!!!!
アルテミスアローの金色に煌めく矢がアーチャーの弓より撃ち放たれる。
そして矢は最短距離でナイトの命を奪い、その奥で漸く拍動を速めたアサシンの心臓を狂いなく貫いたのであった。
「あッ、Arthur卿ッ!?」
必勝方を導き出し自らの勝利を信じて疑わなかったナイトが、流し受けを行ないながらの前進というあらゆる常識を覆す行動を取ったアサシンの肘打ちを受け吹き飛んだ。
そしてその今まで見た事がない仲間のやられ様に、普段絶対的な信頼故にナイトの行動には口を出さないアーチャーからつい声が出る。
プレイヤー Arthurという男がその類い希なる知識を用い、此れまで例え格上相手だろうと激戦を演じて来た事を彼は誰より知っているから。少なくとも、初期スキンのアサシンに三度も容易く打撃攻撃を入れられる屈辱を味わって良いプレイヤーではない。
「グゥ………ァアアッ!!」
…………………………ズオォン″ッ!!!!
背後に控える味方が上げた不安の色滲む声に、ナイトはエースプレイヤーとしての誇りに掛け奮起。
肘打ちを受け倒れかかっていた身体を巧みな足捌きとバランス感覚で着地させ、以前後退を知らぬかの如く前進してくるアサシンへと長剣を振り下ろした。
ッキィィィン″!! ドゴッ、ガッ、ズドォオ”ッ!!
しかしその苦し紛れな反撃程度では彼らを襲った理不尽の権化を払い退ける事など出来ない。
容易く流し受けで剣筋を狂わされ、距離をゼロにされる。そして気付いた時には鋭い三発の衝撃が顔・胸・腹に打ち込まれていた。
「ガァ、ァァァ……ッ!!」
ドガァ”ッ!!
打撃により身体へ蓄えられたスタン値が限界を超え、まるで風船に穴が空いたかの如くナイトの身体より力が抜け出ていった。そして重力に従い地面に倒れる、事さえその敵は許してくれない。
前傾した頭部の顎を狙い澄ましたアッパーがかち上げ、その倒れかかっていたナイトの身体を強引に空中へと押し戻してきたのである。
それはキルを取る事もせず、スタン値が溜まって動けなく成ったとしてもこの惨劇を終わらせる気はないというアサシン側からの残酷なメッセージであった。
ドガッ ガァンッ ドッズドォ!! ダンッ ガッ、ガン!! ドゥンッ!! ドゥッ ガッガンッズドォンッ!! ズバアァッ!! ガンッ ガンッ ガンッ ドガアン″ッ!!!!
(こ、これは……余りにッ惨い!)
倒れる事すら許されずサンドバッグの如く一方的な暴力を浴びせられ続ける仲間の姿に、アーチャーは涙を堪えるので必死だった。
もうマナーが悪いとかそういう次元の話ではない。ゲームだから相手に痛みは伝わらないとは言え、見た目上完全に人間な相手を何故ここまで執拗に甚振る事が出来る? 敵の神経が理解出来ない。
しかし同時に、アーチャーはその惨い有様を前にして何も出来ない自分自身にも怒りを覚えていた。
彼にこの場で与えられた役割はサポート。ナイトが攻撃し易いよう隙を作ったり、危機に陥ったタイミングで撤退の間を生み出す為矢を放つのが仕事だ。
だがその役割が最も求められている今、アーチャーは矢を引き絞ったまま立ち尽くす事しか出来ていないのである。
それはアサシンとナイト、そしてアーチャーの位置関係が原因。アサシンは彼には目もくれず遊戯が如くナイトを殴り蹴りし続けているにも関わらず、細かに足を動かして矢が放てなき絶妙なポジションを維持し続けているのだ。
ナイトの身体を盾のように使って射線を切り、密着した状態で打撃を行なっている為一瞬隙が出来てもフレンドリーファイアを恐れ矢を放つ事が出来ない。すぐ三メートル程の距離に居るにも拘わらず手が出せないのであるり
(クソ……拙者は役立たずでござる!! 仲間が目の前で痛め付けられているというのに、その姿を唯傍観する事しか出来ないとは…ッ)
アーチャーは、味方の肩越しに僅かだけ覗く敵の頭を正確に射抜けるだけの腕が自らに無い事を心の底から恥じた。
自分のこれまでアーチャー一筋で鍛え上げてきた時間は一体何だったのかと情けなくて仕方が無い。
しかし、そんな彼の顔が絶望に俯きかけたその寸前、下を向いた両目に仲間が必死な思いで送ってきたとあるメッセージが映ったのである。
(あれはッ……………………そうか、アレをやれと言っているのでござるなッ!!)
ナイトはもう全身がスタン状態になり腕を振ることさえままならなく成りながらも、懸命に小指を立てていたのだ。
円卓の騎士団では手の指に緊急事態用の作戦をハンドサインとして紐付けている。そして小指を立てたその意味は、最終手段使用の合図。
この状況にあってもナイトは未だ諦めていなかったのだ。
そしてその闘志がアーチャーの瞳に炎を灯す。最も辛い状況にある仲間が諦めていないのに自分が折れる訳にはいかない、彼は絶望を拭い顔を上げた。
「ブースト、起動ッ!!」
【ブースト アルテミスアロー起動。戦の雌雄、この一矢に定まりたり】
ブーストが起動しその弓に番えた矢が黄金の輝きを放ち始める。
そして彼が照準を定めたその先には、たった今この瞬間も一方的な暴力に晒されている味方の背中。
アーチャーのブースト『アルテミスアロー』の効果は瞬間的な攻撃力のバフに加え、大木も大岩も獣も人体も何もかもを貫通するという特殊効果が矢に付与されるという物。
そして彼らが小指に紐付けた作戦とは、味方一名が敵一名を抑え、その味方ごとアルテミスアローで撃ち抜き1対1の交換で強敵を排除するという物だった。
(Arthur卿、貴方の死を無駄にはしない。私はこの矢で味方ごと敵を射貫き、この悪逆非道なプレイヤーに裁きの鉄槌を下すでござるッ!!)
アーチャーは奥歯を力の限り食い縛り、己の持ち得る全ての集中力をこの一瞬に注ぎ込みながら腹の中で呟いた。すると不思議な事にこの矢は絶対に当たるという自信が湧いてきたのである。
更にそんな彼の燃えたぎる闘志を背に感じたのか、ナイトが最後の意地を見せた。打撃スタンを受けもう殆ど動かなく成っていた身体の重心を何とか前に傾け、まるで覆い被さるように倒れる事でアサシンの動きを少しでも妨げようとしたのである。
そしてその行動が功を奏し、倒れてきた彼の身体が背後でブーストを発動させたアーチャーの姿を隠してアサシンの危機察知を僅かに遅らせる。
奴の足なら時間が一秒もあればアーチャーの矢より逃れる事は容易だったであろう。ナイトが奪ったのは、その1秒だった。
最後の最後で、Arthurはジークに正しく一矢報いてみせたのである。
ッビュウ”ン”!!!!
アルテミスアローの金色に煌めく矢がアーチャーの弓より撃ち放たれる。
そして矢は最短距離でナイトの命を奪い、その奥で漸く拍動を速めたアサシンの心臓を狂いなく貫いたのであった。
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