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第四話 オンラインマッチ⑨
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(今、一瞬世界が止まって見えたな……)
ジークは嘗てヘルズクライシスにて超高速の即死攻撃を掻い潜る際偶に発生していた『止まった世界』がこのゲームでも起きた事に対して僅かな驚きを覚える。
ずっとヘルクラ独自の仕様と思っていたのだが、若しかすると今のVRゲームではスタンダードな物なのかも知れない。
しかしまあ使い慣れた物が共通しているのは単純に嬉しい、そう思いながらジークは残った二人の敵プレイヤーがヨロヨロと起き上がってくるのを眺めた。
「何故ッ……殺さない。何故態々打撃で攻撃したァッ!!」
頭を地面に叩き付けられた事によるスタンから立ち直り、剣を構え直したナイトが開口一番そう叫んだ。
このゲーム、バンクエットオブレジェンズでは唯一武器による攻撃のみがダメージを与える手段と成っている。
しかしではそれ以外、パンチやキック等の打撃攻撃を命中させた時は如何成るのか。
その場合ダメージとは別に発生するのが、打撃スタンという現象であった。
打撃攻撃は命中する度にスタン値と呼ばれる数値をダメージ代わりに被撃側へと蓄積させていく。そしてその数値が一定ラインを超えると身体機能に制限が掛かり、現実でいう所の金縛り状態に敵を陥らせる事が可能なのだ。
更にこのスタン値の溜まり具合は打撃の威力と命中した箇所によって異なり、特に頭部などは良いパンチが一発入ればその瞬間スタン値が一定ラインを超え行動不能にさせられる。
以上述べた通りこの打撃スタンという要素は中々に奥深い物ではある。しかし実際は、この打撃スタンがプロリーグ以外で試合の勝敗を左右する事は殆ど無かった。
そしてそれは言ってしまえば当たり前の理由、打撃を入れる隙があれば其処へ斬撃を叩き込みキルを取っているからだ。
「嘗め腐りおって……キルを取れる場面で取らないのは煽りプレイ、立派なバッドマナーですぞ!! この様な不貞の輩、生かしてはおけぬッ。我ら二人で成敗してやりまそうぞ、Tristran卿!!」
「勿論でござるArthur卿!!」
敵を倒せる場面で敢えて倒さないというのはバッドマナーに当たる。それはこのゲームの初心者であり、対人系ゲームをこれまで避けてきたジークの知らない知識であったり
しかしまあ、もし仮に知った所で彼がそのマナーを遵守するのかは別の話だが。
(次はアレが人間相手で通用するのか確かめようかな)
そう次の遊びを定めたジークは、ナイトが前に立ちその背後でアーチャーがサポートとして弓を引き絞るという陣形を取った敵の懐へと、無造作に突っ込んだ。
ダンッ!
(速い、しかし先程に比べれば未だ目で追える!! やはり先程の異様な速度はアイテムによる一時的な物だった様ですな!!)
ナイトは先程ヘルメスシューズによる雷光が煌めく様な接近を目にしていた事もあり、今回一段落ちた敵のスピードには喰らい付いてきた。
幾らレベル10のステータスと言えども、アイテムによる倍率補正の入ったレベル9時点の速度に今ジークが出せる速度は劣っていたのだ。
そして超高速で迫る影に一瞬で狙いを合わせ、ナイトはその身を両断せんと長剣を振り下す。
ッキィィィィィン!!
しかしその上段より遠心力とナイトの全体重を乗せ振り下ろされた斬撃は、敵影を捉える寸前突如として剣筋が逸れた。
それはまるで大河の激流に呑み込まれたかの如く、長剣の描いた軌跡はアサシンの横へと押し流されたのだ。
そのネタを知らねば怪奇現象以外の何物でもない出来事にナイトは目を見開き、アサシンは思い描いた通りの結果にニヤリと笑った。
(この技術も人間相手に通用するみたいだ。教えてくれてありがとよ、モッチー!!)
この時、ジークの脳内にフラッシュバックしたのは最初のNPC戦で敗北した直後の記憶。自らを襲った謎硬直の正体をモチモチとした相棒に尋ねる映像であった。
『あれは相打ちスタンって言うんだよ』
「相打ちスタン?」
『そうッ! 相打ちスタンっていうのは武器同士が衝突した時に発生する硬直の事。このゲームでは攻撃力や使用している武器の質量、攻撃の放ち方とか角度により決まる重さって数値が武器を振ると乗せられる。そして武器同士がぶつかり合うとその数値の低い方にスタンが発生するんだ』
「なる程。つまりさっき剣を合わせた時、ナイトよりも重さが低かったからオレは動けなく成ったのか」
『そうだね。あの時はレベル8とレベル10のステータス差があったし、ジーク君は片手剣で敵は長剣。しかも上段から振り下ろされた一撃を唯受け止めるだけっていう形になったから、とっても大きな硬直が発生したんだ』
「……………それじゃあ重い武器は振り回し得って事か? それに武器を合わせた瞬間硬直が発生するなら、レベル差がある相手には絶対勝てないって言ってる様なもんだろ??」
『う~ん。レベル差が有るんだからそれで当然って言う人も多いし、実際多くの試合ではレベルが高く武器が重い方がゴリ押しで勝利してる。けど、硬直を発生させずに武器を打ち合わせる方法も有るには有るんだよッ! まあ難しいけどね~」
そしてモッチーナが教えてくれたのが、たった今ジークが行った『流し受け』という技術であった。
そもそも相打ちスタンとは、正反対の力のベクトルを持つ武器同士が衝突した時に発生する現象。流し受けという技術はその『正反対の力のベクトル』という条件に着目して生み出された技術なのである。
先程、ナイトはジークの脳天目掛け長剣を振り下ろしていた。この時力のベクトルは真下、これに対して真上に力の方向を向けて受け止めようとすれば相打ちスタンが発生してしまう。
其処でジークは、横方向に力のベクトルを向けた状態で短刀を長剣の腹に押しつけたのである。この条件であればベクトルの矢印が衝突しない為相打ち硬直は発生しない、しかし同時に刃が流れてしまう為斬撃を受け止める事も出来ない。
ならば受け止めるのではなく、その刃が流れる事を利用して身体を斬撃の軌道より逃そう。
それが流し受けの核となる考え方であった。
ドゥンッ!!!!
流し受けにより斬撃を回避したジークはそうして自ら抉じ開けた隙に飛び込み、蹴りを敵の胴体へと叩き込んだ。
その鋭い衝撃はナイトの鎧に覆われた身体を容易く打ち上げ数メートル吹き飛ばしてみせる。
そしてその痛撃により膝を突いた敵へと、ジークは滑らかに動きを繋ぎ追撃を狙う。
ッヒュン!!
しかし、そう簡単に連続で攻撃は入れさせて貰えない。
有名チームらしい反応速度でアーチャーが味方のカバーへと入り、矢を放ってジークの接近を阻んだ。そしてその生み出された時間の中でナイトは剣を杖の様に使って立ち上がり、体勢を立て直す。
「ご無事ですかArthur卿!!」
「……ああ、少し敵の紛れにしてやられただけですぞッ」
恐らく其処らの有象無象達であればこの瞬間何が起ったのか理解出来ずパニックに陥っていたであろう。
だがこのゲームのガチ勢として情報収集を怠らないナイトは、蹴り飛ばされ着地し再び立ち上がるまでの間でこの奇々怪界な現象のトリックを既に見破っていた。
(今のは流し受けという技術だな。中々珍しい技だが我らの計一万を越える対戦経験の中には同じ事をしてきた人間など両手に余る程いた、当然対策も織り込み済みである!!)
そうこれまでの経験を元に新たな敵の倒し方を導き出したナイトは、漲る自信を示すようにして堂々と歩を前に進めた。
流し受けとは向かって来る攻撃に逆らわぬ様力を加え軌道をズラす高等技術。それを初心者相手やNPC相手ならともかく、上級者の本気の斬撃を流そうと思えば1度成功させるだけでも優れたリズム感と絶大な集中力を要する。
それ故この流し受けという技術は、決定的なタイミングで敵の渾身の一撃を流し逆にカウンターを決める宛ら必殺技の様に使用されるのだ。
(だが逆に考えれば、それはこの芸当が乱発出来ないという事。集中を極限まで高め敵のリズムを掴み漸く1度決まるかというレベルの代物なら、流されてもリスクの低い遠間合いより失敗するまで斬撃を飛ばし続けてやれば良いッ!!)
それがナイトの導き出した流し受けの対策。
そもそも重心を中立にした状態の斬撃を流されたとしてもそれ程脅威になる事は無いのだ。体重を乗せた渾身の一撃、それを流されるから大きな隙を晒しカウンターでキルを取られてしまう。
つまり渾身の一撃を放たず最小限の隙で攻撃を放ち続ければ、この種の手合いに負ける事は絶対に無い。
ズオンッ………………ッキィィィィィン!!
既に詰んでいるとは知りもせず、健気にもアサシンはナイトの放った斬撃を流してきた。しかしその労力に見合う隙は生まれず、敵の懐へ飛び込む前に次の斬撃が飛んでくる。
ズオンッ……………ッキィィィィィン!!
余程集中力に優れているのか3度も連続で流し受けを成功させてきた。恐らく攻撃のリズムを掴まれているのだろう。
しかしそれでも甘い、甘いのだ。一流のプレイヤーとも成れば己の中に幾つものリズムを持っているのだという事を初心者に教えてやらねば成るまい。
…ズオンッ…………ッキィィィィィン!!
リズムをワンテンポ遅らせ、しかもフェイントを挟みながら四発目の攻撃を放つ。今度は流石にもう流す事は出来まい…そう思ったのだがアサシンはこれも対応してきた。素晴らしい反応速度である。
だがその素晴らしい反応を幾つ重ねた所で勝利が近付いてくる事はない。ジリジリと集中力を削られ、唯死を先延ばしにしているだけだと気付かないとは何と哀れな事であろう。
ズオンッ……ッキィィィィィン!!
しかし、そこで気付く事と成ったのはナイトの方。
回数を重ねる毎に、刃と刃が擦れ合う高音が大きく成っている気がした。斬撃を振り下ろしてから流されるまでの間隔が短く成っている気した。
まあそれはきっと、想像以上に敵が粘った事により発生した気のせいなッ………
ズオンッ、ッキィィィィィン″!!
「ッんなァ!?」
顔まで飛んだ火花が気のせいなどでは無いと無慈悲に警告する。
信じられない事に、奴は大きく前に踏み込みながら容易く振り下ろされた斬撃を流してきたのである。そして今確信する、奴はこれまでもドンピシャで流し受けを行いながら前進し続けていたのだと。
だがそれはあり得ない、あり得て良い筈のない異常事態だ。
流し受けとは足を止め、全身全霊をその刃押し当てる動作に振り絞る物の筈ではないか。こんな片手間に行えて良い技術な訳がない!!
(いや、とにかくこの距離は不味いッ。何とかして間合いを保たねば……ッ!?)
敵の想定外な接近にナイトは顔に脂汗を浮べ、アサシンが発する凄まじい圧に押されるがまま強引にバックステップにて距離を創り出そうとした。
しかしそれを読んでいたジークは、敵が背後へ飛ぶのに合わせ前に出る。
ダンッ……ズドォ″ッ!!
距離を作ろうとした騎士の努力を一蹴りで無に帰し、ジークはその顔面中央に肘打ちを叩き込んだ。
ナイトは何一つ間違った行動はしていない。唯自分の積み上げてきた経験で適切に敵の行動に対処しただけだ。
しかし一つ悲劇の原因を挙げるとするなら、ジークを前に経験と呼べるプレイヤーが、この世に片手で数える程しか居なかったという事だろうか。
ジークは嘗てヘルズクライシスにて超高速の即死攻撃を掻い潜る際偶に発生していた『止まった世界』がこのゲームでも起きた事に対して僅かな驚きを覚える。
ずっとヘルクラ独自の仕様と思っていたのだが、若しかすると今のVRゲームではスタンダードな物なのかも知れない。
しかしまあ使い慣れた物が共通しているのは単純に嬉しい、そう思いながらジークは残った二人の敵プレイヤーがヨロヨロと起き上がってくるのを眺めた。
「何故ッ……殺さない。何故態々打撃で攻撃したァッ!!」
頭を地面に叩き付けられた事によるスタンから立ち直り、剣を構え直したナイトが開口一番そう叫んだ。
このゲーム、バンクエットオブレジェンズでは唯一武器による攻撃のみがダメージを与える手段と成っている。
しかしではそれ以外、パンチやキック等の打撃攻撃を命中させた時は如何成るのか。
その場合ダメージとは別に発生するのが、打撃スタンという現象であった。
打撃攻撃は命中する度にスタン値と呼ばれる数値をダメージ代わりに被撃側へと蓄積させていく。そしてその数値が一定ラインを超えると身体機能に制限が掛かり、現実でいう所の金縛り状態に敵を陥らせる事が可能なのだ。
更にこのスタン値の溜まり具合は打撃の威力と命中した箇所によって異なり、特に頭部などは良いパンチが一発入ればその瞬間スタン値が一定ラインを超え行動不能にさせられる。
以上述べた通りこの打撃スタンという要素は中々に奥深い物ではある。しかし実際は、この打撃スタンがプロリーグ以外で試合の勝敗を左右する事は殆ど無かった。
そしてそれは言ってしまえば当たり前の理由、打撃を入れる隙があれば其処へ斬撃を叩き込みキルを取っているからだ。
「嘗め腐りおって……キルを取れる場面で取らないのは煽りプレイ、立派なバッドマナーですぞ!! この様な不貞の輩、生かしてはおけぬッ。我ら二人で成敗してやりまそうぞ、Tristran卿!!」
「勿論でござるArthur卿!!」
敵を倒せる場面で敢えて倒さないというのはバッドマナーに当たる。それはこのゲームの初心者であり、対人系ゲームをこれまで避けてきたジークの知らない知識であったり
しかしまあ、もし仮に知った所で彼がそのマナーを遵守するのかは別の話だが。
(次はアレが人間相手で通用するのか確かめようかな)
そう次の遊びを定めたジークは、ナイトが前に立ちその背後でアーチャーがサポートとして弓を引き絞るという陣形を取った敵の懐へと、無造作に突っ込んだ。
ダンッ!
(速い、しかし先程に比べれば未だ目で追える!! やはり先程の異様な速度はアイテムによる一時的な物だった様ですな!!)
ナイトは先程ヘルメスシューズによる雷光が煌めく様な接近を目にしていた事もあり、今回一段落ちた敵のスピードには喰らい付いてきた。
幾らレベル10のステータスと言えども、アイテムによる倍率補正の入ったレベル9時点の速度に今ジークが出せる速度は劣っていたのだ。
そして超高速で迫る影に一瞬で狙いを合わせ、ナイトはその身を両断せんと長剣を振り下す。
ッキィィィィィン!!
しかしその上段より遠心力とナイトの全体重を乗せ振り下ろされた斬撃は、敵影を捉える寸前突如として剣筋が逸れた。
それはまるで大河の激流に呑み込まれたかの如く、長剣の描いた軌跡はアサシンの横へと押し流されたのだ。
そのネタを知らねば怪奇現象以外の何物でもない出来事にナイトは目を見開き、アサシンは思い描いた通りの結果にニヤリと笑った。
(この技術も人間相手に通用するみたいだ。教えてくれてありがとよ、モッチー!!)
この時、ジークの脳内にフラッシュバックしたのは最初のNPC戦で敗北した直後の記憶。自らを襲った謎硬直の正体をモチモチとした相棒に尋ねる映像であった。
『あれは相打ちスタンって言うんだよ』
「相打ちスタン?」
『そうッ! 相打ちスタンっていうのは武器同士が衝突した時に発生する硬直の事。このゲームでは攻撃力や使用している武器の質量、攻撃の放ち方とか角度により決まる重さって数値が武器を振ると乗せられる。そして武器同士がぶつかり合うとその数値の低い方にスタンが発生するんだ』
「なる程。つまりさっき剣を合わせた時、ナイトよりも重さが低かったからオレは動けなく成ったのか」
『そうだね。あの時はレベル8とレベル10のステータス差があったし、ジーク君は片手剣で敵は長剣。しかも上段から振り下ろされた一撃を唯受け止めるだけっていう形になったから、とっても大きな硬直が発生したんだ』
「……………それじゃあ重い武器は振り回し得って事か? それに武器を合わせた瞬間硬直が発生するなら、レベル差がある相手には絶対勝てないって言ってる様なもんだろ??」
『う~ん。レベル差が有るんだからそれで当然って言う人も多いし、実際多くの試合ではレベルが高く武器が重い方がゴリ押しで勝利してる。けど、硬直を発生させずに武器を打ち合わせる方法も有るには有るんだよッ! まあ難しいけどね~」
そしてモッチーナが教えてくれたのが、たった今ジークが行った『流し受け』という技術であった。
そもそも相打ちスタンとは、正反対の力のベクトルを持つ武器同士が衝突した時に発生する現象。流し受けという技術はその『正反対の力のベクトル』という条件に着目して生み出された技術なのである。
先程、ナイトはジークの脳天目掛け長剣を振り下ろしていた。この時力のベクトルは真下、これに対して真上に力の方向を向けて受け止めようとすれば相打ちスタンが発生してしまう。
其処でジークは、横方向に力のベクトルを向けた状態で短刀を長剣の腹に押しつけたのである。この条件であればベクトルの矢印が衝突しない為相打ち硬直は発生しない、しかし同時に刃が流れてしまう為斬撃を受け止める事も出来ない。
ならば受け止めるのではなく、その刃が流れる事を利用して身体を斬撃の軌道より逃そう。
それが流し受けの核となる考え方であった。
ドゥンッ!!!!
流し受けにより斬撃を回避したジークはそうして自ら抉じ開けた隙に飛び込み、蹴りを敵の胴体へと叩き込んだ。
その鋭い衝撃はナイトの鎧に覆われた身体を容易く打ち上げ数メートル吹き飛ばしてみせる。
そしてその痛撃により膝を突いた敵へと、ジークは滑らかに動きを繋ぎ追撃を狙う。
ッヒュン!!
しかし、そう簡単に連続で攻撃は入れさせて貰えない。
有名チームらしい反応速度でアーチャーが味方のカバーへと入り、矢を放ってジークの接近を阻んだ。そしてその生み出された時間の中でナイトは剣を杖の様に使って立ち上がり、体勢を立て直す。
「ご無事ですかArthur卿!!」
「……ああ、少し敵の紛れにしてやられただけですぞッ」
恐らく其処らの有象無象達であればこの瞬間何が起ったのか理解出来ずパニックに陥っていたであろう。
だがこのゲームのガチ勢として情報収集を怠らないナイトは、蹴り飛ばされ着地し再び立ち上がるまでの間でこの奇々怪界な現象のトリックを既に見破っていた。
(今のは流し受けという技術だな。中々珍しい技だが我らの計一万を越える対戦経験の中には同じ事をしてきた人間など両手に余る程いた、当然対策も織り込み済みである!!)
そうこれまでの経験を元に新たな敵の倒し方を導き出したナイトは、漲る自信を示すようにして堂々と歩を前に進めた。
流し受けとは向かって来る攻撃に逆らわぬ様力を加え軌道をズラす高等技術。それを初心者相手やNPC相手ならともかく、上級者の本気の斬撃を流そうと思えば1度成功させるだけでも優れたリズム感と絶大な集中力を要する。
それ故この流し受けという技術は、決定的なタイミングで敵の渾身の一撃を流し逆にカウンターを決める宛ら必殺技の様に使用されるのだ。
(だが逆に考えれば、それはこの芸当が乱発出来ないという事。集中を極限まで高め敵のリズムを掴み漸く1度決まるかというレベルの代物なら、流されてもリスクの低い遠間合いより失敗するまで斬撃を飛ばし続けてやれば良いッ!!)
それがナイトの導き出した流し受けの対策。
そもそも重心を中立にした状態の斬撃を流されたとしてもそれ程脅威になる事は無いのだ。体重を乗せた渾身の一撃、それを流されるから大きな隙を晒しカウンターでキルを取られてしまう。
つまり渾身の一撃を放たず最小限の隙で攻撃を放ち続ければ、この種の手合いに負ける事は絶対に無い。
ズオンッ………………ッキィィィィィン!!
既に詰んでいるとは知りもせず、健気にもアサシンはナイトの放った斬撃を流してきた。しかしその労力に見合う隙は生まれず、敵の懐へ飛び込む前に次の斬撃が飛んでくる。
ズオンッ……………ッキィィィィィン!!
余程集中力に優れているのか3度も連続で流し受けを成功させてきた。恐らく攻撃のリズムを掴まれているのだろう。
しかしそれでも甘い、甘いのだ。一流のプレイヤーとも成れば己の中に幾つものリズムを持っているのだという事を初心者に教えてやらねば成るまい。
…ズオンッ…………ッキィィィィィン!!
リズムをワンテンポ遅らせ、しかもフェイントを挟みながら四発目の攻撃を放つ。今度は流石にもう流す事は出来まい…そう思ったのだがアサシンはこれも対応してきた。素晴らしい反応速度である。
だがその素晴らしい反応を幾つ重ねた所で勝利が近付いてくる事はない。ジリジリと集中力を削られ、唯死を先延ばしにしているだけだと気付かないとは何と哀れな事であろう。
ズオンッ……ッキィィィィィン!!
しかし、そこで気付く事と成ったのはナイトの方。
回数を重ねる毎に、刃と刃が擦れ合う高音が大きく成っている気がした。斬撃を振り下ろしてから流されるまでの間隔が短く成っている気した。
まあそれはきっと、想像以上に敵が粘った事により発生した気のせいなッ………
ズオンッ、ッキィィィィィン″!!
「ッんなァ!?」
顔まで飛んだ火花が気のせいなどでは無いと無慈悲に警告する。
信じられない事に、奴は大きく前に踏み込みながら容易く振り下ろされた斬撃を流してきたのである。そして今確信する、奴はこれまでもドンピシャで流し受けを行いながら前進し続けていたのだと。
だがそれはあり得ない、あり得て良い筈のない異常事態だ。
流し受けとは足を止め、全身全霊をその刃押し当てる動作に振り絞る物の筈ではないか。こんな片手間に行えて良い技術な訳がない!!
(いや、とにかくこの距離は不味いッ。何とかして間合いを保たねば……ッ!?)
敵の想定外な接近にナイトは顔に脂汗を浮べ、アサシンが発する凄まじい圧に押されるがまま強引にバックステップにて距離を創り出そうとした。
しかしそれを読んでいたジークは、敵が背後へ飛ぶのに合わせ前に出る。
ダンッ……ズドォ″ッ!!
距離を作ろうとした騎士の努力を一蹴りで無に帰し、ジークはその顔面中央に肘打ちを叩き込んだ。
ナイトは何一つ間違った行動はしていない。唯自分の積み上げてきた経験で適切に敵の行動に対処しただけだ。
しかし一つ悲劇の原因を挙げるとするなら、ジークを前に経験と呼べるプレイヤーが、この世に片手で数える程しか居なかったという事だろうか。
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