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第五話 最強の敵
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勉強は出来ない。生活力はゼロ。コミュ力もそれ程優れてる訳じゃない。それでもオレは、昔から遊びが誰よりも上手かった。
そして又同時に、オレにはこの世の誰よりも自分の才能を呪った自信が有る。
公園で鬼ごっこを行えば、鬼側なら数秒もせず誰かをタッチし、逃げ側に回れば例え足が自分より速い奴に追われたとしても決して捕まらない。缶蹴りなら誰より隠れるのが上手く、動き出しが俊敏で、缶を遠くまで蹴った。ジャングルジムの頂点には何時もオレが居たし、オレの乗ったブランコは他の子が視界に入らない程天高く舞い上がる。
そして遊びが上手いのはデジタルの世界でも同じ。
格闘ゲームは当然負けた事が無い。パーティーゲームでも多少の運要素は蹴散らし一番。動物の森では誰より早く家賃を返済しきりタヌキチ商店を買収して糞狸を労働者身分に叩き落としてやった。始めて触ったゲームでも数十分あれば余裕で持ち主の子をボコボコに出来る。
果たして、そんな奴と一緒に遊んで楽しいだろうか?
もっと他の才能だったらと何度願った事だろう。若しくはいっそ何の才能も持たずに生まれてこれたならと何度夢想した事だろう。
我が人生をもって断言出来る。遊びの才能とは、この世で最も価値のない才能なのだと。
考えてもみて欲しい。
例えば勉強が上手ければ、多くの人に賞賛されそれを活かして友人に教えたり仕事として知識を活用し他人を幸せにする事が出来るだろう。料理が上手ければ、その美味しい料理で自分も他人も皆を幸せにする事が出来るだろう。トイレ掃除の才能だって、そのトイレを利用する人を少なくとも幸せにしている。
だがしかし遊びが上手かったとして、どんなゲームでも他人をボコボコに打ち負かせたとして、それで他人を幸せに出来るだろうか? ボコボコにされた側は幸せだろうか? ボコボコにしてきた奴とまた遊びたいと思うだろうか? 遊んでくれる人間が居なくなったその遊びが上手いだけの人間は、果たして幸せなのだろうか??
それが、群雲疾風が現実を捨てコード・ジークとなり、バーチャルへと逃げた理由であった。
(久し振りに見たな、あの顔。昔スマブラで999%超えても三時間ハメ技で生殺しにし続けた伊藤君と同じ顔してた……)
リタイア寸前に見えたアーチャーの顔が脳裏に焼き付き、嫌な記録が幾つも蘇ってきたジークは誰も居なくなったフィールドで力無く寝転ぶ。
もうタブを開いて神殿に戻る気力もない。1分が経過して強制的に戻されるのを待とう。
そしてその1分間を利用し、ジークは自分に与えられた才能について少し考えたのである。
今回の件で認めざるを得なく成ってしまった、他人と一緒にやる遊びは一人でやるよりも面白いと。今までの自分の考えは一人遊びしか出来ない者の僻みに過ぎなかったのだと気付いてしまった。
だからもう否定する事はしない。
しかし否定しなかったとして、認めたとして、それは唯自分の辛さが増すだけなのだ。自分が本気を出せば相手が嫌な気持ちに成ると知った上でこのゲームをプレイし続ける訳にはいかない。
勿論下手ではあるが、多少の手加減くらいジークにも出来る。
だがそれをやってしまうと何も無くなってしまうのだ。遊びが上手いという才能しか持ち得ないのに、それを隠してしまえば自分が何も残らない。
だからバーチャル世界に閉じ籠もって感情の無いNPCを相手にし続けるのが正解だった。そして今の自分は不正解である。
バーチャルな場であれば若しかすると、なんて思っていたがやはり駄目らしい。
もう自分はこのバンクエットオブレジェンズというゲームに近寄るべきではない。関わる全ての人々を不幸にしてしまう。
これ程誰も幸せにしない才能が、他に有るのだろうか?
ヒュオンッ
「「「お″疲″れ″様″で″す″ッ!!」」」
試合終了から1分が経過。追い払われる様にステージより退出させられ、そしてその後一番に聞いた声と見た光景にジークは思わず固まった。
見違えようの無い距離で遮る物もなく直視したにも関わらず理解するのに10秒の時を要したその光景に、ジークが発せたのは唯この一言。
「…………………………………は?」
移動させられた先の神殿で、何故か先程の試合のチームメイト達が頭を下げて彼を迎えたのである。
そして又同時に、オレにはこの世の誰よりも自分の才能を呪った自信が有る。
公園で鬼ごっこを行えば、鬼側なら数秒もせず誰かをタッチし、逃げ側に回れば例え足が自分より速い奴に追われたとしても決して捕まらない。缶蹴りなら誰より隠れるのが上手く、動き出しが俊敏で、缶を遠くまで蹴った。ジャングルジムの頂点には何時もオレが居たし、オレの乗ったブランコは他の子が視界に入らない程天高く舞い上がる。
そして遊びが上手いのはデジタルの世界でも同じ。
格闘ゲームは当然負けた事が無い。パーティーゲームでも多少の運要素は蹴散らし一番。動物の森では誰より早く家賃を返済しきりタヌキチ商店を買収して糞狸を労働者身分に叩き落としてやった。始めて触ったゲームでも数十分あれば余裕で持ち主の子をボコボコに出来る。
果たして、そんな奴と一緒に遊んで楽しいだろうか?
もっと他の才能だったらと何度願った事だろう。若しくはいっそ何の才能も持たずに生まれてこれたならと何度夢想した事だろう。
我が人生をもって断言出来る。遊びの才能とは、この世で最も価値のない才能なのだと。
考えてもみて欲しい。
例えば勉強が上手ければ、多くの人に賞賛されそれを活かして友人に教えたり仕事として知識を活用し他人を幸せにする事が出来るだろう。料理が上手ければ、その美味しい料理で自分も他人も皆を幸せにする事が出来るだろう。トイレ掃除の才能だって、そのトイレを利用する人を少なくとも幸せにしている。
だがしかし遊びが上手かったとして、どんなゲームでも他人をボコボコに打ち負かせたとして、それで他人を幸せに出来るだろうか? ボコボコにされた側は幸せだろうか? ボコボコにしてきた奴とまた遊びたいと思うだろうか? 遊んでくれる人間が居なくなったその遊びが上手いだけの人間は、果たして幸せなのだろうか??
それが、群雲疾風が現実を捨てコード・ジークとなり、バーチャルへと逃げた理由であった。
(久し振りに見たな、あの顔。昔スマブラで999%超えても三時間ハメ技で生殺しにし続けた伊藤君と同じ顔してた……)
リタイア寸前に見えたアーチャーの顔が脳裏に焼き付き、嫌な記録が幾つも蘇ってきたジークは誰も居なくなったフィールドで力無く寝転ぶ。
もうタブを開いて神殿に戻る気力もない。1分が経過して強制的に戻されるのを待とう。
そしてその1分間を利用し、ジークは自分に与えられた才能について少し考えたのである。
今回の件で認めざるを得なく成ってしまった、他人と一緒にやる遊びは一人でやるよりも面白いと。今までの自分の考えは一人遊びしか出来ない者の僻みに過ぎなかったのだと気付いてしまった。
だからもう否定する事はしない。
しかし否定しなかったとして、認めたとして、それは唯自分の辛さが増すだけなのだ。自分が本気を出せば相手が嫌な気持ちに成ると知った上でこのゲームをプレイし続ける訳にはいかない。
勿論下手ではあるが、多少の手加減くらいジークにも出来る。
だがそれをやってしまうと何も無くなってしまうのだ。遊びが上手いという才能しか持ち得ないのに、それを隠してしまえば自分が何も残らない。
だからバーチャル世界に閉じ籠もって感情の無いNPCを相手にし続けるのが正解だった。そして今の自分は不正解である。
バーチャルな場であれば若しかすると、なんて思っていたがやはり駄目らしい。
もう自分はこのバンクエットオブレジェンズというゲームに近寄るべきではない。関わる全ての人々を不幸にしてしまう。
これ程誰も幸せにしない才能が、他に有るのだろうか?
ヒュオンッ
「「「お″疲″れ″様″で″す″ッ!!」」」
試合終了から1分が経過。追い払われる様にステージより退出させられ、そしてその後一番に聞いた声と見た光景にジークは思わず固まった。
見違えようの無い距離で遮る物もなく直視したにも関わらず理解するのに10秒の時を要したその光景に、ジークが発せたのは唯この一言。
「…………………………………は?」
移動させられた先の神殿で、何故か先程の試合のチームメイト達が頭を下げて彼を迎えたのである。
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