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第五話 最強の敵③
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【キルログ レッドバロン→ハルヨシ✖】
『おうおう景気が良さそうで何よりですのお。あんさんがズバズバ敵を斬りおうさかいこっちは上がったりですわ。何もせんでも勝手に日本№1プレイヤー様が快刀乱麻に試合を終らせてくれるから日がな一日マップを眺めてるだけのケチな商売です~」
キルログが出た瞬間、仲間のウィザードからレッドバロンへとエセ関西弁のボイスチャットが入る。
その声から察するに如何やら暇しているらしい。
「アイドルは嫌いかい、ロータス? 暇つぶしに君が少し手を振るだけで喜んでくれる人は居ると思うよ」
『フッ、レッサーパンダは分かってないな~。魅力とはギャップなのだよ、ずっと唯可愛いだけの女子よりも普段ツンケンしてるドライなあの子がキスした瞬間ッン♡て音を漏らすから燃え上がるんやろうがッ! うおおおおおおッ、今ワシの舌使いで絶頂させたるきにのお美智子ォーー!!』
ウィザードの彼女、プレイヤーネーム『ロータス』は話を一振れば十返してくる饒舌と頭脳の持ち主だ。
しかしその言葉の実に七割近くが意味を考えるだけ無駄の戯れ言であるという事は、彼自身が『レッサーパンダ』という『レッ』しか合っていないあだ名で呼ばれている事より明らか。
そして今回の計117文字にも渡る言葉の要点を上げるなら、魅力とはギャップという部分だけで充分だろう。
「オレは寧ろ君程裏表の無い人間を見た事がないけどね」
『甘いなレッサーパンダッ!! 例えお前が表しか見たことが無いからと言ってそれで表しか存在しないという証明には成り得ないのだよッ。一度も裏返された事の無いコインに裏は無いのか? 一度も見た事が無いという事ならお前に背中は存在していないのか? 例えこの世の99,99%の人間がカラスは黒だと言っても確かに白いカラスは存在している訳だ。つまりレッサーパンダ、貴様は私の掌の上で踊らされ洞窟に映った影を真実だと思い込んだマリオネット! 来たるべき伏線回収その時まで、こんなクソ詰まらないイベント中でも演技を貫いている私を褒めて欲しい物だねぇ』
「ハハハッ、そんな事言わないでくれよ。2年前に皆で決めた事だろ? 日本リーグのレベルをもっと上げて次こそ世界の頂点を目指そうって。その為にもこういうイベントで人目を集め、競い合える仲間を増やさなくちゃ」
『分かってる。でも詰まんないもんは詰まんないんだもん……っと仮初の私が言っています。そもそも第一ですなッ!! こんな一方的な試合を見せられて視聴者は楽しいのか、視聴率は取れるのかッ。我々の使命は何としてでもスポンサー企業様に数字を届ける事であり、視聴者は常にドラマを求めているので有りますよ! このままじゃ後yoichiが遠くから弓ピュンピュンやって終わりじゃあないですかッ!!」
「じゃあ今から接戦の演出でもしてドラマを作るかい? 24時間365日演技を貫いてらっしゃるオスカー女優様なら造作も無いだろ?」
『演技してこの有様だから僕は日本の未来を憂えているんじゃないか。なあレッサーパンダ、私達の今やってる事は本当に日本のeスポーツを強くするのかね? だってもうかれこれ数年似た様な事を続けてきたが、私達以外に世界と戦えそうなチームは一つだって現れていないぞ。それに本当に、プロリーグのレベルが上がって対等にやり合えるプレイヤーが現れ始めたら、私達はもっと強く成れるのか??』
「さあ?」
『ッな!? 貴様疑問符に疑問符で返すなァッ!! 私が一体何文字喋ったと思ってる、184文字だぞ! それにおめえたった2文字にクエスチョンマークだあ? 人をおちょくるのも大概にして貰いてえもんだな。東に宿題忘れた友あれば行って共に宿題を忘れ、西にプールの日に水着を忘れた友あれば行って共に全裸で飛び込み、南にうんこ漏らした友あれば行って共にうんこを漏らし、北に喉をぶっ壊した友あれば行って共に喉をぶっ壊す。そんな友情が私は欲しッ……』
「でも、今変化が見られないのは未だ0を1にしている段階だからさ」
日本と自分達の将来を憂う様な発言をしたロータスに一度はクエスチョンマークの付いた言葉を返したものの、その後レッドバロンは感性を研ぎ澄ます間を挟んだ後に彼女の言葉を遮った。
「何事でもこの一段目が一番長い。夜は夜明け前が一番暗いって言うだろ? でも一度日が登れば瞬く間に光が広がって世界は変わっていく、どんな形であれ切っ掛けさえ生まれればそれが自然と転がってあっと言う間に変化は起こる、とオレは思うな。根拠は無いけどッ」
レッドバロンは僅かすら恥じる事も無く根拠は無いと断言した。
しかし、根拠が無いと言う時程彼の言葉はよく当たるのだとエターナルグローリーのメンバーは熟知している。レッドバロンは偶に何かチューニングが合う時が有り、そしてそれが彼の圧倒的な強さの一因でもあるのだ。
だがそんな彼の発言が予言に近い物だと知った上で、ロータスは不満気な音を口から漏らす。
『…………言い残す事は、それが全てか?』
「うん」
『では張り切って判決を言い渡そう! 被告は私の話を遮った罪で極刑ッ、ひろゆき式論破法の刑に処す! 一段目が一番長いって、それって貴方の感想ですよね?? 何かそう言うデータ有るんすか? そもそも階段って登る物だよねっていう一般認識があると思うんすけど、実際には降りる物でもある訳でぇ。なんだろ、じゃあ実際其処で登りと降りを間違っちゃったら如何成るのかっていうのがぁッ……………」
ピロンッ
ロータスは話が一々長い癖にそれを遮られる事を極端に嫌う。
それ故自分の話を遮ってきたレッドバロンをひろゆき式論破法で制裁しようとしていた彼女の声が、又しても今度は通知音が遮った。
そしてその通知音で更に顔を不機嫌げに歪め内容を確認した彼女は、しかし直後滅多に見れぬ激レアな反応を示したのである。
通知タブに表示された見慣れているのに見慣れていない言葉。それに日頃まるで泳がなければ死ぬマグロの如く喋り続けている彼女の口が止まったのだ。
「ハハッ、遂に来たか…ッ」
だなそんなウィザードとは対照的に、日本最強のナイトは驚きでは無く待ちわびたような笑顔でその通知を迎えた。
レッドバロンは確かにこの時聞いたのである。
夜が明け、世界が動き始める音を。ただ孤独に前進し続けるしかなかった自分達が、再び追われる側に戻るその音を。
【キルログ コード・ジーク→yoichi✖】
『おうおう景気が良さそうで何よりですのお。あんさんがズバズバ敵を斬りおうさかいこっちは上がったりですわ。何もせんでも勝手に日本№1プレイヤー様が快刀乱麻に試合を終らせてくれるから日がな一日マップを眺めてるだけのケチな商売です~」
キルログが出た瞬間、仲間のウィザードからレッドバロンへとエセ関西弁のボイスチャットが入る。
その声から察するに如何やら暇しているらしい。
「アイドルは嫌いかい、ロータス? 暇つぶしに君が少し手を振るだけで喜んでくれる人は居ると思うよ」
『フッ、レッサーパンダは分かってないな~。魅力とはギャップなのだよ、ずっと唯可愛いだけの女子よりも普段ツンケンしてるドライなあの子がキスした瞬間ッン♡て音を漏らすから燃え上がるんやろうがッ! うおおおおおおッ、今ワシの舌使いで絶頂させたるきにのお美智子ォーー!!』
ウィザードの彼女、プレイヤーネーム『ロータス』は話を一振れば十返してくる饒舌と頭脳の持ち主だ。
しかしその言葉の実に七割近くが意味を考えるだけ無駄の戯れ言であるという事は、彼自身が『レッサーパンダ』という『レッ』しか合っていないあだ名で呼ばれている事より明らか。
そして今回の計117文字にも渡る言葉の要点を上げるなら、魅力とはギャップという部分だけで充分だろう。
「オレは寧ろ君程裏表の無い人間を見た事がないけどね」
『甘いなレッサーパンダッ!! 例えお前が表しか見たことが無いからと言ってそれで表しか存在しないという証明には成り得ないのだよッ。一度も裏返された事の無いコインに裏は無いのか? 一度も見た事が無いという事ならお前に背中は存在していないのか? 例えこの世の99,99%の人間がカラスは黒だと言っても確かに白いカラスは存在している訳だ。つまりレッサーパンダ、貴様は私の掌の上で踊らされ洞窟に映った影を真実だと思い込んだマリオネット! 来たるべき伏線回収その時まで、こんなクソ詰まらないイベント中でも演技を貫いている私を褒めて欲しい物だねぇ』
「ハハハッ、そんな事言わないでくれよ。2年前に皆で決めた事だろ? 日本リーグのレベルをもっと上げて次こそ世界の頂点を目指そうって。その為にもこういうイベントで人目を集め、競い合える仲間を増やさなくちゃ」
『分かってる。でも詰まんないもんは詰まんないんだもん……っと仮初の私が言っています。そもそも第一ですなッ!! こんな一方的な試合を見せられて視聴者は楽しいのか、視聴率は取れるのかッ。我々の使命は何としてでもスポンサー企業様に数字を届ける事であり、視聴者は常にドラマを求めているので有りますよ! このままじゃ後yoichiが遠くから弓ピュンピュンやって終わりじゃあないですかッ!!」
「じゃあ今から接戦の演出でもしてドラマを作るかい? 24時間365日演技を貫いてらっしゃるオスカー女優様なら造作も無いだろ?」
『演技してこの有様だから僕は日本の未来を憂えているんじゃないか。なあレッサーパンダ、私達の今やってる事は本当に日本のeスポーツを強くするのかね? だってもうかれこれ数年似た様な事を続けてきたが、私達以外に世界と戦えそうなチームは一つだって現れていないぞ。それに本当に、プロリーグのレベルが上がって対等にやり合えるプレイヤーが現れ始めたら、私達はもっと強く成れるのか??』
「さあ?」
『ッな!? 貴様疑問符に疑問符で返すなァッ!! 私が一体何文字喋ったと思ってる、184文字だぞ! それにおめえたった2文字にクエスチョンマークだあ? 人をおちょくるのも大概にして貰いてえもんだな。東に宿題忘れた友あれば行って共に宿題を忘れ、西にプールの日に水着を忘れた友あれば行って共に全裸で飛び込み、南にうんこ漏らした友あれば行って共にうんこを漏らし、北に喉をぶっ壊した友あれば行って共に喉をぶっ壊す。そんな友情が私は欲しッ……』
「でも、今変化が見られないのは未だ0を1にしている段階だからさ」
日本と自分達の将来を憂う様な発言をしたロータスに一度はクエスチョンマークの付いた言葉を返したものの、その後レッドバロンは感性を研ぎ澄ます間を挟んだ後に彼女の言葉を遮った。
「何事でもこの一段目が一番長い。夜は夜明け前が一番暗いって言うだろ? でも一度日が登れば瞬く間に光が広がって世界は変わっていく、どんな形であれ切っ掛けさえ生まれればそれが自然と転がってあっと言う間に変化は起こる、とオレは思うな。根拠は無いけどッ」
レッドバロンは僅かすら恥じる事も無く根拠は無いと断言した。
しかし、根拠が無いと言う時程彼の言葉はよく当たるのだとエターナルグローリーのメンバーは熟知している。レッドバロンは偶に何かチューニングが合う時が有り、そしてそれが彼の圧倒的な強さの一因でもあるのだ。
だがそんな彼の発言が予言に近い物だと知った上で、ロータスは不満気な音を口から漏らす。
『…………言い残す事は、それが全てか?』
「うん」
『では張り切って判決を言い渡そう! 被告は私の話を遮った罪で極刑ッ、ひろゆき式論破法の刑に処す! 一段目が一番長いって、それって貴方の感想ですよね?? 何かそう言うデータ有るんすか? そもそも階段って登る物だよねっていう一般認識があると思うんすけど、実際には降りる物でもある訳でぇ。なんだろ、じゃあ実際其処で登りと降りを間違っちゃったら如何成るのかっていうのがぁッ……………」
ピロンッ
ロータスは話が一々長い癖にそれを遮られる事を極端に嫌う。
それ故自分の話を遮ってきたレッドバロンをひろゆき式論破法で制裁しようとしていた彼女の声が、又しても今度は通知音が遮った。
そしてその通知音で更に顔を不機嫌げに歪め内容を確認した彼女は、しかし直後滅多に見れぬ激レアな反応を示したのである。
通知タブに表示された見慣れているのに見慣れていない言葉。それに日頃まるで泳がなければ死ぬマグロの如く喋り続けている彼女の口が止まったのだ。
「ハハッ、遂に来たか…ッ」
だなそんなウィザードとは対照的に、日本最強のナイトは驚きでは無く待ちわびたような笑顔でその通知を迎えた。
レッドバロンは確かにこの時聞いたのである。
夜が明け、世界が動き始める音を。ただ孤独に前進し続けるしかなかった自分達が、再び追われる側に戻るその音を。
【キルログ コード・ジーク→yoichi✖】
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