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第五話 最強の敵⑧
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「……………………クソッ」
日本最強のエース、もう此処暫くプロリーグですら掠り傷一つ負っていない無敵の怪物レッドバロンの首を切り裂き、鮮血を弾けさせた物。
それはアサシンにジョブスキルとして与えられた『キラーファントム』というスキルであった。
このスキルの効果は身体を完全な静止状態から急に動かすと、0.1秒間だけ無敵が発生するという物。
試合中、しかも近接戦闘中に身体を完全な静止状態にする等それだけで自殺行為だ。しかもたった0,1秒間しか発生しない無敵状態など戦いに活用させる事は不可能に等しい。
それ故このキラーファントムは死にスキルと呼ばれ、そもそも使用率が低いアサシンというジョブの中でも使っている者が殆ど居ない、その名の通り幽霊の如きスキルなのである。
だがその死にスキルを発見したジークは、間違いなくこれこそが最強のスキルであると確信。迷わず自らのスキル編成へと組み込んだのである。
そしてジークがこのキラーファントムを最強スキルだと確信した訳は、彼の古巣にあった。
彼が此処2年近く1日の殆どを捧げてプレイしていたゲーム『ヘルズクライシス』では、ステージ全体が射程の即死攻撃が当たり前の如く飛んでくる。しかもそれが普通の回避やガードで防げるのならまだマシな方で、ゲームの後半に成れば0.1秒しかないタイミングに回避やガードを合わせられなければ即死という攻撃を幾発も放ってくるモンスターが現れるのだ。
そのイカレた難易度故に殆どのプレイヤーはまともにプレイすら出来ずヘルズクライシスはサービス終了した訳だが、しかしジークはそんな鬼畜ゲーをクリアしたたった2人の片翼。
彼に言わせれば日常茶飯事だったのである、攻撃に0,1秒間の無敵を合わせる事など。0,1秒間も無敵があれば如何なる攻撃だろうと擦り抜けてみせる、例えそれが最強のプレイヤーの斬撃だろうと。
そしてそれを現実に行い、最強プレイヤーの攻撃にドンピシャで無敵を合わせ、カウンターを届かせたジークの口より『クソッ』という言葉が漏れた。
攻撃は命中した、だが仕留めきれなかったのだ。
レッドバロンは完全に想定外のカウンターを受けたにも関わらず身を仰け反らせ、ギリギリで首の傷を致命傷から逃れさせてきたのである。
ジークにとってこのキラーファントムを用いた攻撃は切り札中の切り札。流し受けからのカウンターですら自分の限界を偽る囮として使い、勝敗の全てを賭ける思いで放ったのがこの一撃なのである。
それを生き延びられて、悪態の一つもつくなという方が無理であろう。
「………………………………」
しかし対して、その敵の奥の手を受けて生き延びてみせた男の口は、真一文字に結ばれたまま動かなかった。
クソッと一言悪態を吐く心の余裕すら、今の彼には残されていなかったのである。
(……危なかったッ。奇跡的に避けられたが何が起こったのか全く理解出来ていない。まさか、yoichiの報告が一言一句真実だったとはッ)
一瞬の内に電撃怒涛と押し寄せた出来事。
だが彼の瞳は確かに見ていた。敵の胴を両断していく自らの剣、致命傷を受けたにも関わらず動く敵の身体、自らの首を引き裂いていく突き出された短刀、溢れる血液。
しかしその一部始終が確かに見えていたからこそ、彼は今大いに動揺しているのだ。
こんな現象、これまで人の倍以上積み重ねて来た自信のある自らの経験の何処を探しても存在しない。こんな攻撃が擦り抜ける何てゲーム性を根底から覆す現象、彼の知識をどう組み合わせても真っ当な手段で実現できるとは思えなかったのである。
チート、その文字が一瞬レッドバロンの脳裏を過る。しかし………
「……良いだろう、受けて立つ。お前がオレを倒すのが先か、オレがお前の擦り抜けを破るのが先かッ」
彼は自分を下から睨め上げてくる敵の目を見て、この男はチートや不正など何一つ行ってはいないと確信した。
その目は彼と同じ戦闘狂の目。自らが勝利する事よりも、より上質な闘争の興奮を求める現実世界に向いていない人間の目であった。
そんな人間が闘争の味を無くす不正やチートを行う筈がない。間違いなく何か正当な手段を組み合わせたタネが存在している筈だ。
ダッ ダァンッ!!
ジークとレッドバロンは以心伝心で同時に飛んで背後へ引き、そして直ぐに再び地を蹴って最終幕を上げた。
如何やら互いに互いの事を低く見積もり過ぎていたらしい。
出し惜しみ出来る様な相手ではない。各々の持てる全力でもってぶつかり、一瞬でも早く敵の命へと刃を届かせた者が勝利となる。
もう其処には呪われし遊びの天才も、日本最強チームのエースも存在はしない。
ただこの狂乱の結末を求め、二人の戦闘狂が衝突した。
日本最強のエース、もう此処暫くプロリーグですら掠り傷一つ負っていない無敵の怪物レッドバロンの首を切り裂き、鮮血を弾けさせた物。
それはアサシンにジョブスキルとして与えられた『キラーファントム』というスキルであった。
このスキルの効果は身体を完全な静止状態から急に動かすと、0.1秒間だけ無敵が発生するという物。
試合中、しかも近接戦闘中に身体を完全な静止状態にする等それだけで自殺行為だ。しかもたった0,1秒間しか発生しない無敵状態など戦いに活用させる事は不可能に等しい。
それ故このキラーファントムは死にスキルと呼ばれ、そもそも使用率が低いアサシンというジョブの中でも使っている者が殆ど居ない、その名の通り幽霊の如きスキルなのである。
だがその死にスキルを発見したジークは、間違いなくこれこそが最強のスキルであると確信。迷わず自らのスキル編成へと組み込んだのである。
そしてジークがこのキラーファントムを最強スキルだと確信した訳は、彼の古巣にあった。
彼が此処2年近く1日の殆どを捧げてプレイしていたゲーム『ヘルズクライシス』では、ステージ全体が射程の即死攻撃が当たり前の如く飛んでくる。しかもそれが普通の回避やガードで防げるのならまだマシな方で、ゲームの後半に成れば0.1秒しかないタイミングに回避やガードを合わせられなければ即死という攻撃を幾発も放ってくるモンスターが現れるのだ。
そのイカレた難易度故に殆どのプレイヤーはまともにプレイすら出来ずヘルズクライシスはサービス終了した訳だが、しかしジークはそんな鬼畜ゲーをクリアしたたった2人の片翼。
彼に言わせれば日常茶飯事だったのである、攻撃に0,1秒間の無敵を合わせる事など。0,1秒間も無敵があれば如何なる攻撃だろうと擦り抜けてみせる、例えそれが最強のプレイヤーの斬撃だろうと。
そしてそれを現実に行い、最強プレイヤーの攻撃にドンピシャで無敵を合わせ、カウンターを届かせたジークの口より『クソッ』という言葉が漏れた。
攻撃は命中した、だが仕留めきれなかったのだ。
レッドバロンは完全に想定外のカウンターを受けたにも関わらず身を仰け反らせ、ギリギリで首の傷を致命傷から逃れさせてきたのである。
ジークにとってこのキラーファントムを用いた攻撃は切り札中の切り札。流し受けからのカウンターですら自分の限界を偽る囮として使い、勝敗の全てを賭ける思いで放ったのがこの一撃なのである。
それを生き延びられて、悪態の一つもつくなという方が無理であろう。
「………………………………」
しかし対して、その敵の奥の手を受けて生き延びてみせた男の口は、真一文字に結ばれたまま動かなかった。
クソッと一言悪態を吐く心の余裕すら、今の彼には残されていなかったのである。
(……危なかったッ。奇跡的に避けられたが何が起こったのか全く理解出来ていない。まさか、yoichiの報告が一言一句真実だったとはッ)
一瞬の内に電撃怒涛と押し寄せた出来事。
だが彼の瞳は確かに見ていた。敵の胴を両断していく自らの剣、致命傷を受けたにも関わらず動く敵の身体、自らの首を引き裂いていく突き出された短刀、溢れる血液。
しかしその一部始終が確かに見えていたからこそ、彼は今大いに動揺しているのだ。
こんな現象、これまで人の倍以上積み重ねて来た自信のある自らの経験の何処を探しても存在しない。こんな攻撃が擦り抜ける何てゲーム性を根底から覆す現象、彼の知識をどう組み合わせても真っ当な手段で実現できるとは思えなかったのである。
チート、その文字が一瞬レッドバロンの脳裏を過る。しかし………
「……良いだろう、受けて立つ。お前がオレを倒すのが先か、オレがお前の擦り抜けを破るのが先かッ」
彼は自分を下から睨め上げてくる敵の目を見て、この男はチートや不正など何一つ行ってはいないと確信した。
その目は彼と同じ戦闘狂の目。自らが勝利する事よりも、より上質な闘争の興奮を求める現実世界に向いていない人間の目であった。
そんな人間が闘争の味を無くす不正やチートを行う筈がない。間違いなく何か正当な手段を組み合わせたタネが存在している筈だ。
ダッ ダァンッ!!
ジークとレッドバロンは以心伝心で同時に飛んで背後へ引き、そして直ぐに再び地を蹴って最終幕を上げた。
如何やら互いに互いの事を低く見積もり過ぎていたらしい。
出し惜しみ出来る様な相手ではない。各々の持てる全力でもってぶつかり、一瞬でも早く敵の命へと刃を届かせた者が勝利となる。
もう其処には呪われし遊びの天才も、日本最強チームのエースも存在はしない。
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