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第五話 最強の敵⑨
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ガァギィィンッ!!
示し合わせたかの如く同時に突進したジークとレッドバロン。
しかしスピードで勝るアサシンの方が早く速度を纏い、ナイトが振り下ろさんとした剣が十分に加速しきるより先に衝突。
そして鍔迫り合いの形と成ったジークは短刀に両手を添え全身の力を流し込み、敵の握る両刃の剣越しにその首を掻かんと狙う。
ズッ……
だが、ここでもレッドバロンの持つ謎の格闘術が猛威を振るった。
ジークに鍔迫り合いで押し込まれかけた彼は突如自ら後ろへと引く。そしてその不意を突く後退により敵の力を乱れさせ同時に剣を掌の中で転がし、刃ではなく腹の部分を互いへ向けた。
そうしてその腹に肩を押し付け、自らと敵とに挟まれた鉄の板へと渾身の体当たりを見舞ったのである。
ドォンッ!!
未だに原理掴めぬその凄まじい衝撃を受け、ジークは成す術無く間合いの外へと弾き出される。
しかしそれでも追撃は飛んでこない。
レッドバロン側も未だ原理不明な擦り抜けを警戒し、仮に斬撃が当たらなかったとしても対処可能な余裕を残す攻撃以外は行えなく成っているのだ。
そうして、二人は互いの間に生まれた距離をジリジリと摺り足で詰めていく事と成った。
互いに重心を中立に据えて落とし、武器を己の正中線に沿わせて構えて、本能を剥き出しにして勝負に出るタイミングを見計らう。地面を摺る音と音の間でイナズマが迸って見える極限の緊張感。
そして、互いの距離が2メートルを割った所でレッドバロンが仕掛けた。
ズオンッ……
牽制代わりとでも言うように、レッドバロンは大きく前方へと踏み込みながら横薙ぎに剣を振り抜く。
しかしその直後、彼は敵の微かな変化に気付いた。
ジークの動きの無駄が大きく軽減されていたのである。彼の斬撃を、紙切れ一枚分程の隙間しか挟まない最小限のスウェーのみで回避してみせたのだ。
レッドバロンはその一振りで悟る、この男は今まさに戦いの中で対人戦への適応を始めているのだと。
スゥン! ズオッ! ザアァンッ!! ッキィィィィン”!!!!
更に三つの剣閃が瞬き、それを回避する度にジークの動きは洗練され無駄が削られていった。最小限の回避、最小限の予備動作、最小限の隙へと数段飛ばしで理想形に近付いていく。
しかしそうしてまるで自らの腕を図っているかの如く受けに回っていたかと思えば、突如四発目の剣閃で前に打って出たのだ。
そして迎えた斬撃を流し受けで払いのけると共に攻防転じ、一気にその先へ開けた道へと突っ込んで来る。
だが、その行動は日本最強のナイトに掛かれば予想する事など容易かった。
此処までのジークの戦い方を見れば、彼がとにかく間合いを詰め接近戦での勝負を望んでいるのは見え透いている。
加えて、流し受けは流す斬撃と共に押し当て誘導する側の武器も流れる事と成り、その技術で防御した直後一瞬は短刀による攻撃が行えない。
レッドバロンは脳裏に映る一瞬後の敵影へと、道を閉ざす鋭い蹴りを突き放った。
ッガアン”!!!!
しかし、相手がそう読んでくる事すらもジークは予測していた。
突き出された攻撃を自らも同じ攻撃を放つ事によって相殺し、蹴りと蹴りが衝突する鈍い音が響き渡る。
(足がッ……痺れる!)
その瞬間二つの打撃攻撃が交錯し激しく衝突した。
しかし打撃硬直が発生したのは唯一方、レッドバロンのみが足に強い痺れを受けるという奇妙な現象が起こったのである。
それは、攻撃の目標が二つの蹴りで全く異なっていた事が原因。
レッドバロンは敵の身体を捉える事を目的とした直線的な蹴り。対してジークが放ったのは敵の起動力をこの一瞬削ぐ事のみを目的とした、足を標的とする横から巻き込む様な蹴りであった。
それ故ジークはこの一瞬における必然的な勝者となる。
そして足元覚束なく成り前にも後ろにも満足に動けなく成った敵目掛け、凶刃を煌めかせた。
ズバアァァン”ッ!!!!
振り下ろされた短刀が、狙い違わずナイトの胸を袈裟懸けに斬り裂く。
いとも容易く、全てのプレイヤーが渇望するレッドバロンに傷を負わせるという難中之難が二度も達成せしめられた事を、パッと散った赤い血潮が知らせる。
「…………ダメだ、浅いッ」
しかし、そもそも目の前の相手が誰なのか知らぬジークにとって唯一つの結果以外は無いと同じであった。
倒せなかった、それ以上でもそれ以下でもない。
やはり流石というべきか。レッドバロンは殆ど左足のみを使って背後へ飛び、胸に受けた傷を掠り傷に留めたのである。
(危なかった…! だが未だオレは生きているッそれが全て。此処から勝負の流れを再び引き寄せる!!)
レッドバロンはジークの急成長によりかなり追い詰められた事を認める。だがそれでも未だ同じ手段でこの悪い流れを切れると判断した彼は、それを実行に移した。
後ろへ引いていた重心を前へ戻し、ジークが次撃を放ってくる前に距離をゼロにして再び戦いの主導権を自らが握ろうとする。
タンッ……
だがそんな彼のアクションはもう見飽きたという言う代わりに、ジークが背後へと小さく飛んだ。完全にレッドバロンが前進してくるタイミングに被せて。
そして自分と相手の間にスペースを保ち、武器を握っていない左手で拳を作り、それを自ら迫ってくるレッドバロンの顔面へと躊躇なく叩き付けたのである。
ドガァ”!!
ジークより打ち出されたその拳は、今度は確かに最強の男の顔面を捉えた。その攻撃を受けた敵の表情がみるみる内に歪んでいく。
余りに完璧な間合い管理。まるで一人だけ数百倍の速さで時が流れているかの如く、対人戦に特化した殺人マシンへと一分一秒完成されていっている。
だがそれでも未完成品は未完成品。完成品との間には、未だ歴然とした差が存在していた。
ガシッ
レッドバロンは顔面に拳を受けながらも、このゲームにおける絶対強者とは思えぬ泥臭さでジークの手首を掴んでいた。
そして電光石火の手際でその腕に捻りを加え下方向へと引き下ろしたのである。
(ッ!? なんだこれ、動けねッ……)
その一瞬で手首を決められた様な状態にされたジークは、急に全身が固まった様になり動けなく成る。
腕を凄まじい力で引っ張られ、その力に抗い倒れない様にするだけで精一杯なのだ。
そしてそんな彼の晒した隙を逃さず、報復の拳がレッドバロンより飛んだ。
ドガァン”ッ!!!!
殆ど棒立ち状態の身体を捉えたその一撃は、拳が纏ったエネルギーを余す所なくその標的へと流し込む。ジークは元々体勢が崩れかかっていた所へ痛烈な攻撃を貰い派手に吹き飛ばされる事となった。
そうして再び二人の間に距離が開く事となる。だが、その距離が戦いへ膠着を生む事は無かった。
レッドバロンは手放していた剣を引き抜くや否や斬り掛かり、身体を起こしたばかりのジークへと斬撃が襲い掛かったのである。
ズザァンッ!! ザッザンッ、キィィィィン”ッ!! ズォンッ!! ザアンッ、ブオン!! ッキィィィン!! ズオ、ブゥンッ、ズザァァァン”ッ!!
レッドバロンの烈火が如き猛攻が果てしなく押し寄せ、ジークはその振り下ろされる斬撃から回避と流し受けを駆使して身を逃してゆく。
そして何とか攻守を交代し主導権を握ろうとするのだが、剣閃がまるで巨山の如く彼の行く手を阻み、前に進む所か徐々に後ろへと下がらされていく。
しかもジークは必死に伸びてくる死神の手を振り払いながら、頭の片隅でデジャブを感じていたのである。
少し前に追い込まれた時と同じ物。袋小路へと誘導されていっている様な、片道切符の列車に乗せられている様な感覚に何故か全身が包まれていた。
ドンッ!!
そして、低音の全く嬉しさを感じさせない正解音が響いた。どうやら敵はこの場所へと自分を追い込む事を始めから逆算し、攻撃を放ってきていたらしい。
背中がフィールドのオブジェクトである大木の幹に衝突した。
(…………此処で最後の決着を付けようってか。良いぜッ受けて立つ!!)
ジークは自分が追い込まれたその盤面を見て、勝敗を決する最後の戦いのルールを理解した。
背後の大木を背負い逃げ場を失ったジークは、無敵による擦り抜けを使用しカウンターを狙う。
逆に追い詰めトドメを指す絶好の機会に辿り着いたレッドバロンは、擦り抜けを突破して決着の一撃狙う。
ジークがレッドバロンの攻撃にドンピシャで再び0.1秒を合わせられるか、若しくはレッドバロンがジークの無敵の秘密を暴けるか。それで勝敗が決する。
(如何すれば…攻撃を擦り抜けられる事無くコイツに刃を届かせる事が出来るッ)
しかし、その状況に至っても未だレッドバロンは敵の擦り抜けの正体を解き明かせずにいた。
考えても考えても何も思い浮かばず、いっその事再びあの状況へと身を置き入ってくる情報にヒントを得ようと、今の確実にアサシンが擦り抜けを使ってくる場を作った。
だがしかしこの状況に成っても何一つ答えは出ず、今彼は断頭台へ嵌められているかの如き表情で剣を振り上げている。
そしてそんなレッドバロンの瞳に、挑発しているかの様なギラギラと光るジークの瞳が映った。
(自信に満ち溢れた瞳。擦り抜けが出来ると確信しているのか? この数分間刃を合わせて良く分かっている。こいつが大人しく負けを認め、身動きを止めて首を差し出すよう、な………………ッ)
ズバアァァァァァァァン”ッ!!
高く掲げられ陽光を反射し伝説の聖剣が如く煌めいたそのレッドバロンの握る長剣が、今振り下ろされた。
しかし、その聖剣が狙い澄まし振り下ろされた標的には、その斬撃が過ぎ去った後も傷一つ付いてはいなかったのである。
日本最強の男がこの日、目の前2メートルも離れていない位置に立つ敵を斬り損ねたのだ。
(フッ、分かってるよ。…………気付いたんだろッ?)
ジークは相手の真意に気付き、そして不敵な笑みを浮かべた。
レッドバロンの振り下ろした斬撃は、彼の鼻先数ミリの所に存在していた大気のみを斬り裂き通り過ぎていった。擦り抜けや無敵以前に、この自分を大いに手こずらせた男が攻撃を当てる事すら出来なかったのである。
流石のジークもこれだけの戦いを繰り広げ、相手の腕前が分からない程馬鹿じゃない。
目前のナイトが、こんな真近の標的に狙いを違える安い腕の筈がないのだ。間違いなくこの男はわざと攻撃を外した。
奴は気付いている、擦り抜けの正体を。
ジークが『キラーファントム』よって攻撃を回避しているのだという事に気付いている。
(だからこそのフェイント、その為に敢えて攻撃を外したッ)
そしてジークは更にその事すらも気付き、敢えてキラーファントムを使用せずに鼻先を通り抜けていく攻撃を静観したのだった。
これが無敵を空撃ちさせる為のフェイントであると見抜く、その目をこの戦いの中で奴自身に貰ったのだから。
そして奴は間違いなくこの囮で0.1秒を消費させ、そして無防備に成った所へと返す刀で本命を狙ってくる筈。
(その返す刀を更に無敵化で回避、カウンターを叩き込んでオレの勝ちだッ!)
そうジークが脳内で叫ぶ声を追従する様に、視界の中でレッドバロンが次の斬撃の構えを取る。
そして放たれたその攻撃に対し、ジークは決着の笑みを浮かべキラーファントムを発動した。
ズドォォッ”!!
「…………な”ッ!?」
「漸く分かったよ、攻撃が擦り抜けるこの現象正体……それと攻略法もねッ」
ジークは、見事に無敵を攻撃が命中した瞬間にドンピシャで合わせる事に成功。
しかしレッドバロンはその放った攻撃、奇しくもジークが取るに足らぬ評価を下した物と同じ突きを、キラーファントムの効果時間が終了するまで敵の体内に留め続けた。
0,1秒間が経過。そして無敵効果が消失したジークの体力を、その胸に突き刺さったままの剣が一瞬の内に吹き飛ばしたのである。
敗者の身体は光と成って砕け、その戦場には勝者のみが残った。
【キルログ レッドバロン→コード・ジーク✖】
示し合わせたかの如く同時に突進したジークとレッドバロン。
しかしスピードで勝るアサシンの方が早く速度を纏い、ナイトが振り下ろさんとした剣が十分に加速しきるより先に衝突。
そして鍔迫り合いの形と成ったジークは短刀に両手を添え全身の力を流し込み、敵の握る両刃の剣越しにその首を掻かんと狙う。
ズッ……
だが、ここでもレッドバロンの持つ謎の格闘術が猛威を振るった。
ジークに鍔迫り合いで押し込まれかけた彼は突如自ら後ろへと引く。そしてその不意を突く後退により敵の力を乱れさせ同時に剣を掌の中で転がし、刃ではなく腹の部分を互いへ向けた。
そうしてその腹に肩を押し付け、自らと敵とに挟まれた鉄の板へと渾身の体当たりを見舞ったのである。
ドォンッ!!
未だに原理掴めぬその凄まじい衝撃を受け、ジークは成す術無く間合いの外へと弾き出される。
しかしそれでも追撃は飛んでこない。
レッドバロン側も未だ原理不明な擦り抜けを警戒し、仮に斬撃が当たらなかったとしても対処可能な余裕を残す攻撃以外は行えなく成っているのだ。
そうして、二人は互いの間に生まれた距離をジリジリと摺り足で詰めていく事と成った。
互いに重心を中立に据えて落とし、武器を己の正中線に沿わせて構えて、本能を剥き出しにして勝負に出るタイミングを見計らう。地面を摺る音と音の間でイナズマが迸って見える極限の緊張感。
そして、互いの距離が2メートルを割った所でレッドバロンが仕掛けた。
ズオンッ……
牽制代わりとでも言うように、レッドバロンは大きく前方へと踏み込みながら横薙ぎに剣を振り抜く。
しかしその直後、彼は敵の微かな変化に気付いた。
ジークの動きの無駄が大きく軽減されていたのである。彼の斬撃を、紙切れ一枚分程の隙間しか挟まない最小限のスウェーのみで回避してみせたのだ。
レッドバロンはその一振りで悟る、この男は今まさに戦いの中で対人戦への適応を始めているのだと。
スゥン! ズオッ! ザアァンッ!! ッキィィィィン”!!!!
更に三つの剣閃が瞬き、それを回避する度にジークの動きは洗練され無駄が削られていった。最小限の回避、最小限の予備動作、最小限の隙へと数段飛ばしで理想形に近付いていく。
しかしそうしてまるで自らの腕を図っているかの如く受けに回っていたかと思えば、突如四発目の剣閃で前に打って出たのだ。
そして迎えた斬撃を流し受けで払いのけると共に攻防転じ、一気にその先へ開けた道へと突っ込んで来る。
だが、その行動は日本最強のナイトに掛かれば予想する事など容易かった。
此処までのジークの戦い方を見れば、彼がとにかく間合いを詰め接近戦での勝負を望んでいるのは見え透いている。
加えて、流し受けは流す斬撃と共に押し当て誘導する側の武器も流れる事と成り、その技術で防御した直後一瞬は短刀による攻撃が行えない。
レッドバロンは脳裏に映る一瞬後の敵影へと、道を閉ざす鋭い蹴りを突き放った。
ッガアン”!!!!
しかし、相手がそう読んでくる事すらもジークは予測していた。
突き出された攻撃を自らも同じ攻撃を放つ事によって相殺し、蹴りと蹴りが衝突する鈍い音が響き渡る。
(足がッ……痺れる!)
その瞬間二つの打撃攻撃が交錯し激しく衝突した。
しかし打撃硬直が発生したのは唯一方、レッドバロンのみが足に強い痺れを受けるという奇妙な現象が起こったのである。
それは、攻撃の目標が二つの蹴りで全く異なっていた事が原因。
レッドバロンは敵の身体を捉える事を目的とした直線的な蹴り。対してジークが放ったのは敵の起動力をこの一瞬削ぐ事のみを目的とした、足を標的とする横から巻き込む様な蹴りであった。
それ故ジークはこの一瞬における必然的な勝者となる。
そして足元覚束なく成り前にも後ろにも満足に動けなく成った敵目掛け、凶刃を煌めかせた。
ズバアァァン”ッ!!!!
振り下ろされた短刀が、狙い違わずナイトの胸を袈裟懸けに斬り裂く。
いとも容易く、全てのプレイヤーが渇望するレッドバロンに傷を負わせるという難中之難が二度も達成せしめられた事を、パッと散った赤い血潮が知らせる。
「…………ダメだ、浅いッ」
しかし、そもそも目の前の相手が誰なのか知らぬジークにとって唯一つの結果以外は無いと同じであった。
倒せなかった、それ以上でもそれ以下でもない。
やはり流石というべきか。レッドバロンは殆ど左足のみを使って背後へ飛び、胸に受けた傷を掠り傷に留めたのである。
(危なかった…! だが未だオレは生きているッそれが全て。此処から勝負の流れを再び引き寄せる!!)
レッドバロンはジークの急成長によりかなり追い詰められた事を認める。だがそれでも未だ同じ手段でこの悪い流れを切れると判断した彼は、それを実行に移した。
後ろへ引いていた重心を前へ戻し、ジークが次撃を放ってくる前に距離をゼロにして再び戦いの主導権を自らが握ろうとする。
タンッ……
だがそんな彼のアクションはもう見飽きたという言う代わりに、ジークが背後へと小さく飛んだ。完全にレッドバロンが前進してくるタイミングに被せて。
そして自分と相手の間にスペースを保ち、武器を握っていない左手で拳を作り、それを自ら迫ってくるレッドバロンの顔面へと躊躇なく叩き付けたのである。
ドガァ”!!
ジークより打ち出されたその拳は、今度は確かに最強の男の顔面を捉えた。その攻撃を受けた敵の表情がみるみる内に歪んでいく。
余りに完璧な間合い管理。まるで一人だけ数百倍の速さで時が流れているかの如く、対人戦に特化した殺人マシンへと一分一秒完成されていっている。
だがそれでも未完成品は未完成品。完成品との間には、未だ歴然とした差が存在していた。
ガシッ
レッドバロンは顔面に拳を受けながらも、このゲームにおける絶対強者とは思えぬ泥臭さでジークの手首を掴んでいた。
そして電光石火の手際でその腕に捻りを加え下方向へと引き下ろしたのである。
(ッ!? なんだこれ、動けねッ……)
その一瞬で手首を決められた様な状態にされたジークは、急に全身が固まった様になり動けなく成る。
腕を凄まじい力で引っ張られ、その力に抗い倒れない様にするだけで精一杯なのだ。
そしてそんな彼の晒した隙を逃さず、報復の拳がレッドバロンより飛んだ。
ドガァン”ッ!!!!
殆ど棒立ち状態の身体を捉えたその一撃は、拳が纏ったエネルギーを余す所なくその標的へと流し込む。ジークは元々体勢が崩れかかっていた所へ痛烈な攻撃を貰い派手に吹き飛ばされる事となった。
そうして再び二人の間に距離が開く事となる。だが、その距離が戦いへ膠着を生む事は無かった。
レッドバロンは手放していた剣を引き抜くや否や斬り掛かり、身体を起こしたばかりのジークへと斬撃が襲い掛かったのである。
ズザァンッ!! ザッザンッ、キィィィィン”ッ!! ズォンッ!! ザアンッ、ブオン!! ッキィィィン!! ズオ、ブゥンッ、ズザァァァン”ッ!!
レッドバロンの烈火が如き猛攻が果てしなく押し寄せ、ジークはその振り下ろされる斬撃から回避と流し受けを駆使して身を逃してゆく。
そして何とか攻守を交代し主導権を握ろうとするのだが、剣閃がまるで巨山の如く彼の行く手を阻み、前に進む所か徐々に後ろへと下がらされていく。
しかもジークは必死に伸びてくる死神の手を振り払いながら、頭の片隅でデジャブを感じていたのである。
少し前に追い込まれた時と同じ物。袋小路へと誘導されていっている様な、片道切符の列車に乗せられている様な感覚に何故か全身が包まれていた。
ドンッ!!
そして、低音の全く嬉しさを感じさせない正解音が響いた。どうやら敵はこの場所へと自分を追い込む事を始めから逆算し、攻撃を放ってきていたらしい。
背中がフィールドのオブジェクトである大木の幹に衝突した。
(…………此処で最後の決着を付けようってか。良いぜッ受けて立つ!!)
ジークは自分が追い込まれたその盤面を見て、勝敗を決する最後の戦いのルールを理解した。
背後の大木を背負い逃げ場を失ったジークは、無敵による擦り抜けを使用しカウンターを狙う。
逆に追い詰めトドメを指す絶好の機会に辿り着いたレッドバロンは、擦り抜けを突破して決着の一撃狙う。
ジークがレッドバロンの攻撃にドンピシャで再び0.1秒を合わせられるか、若しくはレッドバロンがジークの無敵の秘密を暴けるか。それで勝敗が決する。
(如何すれば…攻撃を擦り抜けられる事無くコイツに刃を届かせる事が出来るッ)
しかし、その状況に至っても未だレッドバロンは敵の擦り抜けの正体を解き明かせずにいた。
考えても考えても何も思い浮かばず、いっその事再びあの状況へと身を置き入ってくる情報にヒントを得ようと、今の確実にアサシンが擦り抜けを使ってくる場を作った。
だがしかしこの状況に成っても何一つ答えは出ず、今彼は断頭台へ嵌められているかの如き表情で剣を振り上げている。
そしてそんなレッドバロンの瞳に、挑発しているかの様なギラギラと光るジークの瞳が映った。
(自信に満ち溢れた瞳。擦り抜けが出来ると確信しているのか? この数分間刃を合わせて良く分かっている。こいつが大人しく負けを認め、身動きを止めて首を差し出すよう、な………………ッ)
ズバアァァァァァァァン”ッ!!
高く掲げられ陽光を反射し伝説の聖剣が如く煌めいたそのレッドバロンの握る長剣が、今振り下ろされた。
しかし、その聖剣が狙い澄まし振り下ろされた標的には、その斬撃が過ぎ去った後も傷一つ付いてはいなかったのである。
日本最強の男がこの日、目の前2メートルも離れていない位置に立つ敵を斬り損ねたのだ。
(フッ、分かってるよ。…………気付いたんだろッ?)
ジークは相手の真意に気付き、そして不敵な笑みを浮かべた。
レッドバロンの振り下ろした斬撃は、彼の鼻先数ミリの所に存在していた大気のみを斬り裂き通り過ぎていった。擦り抜けや無敵以前に、この自分を大いに手こずらせた男が攻撃を当てる事すら出来なかったのである。
流石のジークもこれだけの戦いを繰り広げ、相手の腕前が分からない程馬鹿じゃない。
目前のナイトが、こんな真近の標的に狙いを違える安い腕の筈がないのだ。間違いなくこの男はわざと攻撃を外した。
奴は気付いている、擦り抜けの正体を。
ジークが『キラーファントム』よって攻撃を回避しているのだという事に気付いている。
(だからこそのフェイント、その為に敢えて攻撃を外したッ)
そしてジークは更にその事すらも気付き、敢えてキラーファントムを使用せずに鼻先を通り抜けていく攻撃を静観したのだった。
これが無敵を空撃ちさせる為のフェイントであると見抜く、その目をこの戦いの中で奴自身に貰ったのだから。
そして奴は間違いなくこの囮で0.1秒を消費させ、そして無防備に成った所へと返す刀で本命を狙ってくる筈。
(その返す刀を更に無敵化で回避、カウンターを叩き込んでオレの勝ちだッ!)
そうジークが脳内で叫ぶ声を追従する様に、視界の中でレッドバロンが次の斬撃の構えを取る。
そして放たれたその攻撃に対し、ジークは決着の笑みを浮かべキラーファントムを発動した。
ズドォォッ”!!
「…………な”ッ!?」
「漸く分かったよ、攻撃が擦り抜けるこの現象正体……それと攻略法もねッ」
ジークは、見事に無敵を攻撃が命中した瞬間にドンピシャで合わせる事に成功。
しかしレッドバロンはその放った攻撃、奇しくもジークが取るに足らぬ評価を下した物と同じ突きを、キラーファントムの効果時間が終了するまで敵の体内に留め続けた。
0,1秒間が経過。そして無敵効果が消失したジークの体力を、その胸に突き刺さったままの剣が一瞬の内に吹き飛ばしたのである。
敗者の身体は光と成って砕け、その戦場には勝者のみが残った。
【キルログ レッドバロン→コード・ジーク✖】
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