バンクエットオブレジェンズ~フルダイブ型eスポーツチームに拉致ッ、スカウトされた廃人ゲーマーのオレはプロリーグの頂点を目指す事に!!~

NEOki

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第七話 ラージボルテックス④

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ガチャッ

「こっちだ疾風! 凶暴なeスポーツプレイヤーが襲撃してくるかも知れないッ、早く安全な屋内まで避難するんだ!!」

「は…はいぃ…………」

「頭を下げるんだ疾風ッ! 何処からスナイパーeスポーツプレイヤーが狙っているか分からない。体勢を低く、素早く移動するんだ!! そうだ、上手いぞッ!!」

「ど、どうも……」

 どうやら目的地に辿り付いたらしく、停車した車の扉が勢いよく開き疾風は車から降ろされる。
 そして運転を行なっていた男がまるでFPS系ゲームのチュートリアルが如き声で急かし、彼を建物へと誘導していく。

 凶暴なeスポーツプレイヤーは未だしも、スナイパーeスポーツプレイヤーって何だ。そんな当然の疑問を、優奈に頭抱えられ半強制的に体勢を低くさせられた疾風が発する事はない。
 まるで手綱の握られたポニーが如く、その建物へと移動させられる。

 そして疾風は流されるがまま、その彼らの言うとっておきの場所へと入ってしまったのであった。



(…やばいッ、何か急にメチャクチャ嫌な予感がしてきた。オレこれ、生きて出させて貰えるのかッ?)

 自分を幕張メッセから救出してくれた謎の集団によって全く何処かも分からない場所へ避難させられた疾風は、見知らぬ部屋の見知らぬテーブルに座らされる。

 そして、「外から見られているかも知れない」と言いながら部屋中のカーテンを閉め始めた優奈と運転席の男の姿を見て、いよいよ額に大粒の汗が浮び始めた。
 今の彼には、自分を外界から遮断しようとしている様にしか映らない。

 先程の一件も有って、疾風はこの短い時間の中で軽い人間不信へと陥っていたのである。
 久しく忘れていた、欲望満ちる人の瞳の恐ろしさ。それを間近で見てしまった疾風の心には生々しい傷が刻まれ、今でも思い出しただけで吐き気が戻ってくる。

 正直今すぐにでもこんな訳の分からない場所から逃げ出したい。自分一人だけのジメジメとした空間に引き籠もりたい。もうイベントもeスポーツチームにも当分関わりたく無い。
 だが一応助けて貰った以上、余りこの人達を無碍に扱う訳にもいかない。

 それ故仕方なく、『助けてくれてありがと”ーッ!!』と泣き叫びながら今座っている椅子を振り回し武力行使に出るという、極限の板挟いたばさみに遭った人間でしか辿り付けぬ局地へ至りそうに成ったその寸前、疾風の前へカーテンを閉め終えた男が座った。


「なあ疾風。君がレッドバロンと戦えるって言ったら、如何する?」


 そして座った瞬間、疾風が拒絶の言葉発すること許さぬ先手必勝で、男はキラーワードを心臓に突き刺してきたのである。
 
 それはさながら百円のペンを百万円で売る詐欺師が如き見事な交渉術。そう疾風は後にこの瞬間を振り返り、思った。

 恐らくこの男は、疾風が先の一件であらゆる勧誘に耳を塞ごうとしている事を察していた。
 そしてその固い心の壁を破壊するダイナマイトとして、相手にとって最大のメリットをあらゆる順序をすっ飛ばして叩き付けた。そうして彼は、疾風を交渉のテーブルへと引き摺り込んだのである。

「…………え、君がって…オレが、レッドバロンとですか??」

 その抜き打ちの一撃を食らった疾風は、豆鉄砲当てられた鳩の様な顔となる。
 更にそれを見た男は、大きく深くわざとらしい程に頷いてみせた。

「ああ。優奈から聞いている、君はレッドバロンと戦いたいんだろ? だから戦わせてあげるよ」

「……いッ、いや急に何ですか? 冗談で言ってるんですよね??」

「いいや、冗談じゃない。実は僕達はバンクエットオブレジェンズのプロチームでね、レッドバロンとプロリーグで戦う事がもう既に決まっているんだ。其処に君をメンバーとして加えて、その目標を達成させてあげようって言っているんだよ。如何だい? 悪い話じゃないだろう?」

「……いや″ッ悪い話じゃないって、それ以前に話が急すぎて付いていけないです。もっと順を追って話してくれないと」



「成程。じゃあ、順を追って話していこうかッ」



 男は、勝利を確信した微笑みと共に、そう更にわざとらしく言った。

 人を言葉で支配しようとする際に立ちはだかる最初で最大の障壁。それはそもそも、話として聞いて貰えるか如何か。

 例えどれだけ素晴らしい言葉を使い、光輝くメリットを示してみてせても、ペテン師の戯言と耳を塞がれてしまえば暖簾に手押し。
 だがその懐へと一度飛び込んでさえしまえば、例え赤子の鳴き声でも容易く人の心を操ることが出来る。

 見る者が見れば分かる。完全に、詐欺師の手口であった。
 そしてその姿を見た優奈の『又やってるよ』という視線を受けながら、男は剥き出しと成った疾風の鼓膜こまくへと言葉を吹き込んでゆく。

「じゃあ先ずは…自分達について話そうか。僕達のチーム名は『ラージボルテックス』。とある大規模大会で優勝して次節からプロリーグ入りを決めたチーム何だけど、諸事情でエースがチームから離脱してしまってね。当然、人数が3人じゃリーグには参戦出来ない。だからここ暫く共に戦ってくれる優れたエースを探していたんだ。そして優奈が偶々、その優れたエースと出会った」

 そう言って男は携帯で何やら検索しだし、その画面を疾風へ見せてきた。

 画面に映っていたのは、『ラージボルテックス関東オフ優勝。プロリーグへと向かうチケットを掴む』と見出しが付けられたニュースサイト。疾風でも知っている有名なサイトで、恐らく本物であろう。

「………言いたい事は何となく分かりました。でも本気で言ってます? 出会って数分しか経ってないオレをチームに引き入れるなんて」

「車の中でも言っただろ、君はそれだけ特別なんだ。あのレッドバロンと拮抗する実力の持ち主なんて、其れこそ多少性格の問題を無視してでもチームに引き込む価値がある。正直言って、僕達は今君が欲しくて欲しくて堪らない。君がウチに入って力を振るってくれるのなら、何を差し出しても構わない程にね」

 そう海斗から無駄のない、疑問の穴にピタリとはまる様な回答を得た疾風は、ようやく思考が冷静に成る。

 彼の言っている通りなら、この言葉に頷くだけで自分は無条件にプロリーグ参加の切符を得る事となる。
 更に、大規模大会で優勝できる程度の実力を持ったチームメイトというオマケ付き。それならば少なくとも、前回エターナルグローリーと戦った時より幾分かマシな戦況でリベンジの場を作れるかも知れない。

 疾風が前向きな方向へと検討し始めた。その事を顔色から察した男は、更に舌撃の勢いを加速させる。

「此方が誘っている以上、当然幾らかのメリットは用意している。それがこの建物。ここは僕達がチームハウスと呼んでいて、ゲームに打ち込むために最適な環境が惜しみなく整えられている。君が僕の手を取ってくれれば此処に住み、その環境の中何ら憂慮する必要もなくレッドバロンの打倒に注力する事ができる。3食付き、各自広い部屋が与えられ、クーラー暖房インターネットも使い放題。当然宿泊費も食費も取らない。如何だい、ゲーマーの住処としてこれ以上無い場所だろ?」

「……人1人にそこまで良い生活を提供出来るって、プロチームってのは随分金払いが良いみたいですね」

「いいや、僕のポケットマネーだ。実は両親が起業家でね、人の一人や二人養う何て屁じゃないレベルの金が有る。それに親は殆ど海外に居るから帰って来ない。最高の環境だろ?」

「………………………ああ、最高だなッ」


 そのまるで絵空事の様な男の説明で、疾風の心は殆ど決まった。
 拒む理由など見つからない。

 きっとスポーツ漫画何かだったら、もっと心揺さぶる熱い理由でチームメンバーを決めるのだろう。
 だが生憎、疾風は競技としてのゲームに大した熱量は持ち合わせていなかった。

 ゲームなんて所詮遊び。唯自分の日常にレッドバロンへのリベンジ以上に面白そうな事が無いからやっているだけ。
 その目標が済めば、きっとこのゲームも噛み終えたガムの如く飽きて捨てるだろう。

 仲間なんて別に誰だって良い。どうせ自分が一番上手いのだ、自分一人で勝ててしまうのだ。
 合わなければ勝手に出て行けば良いだけ。

 それで働きもせず暮らせる日々が手に入り、レッドバロン打倒という目標に近づき、更に妹を自分という呪縛から解放出来る。
 これを如何拒めというのだ。


「……オレの役割は、ただ試合で勝つだけで良いんだよな?」

「ああ、勿論」

「それでお前らが提供してくれるのは、タダ宿と3食のタダ飯と最高の生活環境とゲームをするだけで良い毎日。嘘じゃないよな?」

「ああ、嘘じゃない」
                          ッス

 男が嘘じゃないと言い切るより早く、疾風は彼へと右手を差し出した。それは言うまでも無く、契約成立の証である。

「入るよ。オレ群雲疾風は、…え~っと………ジャージ~」

「ラージボルテックスね、ウチのチーム名」

「…入るよ。オレ群雲疾風はラージボルテックスに入って、お前らに勝利を提供してやる」

 疾風は、男が想像していたよりも案外あっさりと彼が求めていた言葉と動作を示した。
 そして当然彼の方も、拒む理由はない。

「歓迎するよ、群雲疾風。僕達ラージボルテックス、そしてリーダーであるこの僕『相模海斗さがみかいと』が、君をレッドバロンまで導く事を約束しよう」


         グッ


 そして2人の間で、大して熱くもなく固くもない握手が結ばれた。
 互いに互いを利用し合う、唯それだけのシンプルこの上ない関係。
 

 故にこののち、タダ宿としか思っていなかったラージボルテックスというチームの為に自分が命を掛ける事に成るなど、疾風は未だ予感すら感じてはいなかったのであった。

 
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