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第八話 愛の力⑥
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「うああああああんッ、無事で良かった!! 誘拐されたかと思って心配してたんだよ!」
「あははは、ごめんごめん。まあその心配もあながち間違ってないんだけど…………ところで、良くこの場所が分かったな?」
「グスッ……兄妹の愛の力よ」
「なに? 愛の力??」
「うわああああああああああああんッ!!!!」
「あ、ああ!! 愛の力だな、そうだ愛の力だ。兄ちゃんも凪咲が愛の力で迎えに来てくれると信じてたぞ!」
突然この場所を知る由《よし》も無い筈なのに現われ、そして泣きながら抱き付いてきた妹の背を疾風が摩る。そして当然気に成ってくる疑問を尋ねた訳だが、何ともフワッとした回答と泣き声で押し通されてしまった。
美女の泣き声は如何なる説明にも勝るのである。
「あれ、疾風の言ってた妹か? 何で此処が分かった?」
「さあ? でも少なくとも……疾風は自分が思ってる以上に妹さんに好かれてるみたいだね」
海斗は地面で今だ呻き続ける聡太と床に転がった催涙ガスの缶、そして疾風の妹の言葉を聞いて何となく起った事を察する。兄が誘拐されたと思い助けに来た妹が、偶々玄関に出た大男相手に先制攻撃を仕掛けたのだろう。
どうやって此処を探り当てたのかは分からない。
だが本物の誘拐犯が居る可能性を理解した上でこの行動が取れるのは、正しく兄妹の愛の力だろう。
「目がァー! 目がァー!!」
「優奈、ちょっと其処で転がってる大男を洗面所まで連れて行ってやってくれ。多分催涙スプレーだ、擦らずに流水で目を洗えば良くなる」
「了解。おい大佐、何時までムスカの真似してんだ。今日は金曜ロードショーじゃねえぞ」
「これが真似に見えるぅ!? 一体ッ、何が起こったというのだね…」
「ちょっと意識してんじゃねえかッ。…お前は疾風の妹に負けたんだよ。全く情けねえな、鍛え方が足んねえんじゃねえの?」
「目なんて鍛えようが無いだろぉ!!」
「良いからさっさと立て、洗面所行くぞ」
「グスッ、分かった……」
身長180センチ越えの巨体では背負って移動させる訳にもいかない。聡太はまるでサーカスの熊が鞭打たれる様に優奈に蹴られ、ノッソノッソと家の奥へと自分の足で歩いていった。
「所で、お兄ちゃんこそ何でこんな所に居るの? 五時には帰って来るって言ったのにッ」
「ごッごめん、実は携帯落としちゃって時間が分からなく成ってた。今帰ろうとしていた所だったんだよ」
「ふ~ん。じゃあ、此処の人達は?」
「此処の人達? 此処の人達は…」
「初めまして妹さん、僕は疾風の友人の相模海斗と申す者です。実はイベント会場で彼と知り合い、其処で今世紀希に見る様な意気投合を果たして家へ招き話し込んでいる内にこんな時間に。いやーお兄さんを長い時間引き留めてしまって申し分け無い!!」
妹の質問に疾風が、そう言えば此処の人間と自分の関係は何と説明すれば良いのだろうという表情をすると、海斗がすかさす自らを友達だと名乗った。
彼の説明はかなり事実と異なる。だがそれを言っても恐らく妹を混乱させるだけなので、疾風はそのまま黙っている事とした。
「そっかー! 疾風友達出来たんだね、良かったじゃんッ!!」
そしてこの数時間の内に起こっていたとても一言では表せぬ紆余曲折を知らぬ凪咲は、純粋に兄が踏み出した真人間への一歩を喜んだ。
疾風に自分以外の繋がりが出来たのは少し嫉妬を覚る。だが、自分のせいで兄が失った物の一部だけでも元に戻った安堵感はそれを大きく上回ったのである。
「あれ? じゃあ若しかしてさっき私が催涙スプレーを掛けちゃった外国人の方もお兄ちゃんの友達だったの? 如何しようッ、悪い事しちゃった」
「外国人? …………え、あれ凪咲がやったの??」
「うん。疾風を監禁する悪いアルジェリア人かと思って、後で謝らないと」
「…凪咲お前、偶にとんでもなく極端な行動に出るよな。後で兄ちゃんと一緒に謝ろう」
「うん」
外国人、アルジェリア人という呼び方でも疾風は問題なく凪咲が誰の事を言っているのか理解する。
そして幼稚園や小学生の頃に彼女が偶見せていた過激な行動を思い出しながら、兄は一緒に謝ってやると言って妹を抱きしめ返した。
(いつまで抱き合ってるんだろ、この兄妹……)
海斗は余りにベタベタしている2人を見てそう内心呟くが、色々な家庭の形が有るのだろうと口には出さなかった。
そしてまるでこの場には彼ら兄妹しか居ないかの如く、疾風と凪咲の会話は続いてゆく。
「でも、これで疾風私以外にも外出したり遊んだりする人が出来たんだね。貴方の妹は安心しています…」
「何だ、今まで心配してたのか?」
「そりゃあするよ。一日中一人きりで家に引き籠もってる何て健康に悪いし、私は疾風に長生きして貰いたいもん」
「そっか、色々心配掛けたな。それにお前には今まで迷惑も沢山掛けてきた……」
「心配はしてたけど、私は迷惑だ何てッ」
「実はな凪咲、オレ家を出て此処に引っ越そうと思ってるんだ」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?」
疾風の余りに唐突過ぎる発表に、凪咲の目がまるで目尻が引き裂けてしまいそうな程見開かれた。
「あははは、ごめんごめん。まあその心配もあながち間違ってないんだけど…………ところで、良くこの場所が分かったな?」
「グスッ……兄妹の愛の力よ」
「なに? 愛の力??」
「うわああああああああああああんッ!!!!」
「あ、ああ!! 愛の力だな、そうだ愛の力だ。兄ちゃんも凪咲が愛の力で迎えに来てくれると信じてたぞ!」
突然この場所を知る由《よし》も無い筈なのに現われ、そして泣きながら抱き付いてきた妹の背を疾風が摩る。そして当然気に成ってくる疑問を尋ねた訳だが、何ともフワッとした回答と泣き声で押し通されてしまった。
美女の泣き声は如何なる説明にも勝るのである。
「あれ、疾風の言ってた妹か? 何で此処が分かった?」
「さあ? でも少なくとも……疾風は自分が思ってる以上に妹さんに好かれてるみたいだね」
海斗は地面で今だ呻き続ける聡太と床に転がった催涙ガスの缶、そして疾風の妹の言葉を聞いて何となく起った事を察する。兄が誘拐されたと思い助けに来た妹が、偶々玄関に出た大男相手に先制攻撃を仕掛けたのだろう。
どうやって此処を探り当てたのかは分からない。
だが本物の誘拐犯が居る可能性を理解した上でこの行動が取れるのは、正しく兄妹の愛の力だろう。
「目がァー! 目がァー!!」
「優奈、ちょっと其処で転がってる大男を洗面所まで連れて行ってやってくれ。多分催涙スプレーだ、擦らずに流水で目を洗えば良くなる」
「了解。おい大佐、何時までムスカの真似してんだ。今日は金曜ロードショーじゃねえぞ」
「これが真似に見えるぅ!? 一体ッ、何が起こったというのだね…」
「ちょっと意識してんじゃねえかッ。…お前は疾風の妹に負けたんだよ。全く情けねえな、鍛え方が足んねえんじゃねえの?」
「目なんて鍛えようが無いだろぉ!!」
「良いからさっさと立て、洗面所行くぞ」
「グスッ、分かった……」
身長180センチ越えの巨体では背負って移動させる訳にもいかない。聡太はまるでサーカスの熊が鞭打たれる様に優奈に蹴られ、ノッソノッソと家の奥へと自分の足で歩いていった。
「所で、お兄ちゃんこそ何でこんな所に居るの? 五時には帰って来るって言ったのにッ」
「ごッごめん、実は携帯落としちゃって時間が分からなく成ってた。今帰ろうとしていた所だったんだよ」
「ふ~ん。じゃあ、此処の人達は?」
「此処の人達? 此処の人達は…」
「初めまして妹さん、僕は疾風の友人の相模海斗と申す者です。実はイベント会場で彼と知り合い、其処で今世紀希に見る様な意気投合を果たして家へ招き話し込んでいる内にこんな時間に。いやーお兄さんを長い時間引き留めてしまって申し分け無い!!」
妹の質問に疾風が、そう言えば此処の人間と自分の関係は何と説明すれば良いのだろうという表情をすると、海斗がすかさす自らを友達だと名乗った。
彼の説明はかなり事実と異なる。だがそれを言っても恐らく妹を混乱させるだけなので、疾風はそのまま黙っている事とした。
「そっかー! 疾風友達出来たんだね、良かったじゃんッ!!」
そしてこの数時間の内に起こっていたとても一言では表せぬ紆余曲折を知らぬ凪咲は、純粋に兄が踏み出した真人間への一歩を喜んだ。
疾風に自分以外の繋がりが出来たのは少し嫉妬を覚る。だが、自分のせいで兄が失った物の一部だけでも元に戻った安堵感はそれを大きく上回ったのである。
「あれ? じゃあ若しかしてさっき私が催涙スプレーを掛けちゃった外国人の方もお兄ちゃんの友達だったの? 如何しようッ、悪い事しちゃった」
「外国人? …………え、あれ凪咲がやったの??」
「うん。疾風を監禁する悪いアルジェリア人かと思って、後で謝らないと」
「…凪咲お前、偶にとんでもなく極端な行動に出るよな。後で兄ちゃんと一緒に謝ろう」
「うん」
外国人、アルジェリア人という呼び方でも疾風は問題なく凪咲が誰の事を言っているのか理解する。
そして幼稚園や小学生の頃に彼女が偶見せていた過激な行動を思い出しながら、兄は一緒に謝ってやると言って妹を抱きしめ返した。
(いつまで抱き合ってるんだろ、この兄妹……)
海斗は余りにベタベタしている2人を見てそう内心呟くが、色々な家庭の形が有るのだろうと口には出さなかった。
そしてまるでこの場には彼ら兄妹しか居ないかの如く、疾風と凪咲の会話は続いてゆく。
「でも、これで疾風私以外にも外出したり遊んだりする人が出来たんだね。貴方の妹は安心しています…」
「何だ、今まで心配してたのか?」
「そりゃあするよ。一日中一人きりで家に引き籠もってる何て健康に悪いし、私は疾風に長生きして貰いたいもん」
「そっか、色々心配掛けたな。それにお前には今まで迷惑も沢山掛けてきた……」
「心配はしてたけど、私は迷惑だ何てッ」
「実はな凪咲、オレ家を出て此処に引っ越そうと思ってるんだ」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?」
疾風の余りに唐突過ぎる発表に、凪咲の目がまるで目尻が引き裂けてしまいそうな程見開かれた。
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