1 / 31
プロローグ 意味なんか無くとも①
しおりを挟む
金の匂いって、分かるか?
もしも俺と似た境遇、極限の貧困を味わったことのある人間だったら分かるはずだ。嗅いだだけで理性がぶっ飛んでドラッグなんか屁じゃない幸福感と飢えを与えてくれるあの匂いだよ。
十歳の頃、オヤジが有り金ぜんぶ持って何処かへ消えた。殴る蹴るは当たり前の最低野郎だったから物心付く前に母親も失踪している、つまり俺は孤立無援の捨て子に成った訳だ。
初めはそんなクソ父親が居なくなって済々したよ。でも直ぐに地獄を味わう事になる。金がない、そんなたった四文字で表せる事がどれ程最悪で致命的かという事を思い知らされた。
家には食える物何て碌に残っておらず、直ぐに凄まじい空腹に蝕まれる事になる。
だが俺は度し難い事に街へ出て助けを求めれば、手を伸ばせば優しい誰かがその手を掴んでくれる何て幻想を抱く甘ったれたガキだった。結果は当然権力も金もない子供の貧相な手など誰も掴んではくれず、水道水だけのゲロに塗れて転がる汚いガキなんて街行く大人達は視界にさえ入れようとしなかったのだ。
しかしそんな絶望のただ中で最後に縋ったモノがあった。昔拾った漫画に描いてあったのである、本当に苦しい時空からヒーローがマントを翻かせて舞い降りどんなピンチからも救い出してくれると。
まあ、それは結局フィクション世界の中だけの話だった訳だが。
『マネージャー、この書類のチェックをお願いします』
あの時どうやって生きながらえたのかは意識が混濁していて明確では無いが、確か金持ちの家の飼犬と喧嘩して餌を奪ったんだった気がする。
だが別にこれを悲しい身の上話として話すつもりはない。寧ろ今は感謝してる位だ。
重要なのは二つ。一つがそれのお蔭でこの世は金が全てであると気付けた事。もう一つが十数年が過ぎた現在、街の一等地に聳え立つビルにオフィスを構える外資系金融にて使えない部下と不本意な残業をしているという事だ。
三秒で渡された書類に目を通し、赤ペンで不適切な箇所に線を引いて改善案を示し部下に突き返す。
目の前の女性はつい数日前に研修を終えて自分の部署に配属されてきた新人。どうやら幼少期に事故に巻き込まれて下半身不随になったらしく、現在は車椅子で勤務している。
正直容量が悪くて困っているのだが、ハンデキャップ持ちという事もあって他の者達では厳しく指導する事が出来ない。其処でマネージャーである自分が嫌われ役、そして共に残業をしてロスの穴を埋める役を買って出ている。
上が評価するのは部署全体の成績であり、その成績が悪かった場合に責任を取らされるのは部署の長である自分。それ故正直全て自分でやった方が早いのだが、一刻も早く他部署に戦力的差を付ける為睡眠時間を新人教育に捧げているのだ。
手段を選ばず畜生以下の生活をして命を繋ぎ、奨学金を奪い合う血みどろの戦いを制して大学に入学し今の職に就いた。そして邪魔する者を迷わず排除し一人で道を切り開いて手に入れた史上最年少マネージャーの肩書き。
その今までの過酷な日々を思い出せば、残業の疲れも多少和らぐ気がした。
趣味はと聞かれれば年収を上げる事だと答える、特技はと聞かれても年収を上げる事だと答える。座右の銘はリッチオアダイ、タイムイズマネー。年収だけが唯一人間を客観的に測る事の出来る指標。この数値を上げる以外に生きる理由など存在するのだろうか?
此れは復讐である、あの時手を掴んでくれなかった世界に対する。小銭一枚でも多く金を稼ぎ、一人でも多くの人間を見下してやるのだ。その為に手段は択ばない、他人を蹴落としのし上がる。
だが一先ず今は、明日のプレゼンに使うパワポや資料を人前に出せるレベルまで修正しなくてはならない。
本当に無能な部下を持つと大変である。
ッドオオオオオオオオオオオオオォォォォォン!!
突如ビル全体が上に跳ね上げられる様に揺れた。
もしも俺と似た境遇、極限の貧困を味わったことのある人間だったら分かるはずだ。嗅いだだけで理性がぶっ飛んでドラッグなんか屁じゃない幸福感と飢えを与えてくれるあの匂いだよ。
十歳の頃、オヤジが有り金ぜんぶ持って何処かへ消えた。殴る蹴るは当たり前の最低野郎だったから物心付く前に母親も失踪している、つまり俺は孤立無援の捨て子に成った訳だ。
初めはそんなクソ父親が居なくなって済々したよ。でも直ぐに地獄を味わう事になる。金がない、そんなたった四文字で表せる事がどれ程最悪で致命的かという事を思い知らされた。
家には食える物何て碌に残っておらず、直ぐに凄まじい空腹に蝕まれる事になる。
だが俺は度し難い事に街へ出て助けを求めれば、手を伸ばせば優しい誰かがその手を掴んでくれる何て幻想を抱く甘ったれたガキだった。結果は当然権力も金もない子供の貧相な手など誰も掴んではくれず、水道水だけのゲロに塗れて転がる汚いガキなんて街行く大人達は視界にさえ入れようとしなかったのだ。
しかしそんな絶望のただ中で最後に縋ったモノがあった。昔拾った漫画に描いてあったのである、本当に苦しい時空からヒーローがマントを翻かせて舞い降りどんなピンチからも救い出してくれると。
まあ、それは結局フィクション世界の中だけの話だった訳だが。
『マネージャー、この書類のチェックをお願いします』
あの時どうやって生きながらえたのかは意識が混濁していて明確では無いが、確か金持ちの家の飼犬と喧嘩して餌を奪ったんだった気がする。
だが別にこれを悲しい身の上話として話すつもりはない。寧ろ今は感謝してる位だ。
重要なのは二つ。一つがそれのお蔭でこの世は金が全てであると気付けた事。もう一つが十数年が過ぎた現在、街の一等地に聳え立つビルにオフィスを構える外資系金融にて使えない部下と不本意な残業をしているという事だ。
三秒で渡された書類に目を通し、赤ペンで不適切な箇所に線を引いて改善案を示し部下に突き返す。
目の前の女性はつい数日前に研修を終えて自分の部署に配属されてきた新人。どうやら幼少期に事故に巻き込まれて下半身不随になったらしく、現在は車椅子で勤務している。
正直容量が悪くて困っているのだが、ハンデキャップ持ちという事もあって他の者達では厳しく指導する事が出来ない。其処でマネージャーである自分が嫌われ役、そして共に残業をしてロスの穴を埋める役を買って出ている。
上が評価するのは部署全体の成績であり、その成績が悪かった場合に責任を取らされるのは部署の長である自分。それ故正直全て自分でやった方が早いのだが、一刻も早く他部署に戦力的差を付ける為睡眠時間を新人教育に捧げているのだ。
手段を選ばず畜生以下の生活をして命を繋ぎ、奨学金を奪い合う血みどろの戦いを制して大学に入学し今の職に就いた。そして邪魔する者を迷わず排除し一人で道を切り開いて手に入れた史上最年少マネージャーの肩書き。
その今までの過酷な日々を思い出せば、残業の疲れも多少和らぐ気がした。
趣味はと聞かれれば年収を上げる事だと答える、特技はと聞かれても年収を上げる事だと答える。座右の銘はリッチオアダイ、タイムイズマネー。年収だけが唯一人間を客観的に測る事の出来る指標。この数値を上げる以外に生きる理由など存在するのだろうか?
此れは復讐である、あの時手を掴んでくれなかった世界に対する。小銭一枚でも多く金を稼ぎ、一人でも多くの人間を見下してやるのだ。その為に手段は択ばない、他人を蹴落としのし上がる。
だが一先ず今は、明日のプレゼンに使うパワポや資料を人前に出せるレベルまで修正しなくてはならない。
本当に無能な部下を持つと大変である。
ッドオオオオオオオオオオオオオォォォォォン!!
突如ビル全体が上に跳ね上げられる様に揺れた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
【時代小説】 黄昏夫婦
蔵屋
歴史・時代
江戸時代、東北地方の秋田藩は貧かった。
そんな中、真面目なひとりの武士がいた。同僚からは馬鹿にされていたが真面目な男であった。俸禄は低く貧しい。娘二人と実母との4人暮らし。
秋田藩での仕事は勘定方である。
仕事が終わると真っ直ぐ帰宅する。
ただひたすら日中は城中では勘定方の仕事をまじめにして、帰宅すれば論語を読んで知識を習得する。
そんな毎日であった。彼の名前は立花清左衛門。年齢は35歳。
娘は二人いて、一人はとめ15歳。もう一人は梅、8歳。
さて|黄昏《たそがれ》は、一日のうち日没直後、雲のない西の空に夕焼けの名残りの「赤さ」が残る時間帯のことを言う。「|黄昏時《たそがれどき)」。 「黄昏れる《たそがれる》」という動詞形もある。
「たそがれ」は、江戸時代になるまでは「たそかれ」といい、「たそかれどき」の略でよく知られていた。夕暮れの人の顔の識別がつかない暗さになると誰かれとなく、「そこにいるのは誰ですか」「誰そ彼(誰ですかあなたは)」とたずねる頃合いという意味で日常会話でよく使われた。
今回の私の小説のテーマはこの黄昏である。
この風習は広く日本で行われている。
「おはようさんです」「これからですか」「お晩でございます。いまお帰りですか」と尋ねられれば相手も答えざるを得ず、互いに誰であるかチェックすることでヨソ者を排除する意図があったとされている。
「たそかれ」という言葉は『万葉集』に
誰そ彼と われをな問ひそ 九月の 露に濡れつつ 君待つわれそ」
— 『万葉集』第10巻2240番
と登場するが、これは文字通り「誰ですかあなたは」という意味である。
「平安時代には『うつほ物語』に「たそかれどき」の用例が現れ、さらに『源氏物語』に
「寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 夕顔の花」
— 『源氏物語』「夕顔」光源氏
と、現在のように「たそかれ」で時間帯を表す用例が現れる。
なおこの歌は、帖と登場人物の名「夕顔」の由来になった夕顔の歌への返歌である。
またこの言葉の比喩として、「最盛期は過ぎたが、多少は余力があり、滅亡するにはまだ早い状態」をという語句の用い方をする。
漢語「|黄昏《コウコン》」は日没後のまだ完全に暗くなっていない時刻を指す。「初昏」とも呼んでいた。十二時辰では「戌時」(午後7時から9時)に相当する。
「たそがれ」の動詞化の用法。日暮れの薄暗くなり始めるころを指して「空が黄昏れる」や、人生の盛りを過ぎ衰えるさまを表現して「黄昏た人」などのように使用されることがある。
この物語はフィクションです。登場人物、団体等実際に同じであっても一切関係ありません。
それでは、小説「黄昏夫婦」をお楽しみ下さい。
読者の皆様の何かにお役に立てれば幸いです。
作家 蔵屋日唱
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる