ファニーエイプ

NEOki

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第二話 プロフェッサーディック①

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 此処はベスプッチ共和国のニューディエゴ市。国内で最も人口が集中する都市であり、嘗て国内犯罪の四分の一が発生していた曰く付きの都市である。

 元々土地が安い事と日雇い労働系の仕事が集中している程度の特徴しかなかった田舎町であったが、国の労働力人口減少対策として大量の移民が流れ込み人口が爆発、一転大都市へと変貌した。

 その余りに急な人口増加に公権力は対応出来ず、多数の犯罪組織やテロ組織、麻薬カルテルの誕生を許してしまう。その結果人口増加に比例して街の治安も悪化し、犯罪組織側が完全に警察の力を凌駕するという正しく無法地帯となった過去を持つ。



 その現状を変えたのが突如現われたスーパーヒーロー、ルネフォンス・ハルトマンその人である。ハルトマンは神の如き力を用い警察ですら太刀打ちできなかった犯罪組織と己の身一つで戦い、そして壊滅させた。

 そのまるで映画の世界から飛び出して来た様な活躍は悪の強さと正義の貧弱さに意気消沈していた市民の光となり、彼が街の、国家の英雄となるまで多くの時間は要さなかった。



 五年という長い年月は掛かったもののハルトマンは主要な犯罪組織を撲滅し、街に平和をもたらした事で一度引退。しかし世界は彼に安寧を許すことは無く、直ぐに次の戦いが待ち受けていたのだ。

 悪のカリスマ、プロフェッサーディックの登場である。

 自らヴィランを名乗り個で警察を圧倒する超兵器を手にした新たな悪の登場は、ハルトマンを表舞台へと引き戻した。そしてそれから八年が流れた現在、戦績はハルトマンが全戦全勝。それでも毎回ディックが逃走を成功させ逮捕には至っていない。



 だがしかし今夜、遂にその悪のカリスマに年貢の納め時が迫っていた。



「クソ、がッ……頭がクラクラする。パワードスーツもオシャカになった。此れはいよいよ……本気でキツなってきたでッ」



 薄暗いネオンの光がぼんやりと照らす路地裏を、酷く弱った様子の中年男性がヨタヨタと歩いている。彼こそがハルトマンの宿敵、プロフェッサーディック。

 しかしそのマスクが消えた顔にはシワが深く刻まれ、何処にでも居る唯の人間にしか見えない。



ウウウウウゥゥゥゥ……



 そう遠くない所からパトカーのサイレンが聞こえた。テロリストである彼を捕らえる為の捜査網が迫ってきているのだ。



「もう嗅ぎつけて来おったか……まあ、あれだけ派手に不時着すれば当然か」



 ディックはハルトマンに殴り飛ばされた後空中で意識を取り戻し、サーフボードの体勢を立て直す事には成功したが流石に再浮上は叶わなかった。

 その結果が派手な不時着。数千万を投じて作ったマシンが一瞬でジャンクに化けた。数百万を投じ作ったスーツも完全に黙りこくり、今は肉体への干渉を全く感じられない。



「一瞬で数千万が唯の鉄くずに成りおった……フッ、此処まで来ると最早錬金術やで」



 この時は未だ冗談を言う余裕が残っていた。

 しかし聴覚が此方へと向かってくる足音を捉えた途端顔色が真っ青に染まる。幾ら派手に不時着したとてこの街の職務怠慢が服を着て歩いてる様な警官に捕まる訳がないとたかを括っていたが、その当てが外れたのだ。

 何故か今日に限って警察の動きが異様に速かったのである。



「……ッ!? 居たぞッ。容疑者発見、容疑者発見!!」



 予測と現実に大きなズレが有ったと気付くも既に手遅れ、悲鳴を上げる身体に鞭打って逃走の足を速めたディックの背中を警官の怒声が叩いた。そしてダダダダダッというアスファルトを蹴る音が迫って来る。



 今の彼は悪のカリスマどころか並の成人男性程の力すら持ち合わせていなかった。武器は無く、今までの古傷が積み重なりスーツの補助無しでは歩く事すらままならない状態。

 見つかった時点で万事休すに等しい。



「グウッ…………クソッ、クソがああああああああッ!!」



 この期に及んで往生際悪く、とうの昔に壊れて使い物にならなくなった足で強引に逃走を続けようとする。

 しかし意志だけではどうしようも無かった。左足を地面に付けだけで全身の筋肉が氷付く程の痛みが走り、注ぎ込んだ力が霧散していく。

 走るどころか壁に寄りかからず立つ事すら出来なかったのである。



「おい、無駄な抵抗は止めろ。お前の悪事もこれまでだプロフェッサーディック、大人しく両手を差し出せ!!」



 顎から地面に転倒したディックの直ぐ頭上から遂に追い付いてきた警官の声がした。

 しかしそんな声など聞こえんと言わんばかりに匍匐前進で芋虫の様に進み続ける。当然それで逃げ切れる訳が無く手錠を掛けようと手が伸びてくるが、その手へ更に噛みつき抵抗を重ねる。

 今自分が消える訳にはいかない、その思い一つで醜く藻掻き続けた。



「調子に乗るなよッ……犯罪者不在が手間取らせやがって!!」



 だがその抵抗も虚しく怒りに火が付いた警官の蹴りを五発頭部にもらい、強制的に黙らされてしまった。

 元々ジャンク同然であった身体に衝撃が重く沈み込んでくる。意志は依然折れていない、しかしそれに応える部分が壊れてしまったらしい。

 ジタバタ這って逃げようとするが、頭が霧ががかった様にぼやけ手足が異様に重かった。



「カァ……グッガ、アァ…………」



 訳の分からない音を口から吐き、最大限瞳に力を込めて警官を睨むのが今のディックに出来る最大限の抵抗。しかしボロ雑巾の様に成った彼の姿には威厳もクソもなく、僅かすら時間稼ぎにならない。

 これがシャバ最後の景色か、そう思いながら朦朧とした意識の中自らの手に掛けられる手錠の鈍い輝きを睨み付けたのだった。






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