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第二話 プロフェッサーディック②
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「ウッ、アアァッ! アッ……」
しかし手錠が完全に掛かる寸前、警官が突如青色の光に包まれ痙攣で揺れる呻き声を上げた。
「大丈夫ですかッ、プロフェッサーディック!!」
警官の倒れるドサッという音の直後に聞き慣れない青臭い声が聞こえた。
その声がこの場にいる筈の無い少年の声に聞こえて闇に呑まれかけていた意識が戻ってくる。しかし現われたのは全く見ず知らずの炎の様に赤い髪をした青年で、声もよくよく聞くと違っていた。
だが、そんな事構いはしない。この絶望的状況から脱出できる可能性があるのなら悪魔だろうが鬼だろうが縋り付くまでだ。
「肩をッ貸してくれ……足に、力がッ、入らんのや……」
ディックは感謝の言葉も無く名も聞かず自分を助けろと不躾に言った。
青年はその態度に怒りを覚えたのか、若しくはディックの口調と顔に衝撃を受けたのか数秒固まる。しかし結局は言われたとおりに肩を貸してくれた。
これで何とか動く事は可能になった、だが依然として移動するスピードはナメクジと良い勝負。これで周囲を取り囲んでいる警察から逃げ切れると思える程楽観主義では居られない。
「何処か……身を隠せる所へ。一晩やり過ごせれば、何とか…なるッ」
「身を隠せる場所ですね! この近くにオレの家があります、其処じゃ駄目ですか?」
「オレの、家? ……駄目や、君と君の家族に迷惑を掛ける事にッなる」
「問題無いですよ、家族居ないんで。それに迷惑だって望む所です! オレ貴方に憧れてるんです。今日だってこのショックガンを見せッ……」
問題無い訳がない。どうやらこの青年は若さ故にプロフェッサーディックという存在に関わっている今の現状がどれ程危険なのか理解していないらしい。
万が一自分の逃走に手を貸したなどと知られればこの国の情報に繋がれる人間全てを敵に回す事となる。そうなれば今この時だけでなく、彼の人生全体に渡って致命的な影響を与えてしまうだろう。
これ以上この青年を自分の罪に巻き込むわけにはいかない。関わってはいけない。
だがそんな思いとは裏腹に、彼の役立たずな頭脳はその選択肢を取る以外この窮地を脱する方法は無いと身勝手な結論を出していた。
「……済まん、一晩だけ君の家に匿ってくれ。礼は後で必ずッする」
「はい! 喜んで!!」
ディックは苦虫を噛み潰した様な顔で懇願し、青年は満面の笑みでその言葉に応える。
己の身惜しさに若者を利用する事に対して強い自己嫌悪を覚えた。しかし今だ役を継いでくれる人間が見つかっていない以上自分が此処で消える訳にはいかない。
その二つの相容れぬ感情を天秤に掛け、そして後者に傾いた結果が今の発言であった。
今回の件に関する埋め合わせは必ずしよう、そして彼のこの先長い人生に対する可能な限りのサポートをしよう。そう言い訳の様に考えていると本当に直ぐ青年の家へと到着した。
「気にせず上がってください。今晩は自分の家だと思って自由に使ってくださいね」
そう言われて視線を上げ、目に飛び込んできたのは別の意味で気を遣う建物。
それは最低限度の装飾すらされておらず、家というよりも倉庫に近い作りをしていた。錆色のトタンと亀裂の走ったボロボロのコンクリートだけで作られた建造物。
しかし今は返って好都合、目立たない最高の隠れ家である。ディックは言われたとおり遠慮せず中へ上がり、そして一面訳の分からない機械部品や金属の切れ端で埋め尽くされた部屋に通された。
そして促されるまま何か物を退かして作られたスペースに横に成る。
冷たく堅いコンクリートの床に直寝、布団は薄いタオルケット一枚だというのにまるで超高級ベッドに身を預けているかの如き寝心地。疲労こそがこの世界に存在する最高の寝具であると実感し、直ぐに瞼が降ってくる。
素性の知らない初対面の他人の家でこれ以上ない程無防備な状態を晒してしまう、そんなリスクを些事として流せる程の眠気に襲われディックは夢の世界へと真っ逆さまに落ちて行ったのだった。
しかし手錠が完全に掛かる寸前、警官が突如青色の光に包まれ痙攣で揺れる呻き声を上げた。
「大丈夫ですかッ、プロフェッサーディック!!」
警官の倒れるドサッという音の直後に聞き慣れない青臭い声が聞こえた。
その声がこの場にいる筈の無い少年の声に聞こえて闇に呑まれかけていた意識が戻ってくる。しかし現われたのは全く見ず知らずの炎の様に赤い髪をした青年で、声もよくよく聞くと違っていた。
だが、そんな事構いはしない。この絶望的状況から脱出できる可能性があるのなら悪魔だろうが鬼だろうが縋り付くまでだ。
「肩をッ貸してくれ……足に、力がッ、入らんのや……」
ディックは感謝の言葉も無く名も聞かず自分を助けろと不躾に言った。
青年はその態度に怒りを覚えたのか、若しくはディックの口調と顔に衝撃を受けたのか数秒固まる。しかし結局は言われたとおりに肩を貸してくれた。
これで何とか動く事は可能になった、だが依然として移動するスピードはナメクジと良い勝負。これで周囲を取り囲んでいる警察から逃げ切れると思える程楽観主義では居られない。
「何処か……身を隠せる所へ。一晩やり過ごせれば、何とか…なるッ」
「身を隠せる場所ですね! この近くにオレの家があります、其処じゃ駄目ですか?」
「オレの、家? ……駄目や、君と君の家族に迷惑を掛ける事にッなる」
「問題無いですよ、家族居ないんで。それに迷惑だって望む所です! オレ貴方に憧れてるんです。今日だってこのショックガンを見せッ……」
問題無い訳がない。どうやらこの青年は若さ故にプロフェッサーディックという存在に関わっている今の現状がどれ程危険なのか理解していないらしい。
万が一自分の逃走に手を貸したなどと知られればこの国の情報に繋がれる人間全てを敵に回す事となる。そうなれば今この時だけでなく、彼の人生全体に渡って致命的な影響を与えてしまうだろう。
これ以上この青年を自分の罪に巻き込むわけにはいかない。関わってはいけない。
だがそんな思いとは裏腹に、彼の役立たずな頭脳はその選択肢を取る以外この窮地を脱する方法は無いと身勝手な結論を出していた。
「……済まん、一晩だけ君の家に匿ってくれ。礼は後で必ずッする」
「はい! 喜んで!!」
ディックは苦虫を噛み潰した様な顔で懇願し、青年は満面の笑みでその言葉に応える。
己の身惜しさに若者を利用する事に対して強い自己嫌悪を覚えた。しかし今だ役を継いでくれる人間が見つかっていない以上自分が此処で消える訳にはいかない。
その二つの相容れぬ感情を天秤に掛け、そして後者に傾いた結果が今の発言であった。
今回の件に関する埋め合わせは必ずしよう、そして彼のこの先長い人生に対する可能な限りのサポートをしよう。そう言い訳の様に考えていると本当に直ぐ青年の家へと到着した。
「気にせず上がってください。今晩は自分の家だと思って自由に使ってくださいね」
そう言われて視線を上げ、目に飛び込んできたのは別の意味で気を遣う建物。
それは最低限度の装飾すらされておらず、家というよりも倉庫に近い作りをしていた。錆色のトタンと亀裂の走ったボロボロのコンクリートだけで作られた建造物。
しかし今は返って好都合、目立たない最高の隠れ家である。ディックは言われたとおり遠慮せず中へ上がり、そして一面訳の分からない機械部品や金属の切れ端で埋め尽くされた部屋に通された。
そして促されるまま何か物を退かして作られたスペースに横に成る。
冷たく堅いコンクリートの床に直寝、布団は薄いタオルケット一枚だというのにまるで超高級ベッドに身を預けているかの如き寝心地。疲労こそがこの世界に存在する最高の寝具であると実感し、直ぐに瞼が降ってくる。
素性の知らない初対面の他人の家でこれ以上ない程無防備な状態を晒してしまう、そんなリスクを些事として流せる程の眠気に襲われディックは夢の世界へと真っ逆さまに落ちて行ったのだった。
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