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第八話 夕暮れの貧民街③
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「ハアッ、ハアッ、疲れ…たぁ………何でオレいい歳してガキと本気のケイドロ何てしてんだろ?」
フートは息が切れ頭痛がする頭を地面に預けて寝転がる。
少し先ではニカの操る電動キックボードに子供達が乗り、ティナも飛び跳ねてはしゃいでいた。ティナはフート同様つい先程まで全力疾走を行っていた筈なのに、今も何ら変わらず笑顔を振りまいている。
全く子供の体力とは底なしだ、一体あの小さな身体の何処にそんなエネルギーが蓄えられているというのだろうか。少なくとも自分はもう走れそうにない。
そんな事を思いながらフートは目だけを動かす。だが、唯黙って一切屈託なく笑う子供達を眺めるのも案外悪くはないなとも思ったのだ。
「良い笑顔ね。ティナも他の子も、本当に良く笑うように成った」
全く不意の声にフートは慌てて飛び起き、そしてその声の方へと顔を向ける。すると其処には雲の無い夜の満月が如き表情で子供達を眺めるミコさんの姿があった。
声を聞くまで全く気配を感じず、驚き呆気に取られたフートは数度口をパクパクさせてから漸く声が出る。
「ミコさんッ、来てたんですね」
「ええ、三人とも余りに帰りが遅いから様子を見に来たの。もうとっくに七時超えてるわよ?」
「えッ!? あ、済みません、遊びに夢中になってて気付かなかった」
「良いのよ、代わりにこんな良い物を見れたんだもの。こんな景色だったら私だって時間を忘れちゃうわ」
まるであそこに居る一人一人が自らの血肉を分けた実子であるかの様にミコさんはしみじみと言った。今まで一人で生きてきて嘘には人一倍敏感なフートであったが、彼女の声には偽りの匂いも偽善者特有の建前の匂いも感じられない。
「フート君、やっぱり大人は嫌い?」
突如飛んできた弾丸ストレートにフートは驚愕する。
大人が嫌いか、その問に対する答えは間違い無くYESであった。自分を捨てた親が憎い、自分を評価しなかった教師が憎い、自分を見ようとしない社会が憎い。
この気持ちはきっとどれだけ時間が流れたとして消える物では無いだろう。自分、フートという人間はその感情を全ての土台としてその上に形勢されてきたのだから。それを否定してしまっては全てが根底から崩れてしまう。
だがしかしその確固たる事実を声にする事をフートは躊躇った。当たり前だ、此処で大人が嫌いだと言う事はそのままミコさんを嫌いだと言うのと同じなのだから。
彼女には世話に成っている何てレベルではない。突然現われた部外者である自分を暖かく受け入れてくれた、一人のままで居ようとしていた自分を引き留めてくれた。彼女がいなければ自分は今も胸が空っぽのままだったのだ。
ミコさんには産みの親以上の恩がある、その彼女を傷つける言葉など口が裂けたとしても言える訳が無い。
「別に、嫌いじゃ無いです……」
「フフッ、別に隠さなくてもいいのに。優しいのね」
何となく彼女には嘘が通じない気がしていたが、やはり心の内を見透かされてしまった。逆に傷つけてしまっただろうか?
それに此れは優しさではない。優しいとはきっとミコさんの様な、誰も憎まず全てを包み込んでくれるそんな………
「別に誰かを嫌っても良いのよ、誰かを誰かより優先しても良いの。私にも嫌いな人間くらい居るもの」
また心を見透かされた気がする。
そして意外だった、まさかミコさんに嫌いな人間が居るとは思いもしなかったのだ。
彼女は何時もニコニコしていて、誰にでも愛情深く穏やかな態度で応じる。その姿を見て偶に身勝手な意地に拘り続けている自分が酷く幼稚な存在に思える時があったのだ。彼女が違和感を覚えたとしたら恐らくこの劣等感が滲み出た対応の差であろう。
だがしかし、ミコさんにも嫌いな人間はいるという。なんというか余り良い事とは言えないかも知れないが、少し心が軽くなった気がした。
「意外でしたッ。ミコさんが人を嫌ってる所なんて想像できない」
「そう? 私そんなに大層な人間じゃないのよ。それにもし人を好きになる事が掛け替えのない事だとしたら、誰かを嫌う事だって掛け替えのない自分の一部だと思わない?」
「………そう、ですかね?」
「きっとそうよ。でもねフート君、私は一つだけ大切にしてる事が有るの。それは嫌いな人より多く、出来るなら嫌いな人の一万倍好きな人を作る事。だって絶対嫌いな人を数えるよりも好きな人を数える方が楽しいもの」
「それは分かります」
「フフッ、良かった。人間は見たい物だけ見る事が出来る生き物。だから例えこの世界の99%が嫌いな物でも、1%の好きな物があれば幸せで居られる。その1%だけ、見たい物だけ見ればこの世界はきっと素晴らしい所」
ミコさんは唯の音にしては余りに重い言葉を発し、そしてフートに穏やかで透き通った瞳を向ける。フートはその人生の殆どで人間の醜い部分を見てきた。だが確かに短いこの一瞬だけで、間違い無く此処は良い所だと思う事が出来たのだから不思議である。
そんな戸惑った表情にミコさんはクスリッと笑い視線を再び子供達へ向けた。
フートは息が切れ頭痛がする頭を地面に預けて寝転がる。
少し先ではニカの操る電動キックボードに子供達が乗り、ティナも飛び跳ねてはしゃいでいた。ティナはフート同様つい先程まで全力疾走を行っていた筈なのに、今も何ら変わらず笑顔を振りまいている。
全く子供の体力とは底なしだ、一体あの小さな身体の何処にそんなエネルギーが蓄えられているというのだろうか。少なくとも自分はもう走れそうにない。
そんな事を思いながらフートは目だけを動かす。だが、唯黙って一切屈託なく笑う子供達を眺めるのも案外悪くはないなとも思ったのだ。
「良い笑顔ね。ティナも他の子も、本当に良く笑うように成った」
全く不意の声にフートは慌てて飛び起き、そしてその声の方へと顔を向ける。すると其処には雲の無い夜の満月が如き表情で子供達を眺めるミコさんの姿があった。
声を聞くまで全く気配を感じず、驚き呆気に取られたフートは数度口をパクパクさせてから漸く声が出る。
「ミコさんッ、来てたんですね」
「ええ、三人とも余りに帰りが遅いから様子を見に来たの。もうとっくに七時超えてるわよ?」
「えッ!? あ、済みません、遊びに夢中になってて気付かなかった」
「良いのよ、代わりにこんな良い物を見れたんだもの。こんな景色だったら私だって時間を忘れちゃうわ」
まるであそこに居る一人一人が自らの血肉を分けた実子であるかの様にミコさんはしみじみと言った。今まで一人で生きてきて嘘には人一倍敏感なフートであったが、彼女の声には偽りの匂いも偽善者特有の建前の匂いも感じられない。
「フート君、やっぱり大人は嫌い?」
突如飛んできた弾丸ストレートにフートは驚愕する。
大人が嫌いか、その問に対する答えは間違い無くYESであった。自分を捨てた親が憎い、自分を評価しなかった教師が憎い、自分を見ようとしない社会が憎い。
この気持ちはきっとどれだけ時間が流れたとして消える物では無いだろう。自分、フートという人間はその感情を全ての土台としてその上に形勢されてきたのだから。それを否定してしまっては全てが根底から崩れてしまう。
だがしかしその確固たる事実を声にする事をフートは躊躇った。当たり前だ、此処で大人が嫌いだと言う事はそのままミコさんを嫌いだと言うのと同じなのだから。
彼女には世話に成っている何てレベルではない。突然現われた部外者である自分を暖かく受け入れてくれた、一人のままで居ようとしていた自分を引き留めてくれた。彼女がいなければ自分は今も胸が空っぽのままだったのだ。
ミコさんには産みの親以上の恩がある、その彼女を傷つける言葉など口が裂けたとしても言える訳が無い。
「別に、嫌いじゃ無いです……」
「フフッ、別に隠さなくてもいいのに。優しいのね」
何となく彼女には嘘が通じない気がしていたが、やはり心の内を見透かされてしまった。逆に傷つけてしまっただろうか?
それに此れは優しさではない。優しいとはきっとミコさんの様な、誰も憎まず全てを包み込んでくれるそんな………
「別に誰かを嫌っても良いのよ、誰かを誰かより優先しても良いの。私にも嫌いな人間くらい居るもの」
また心を見透かされた気がする。
そして意外だった、まさかミコさんに嫌いな人間が居るとは思いもしなかったのだ。
彼女は何時もニコニコしていて、誰にでも愛情深く穏やかな態度で応じる。その姿を見て偶に身勝手な意地に拘り続けている自分が酷く幼稚な存在に思える時があったのだ。彼女が違和感を覚えたとしたら恐らくこの劣等感が滲み出た対応の差であろう。
だがしかし、ミコさんにも嫌いな人間はいるという。なんというか余り良い事とは言えないかも知れないが、少し心が軽くなった気がした。
「意外でしたッ。ミコさんが人を嫌ってる所なんて想像できない」
「そう? 私そんなに大層な人間じゃないのよ。それにもし人を好きになる事が掛け替えのない事だとしたら、誰かを嫌う事だって掛け替えのない自分の一部だと思わない?」
「………そう、ですかね?」
「きっとそうよ。でもねフート君、私は一つだけ大切にしてる事が有るの。それは嫌いな人より多く、出来るなら嫌いな人の一万倍好きな人を作る事。だって絶対嫌いな人を数えるよりも好きな人を数える方が楽しいもの」
「それは分かります」
「フフッ、良かった。人間は見たい物だけ見る事が出来る生き物。だから例えこの世界の99%が嫌いな物でも、1%の好きな物があれば幸せで居られる。その1%だけ、見たい物だけ見ればこの世界はきっと素晴らしい所」
ミコさんは唯の音にしては余りに重い言葉を発し、そしてフートに穏やかで透き通った瞳を向ける。フートはその人生の殆どで人間の醜い部分を見てきた。だが確かに短いこの一瞬だけで、間違い無く此処は良い所だと思う事が出来たのだから不思議である。
そんな戸惑った表情にミコさんはクスリッと笑い視線を再び子供達へ向けた。
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